ユニバーサル・シアターを全国に!

 7月に入りました。体温を超える暑さに地面に近い子どもたちの体調のケアが叫ばれています。小さな動物たちも同じ。政府からの指示を待つのではなく、五感を使って自分の身体も他者の身体も気遣いたいです。

 さて、昨日から都内にある「日本で一番小さい映画館」で上映がスタートしました!

このラインナップに気骨を感じます!
「チュプキ」はアイヌ語。意味は調べてみてください。そしてMotion Galleryのクラファン、覗いてみてくだいね!

 ここは小さいだけではありません。なんと、日本初のユニバーサル・シアターなんです。つまり、「日本で一番優しい映画館」。

 独自に字幕と音声ガイドを付けてくださって、料金は一般で1500円。予約はサイトや電話ですが、支払いは当日なので、突然具合が悪くなったときはキャンセルもできます。しかも、キャンセル待ちを受け付けていて、その方々に順番に連絡メールが行くという細やかさ。

 昨日は20名の定員いっぱい。キャンセル待ちの方もたくさんいらしたとか。そのキャンセル待ちが前日に叶って、かつて専門学校で音楽ライターコースの講師をしていた頃の教え子も観にきてくれました。

 18分と限られた時間のトーク。まず「なぜ、この映画を撮ったのか」を話したら9分が経過してしまい、その後慌てて残りの時間、お客様からの質問を受けました。

 原発も再生可能エネルギーもダメだと思うけれど、どうしたらいいか?

 学校の校庭の木が弱っていく。自然を相手にすると管理する大人の中にも対立が生まれかねない。どうしたら?

 簡単には答えられない質問ですが、二者択一じゃなく、また、対立構造でなく、新たな方向性を見出していくしかないと話しながら思いました。

 電気が足りないから原発回帰ではなく、森林を伐採してメガソーラーを張り巡らすのでもなく、循環を生み出すことで短絡的な思考からはみ出していく。駐車場のアスファルトを有機アスファルトに変えたり、コンクリートの際に溝や穴を掘ることで天然のラジエーター機能が回復することを五感で確認していきたい。

 そもそも、自然界は見事な循環で成り立っているのに、事を複雑に、歪にしたのは人間。人間同士の対立は循環にはつながらない。いい悪い、のどちらかに立つのではなく、どちらも足りない、という前提で、足りないところを補い合う社会になれば……。

 そう話したのかどうか、はっきり覚えていませんが、そんなふうに知恵を絞り合う時間こそが大切、と思えるひとときでした。

代表の平塚さんに音声ガイドや字幕をつけてくださった方、スタッフの皆様。めちゃくちゃ皆さん優しくてびっくり!
何度見ても痺れる「ハンナ・アーレント」のポスター。「すべての悪は凡庸である」。「ありがとう岩波ホール」特集で上映されます!

 上映館のない地域では自主上映会がスタートしている「杜人」ですが、バリアフリー対応の素材ってありますか?とご質問をいただくことも。館の方に尋ねてみたら、「もちろん、お貸し出しします! せっかくつくったので、是非使ってください!」とのお返事。ありがたいです!

 

渾身のチョークアートが入り口の前に! 朝までかかって描かれたのだとか

 さて、夜はもう一つ、鹿児島のガーデンズシネマのオンライントーク。初めてのオンライン、正直躊躇いましたが、結果的には私が元気をいただきました!

 ガーデンズシネマという39席のミニシアターが、どれほど地域に必要とされているかがダイレクトに伝わってきて、次の機会があったら是非リアルに訪れたいと思いました。

 やはり、最初に撮った理由を話していたら、あっという間に10分くらい経ってしまったのですが、あたたかい拍手をいただいて距離を超えて心が解けました。

 最初に質問してくださったのは、なんとテンダーさん! 数年前、アースデイ永田町でお会いして、その後、世田谷「羽根木の家」のテンダー講座に参加したことがある、大尊敬する自由自立人。羽根木の家はピアノ曲を提供してくださった水城ゆうさんが家主で主宰をされていた場所。一気に時が円環を描いた気がしました。

「矢野さんたちが大地の再生をする速度より大地を固める速度の方が早くて、追いつかないのでは?」という質問には、「小さな一手が大きな変化につながる。目の前の大地に移植ゴテで5cm穴を開ければ、それは長いホースの先が詰まっていたのが解消されるのと同じように、一気に山の尾根まで伝わって、一瞬で空気と水は流れ出す。人が2割、3割やれば後は自然がやってくれると矢野さんはいつも仰っている。厚いコンクリートの下でも、大地は死んではいない。グライ土壌も陽の光を浴びて酸素に触れれば肥沃な土壌に変わる。絶望している暇はない」と伝えました(たぶん)。

 

 さあ、今日はこれから長野県上田市にある100歳を超える映画館、「上田映劇」初日。「大地の再生関東甲信越」の赤尾和治さんと一緒にアフタートークです。

 行ってきます!

     2022.7.2 前田せつ子

 

「よかったら」と「是非」〜ギア・チェンジの夏に向けて!

「六ヶ所村ラプソディー」をくにたちの女たち(10名くらい)の実行委で上映したのは2007年10月。私にとっては初めて住んでいる街で行なったイベント、というより市民運動でした。

 鎌仲ひとみ監督のトークにリクル・マイさんのミニ・ライヴも挟んで、「ヒバクシャ—世界の終わりに」との2本立て。チケットの売り上げは400枚を超え、実際には350名くらいの方が観にきてくださって、地域で仲間とつながる切実さと楽しさを実感したのでした。

思えば、これが第一歩! この時に体感した女たちの連帯を忘れない

 もともと自然はあって当たり前の環境で育ち、「街」に憧れて上京し、キラキラした世界に惹かれてレコード会社に就職し、バブル期を謳歌した私に「環境問題」は他人事でした。それが変わってきたのは2000年を過ぎてから。

「いのちの海に放射能を流してはいけません!」

 雑誌「Lingkaran」で連載を担当した辰巳芳子先生の逆鱗に突き動かされ、慌てて「六ヶ所村ラプソディー」を観に行きました。クラクラするような絶望感の底から立ち上がってきたのは「このことを一人でも多くの人に伝えなければ!」という強い想い。上映会の帰りに立ち寄ったお店でも、「六ヶ所村って知ってます?」と話しかけ、これを1日30人の人にし続けよう、と決心したのでした。

 2014年6月。矢野さんに初めて会ったとき感じたのも同様の想い。その想いは「杜人」という形になり、いまひとり歩きを始めています。

 7月には、現在上映中の宮崎大分(日田)、鹿児島に加え、7/1〜東京(田端吉祥寺*アンコール)、7/2〜長野(上田)での上映が始まります。北海道(札幌)では7/8一日限りの上映。

 4年前に西日本豪雨災害が起こった広島(尾道)、山口では7/9〜上映。

 7/13〜島根、7/15〜福島山形静岡(浜松)、7/16〜岡山(*アンコール)愛知(名古屋*アンコール、7/17〜神奈川(逗子*アンコール埼玉(深谷)、7/22〜佐賀、7/24 大分(ゆふいん文化・記録映画際)、7/29〜福岡と全国の映画館で公開が相次ぎます。

 さらに、自主上映会が7/2愛媛(松山)、7/3、7/7奈良(宇陀市)、7/8徳島、7/10屋久島、7/10神奈川(湯河原)、7/16愛媛(宇和島)、7/18滋賀、7/23山梨(北杜)、7/23釧路で開催! 各映画館や会場には、大地の再生メンバーや映画監督はじめスペシャルなゲストとのトークもあります。

ゆふいんには矢野さんも!

「六ヶ所村ラプソディー」のチラシを配りながら伝えたのは「是非観にきて」という言葉。面白いとか面白くないとか、良いとか悪いとかじゃなく、理性や感情を超えた大切な、知らなければならないことが世の中にはある。その時と同じ強い想いで、「よかったら」ではなく「是非」と言いたいです。

 もう、後ろに引いている場合じゃない。作品自体のクオリティだとか完成度だとか、そういう定規で測って出していくものじゃない。自分がお勧めできないものを、いったい誰が観にきてくれるのか。

 

 これは自分にハッパをかけて、この夏をクールに駆け抜けていくための意思表明。舞台挨拶はやるたびに娘のダメ出し(多くは「喋り過ぎ」と怒られる)が飛んでくるけれど、あんこ詰め詰め「破れ饅頭」でいきたいと思いますのでヨロシク!

「チーム青梅」のおかげで開館以来初の満席を2回も記録したシネマネコ。やっぱり、いちばん大切なのは地元の仲間がつながること! 

2022.6.29 前田せつ子

九州、北海道の映画館に加え、各地で自主上映会スタート! ゆいシネマ上映会ではG.Yokoさんのミニ・ライヴも!!

 今日は夏至。残念ながら東京では太陽が見えませんが、キャンドルナイトを過ごされる方も多いでしょう。

 さて、行ってきました、宮崎へ。

 空港に降り立った瞬間に感じる南国の空気、溢れる生命力、ブーゲンビリアをはじめ花々の鮮やかさ、果物の匂い。九州初上陸となる宮崎キネマ館は、6/17、6/18いずれも満席でスタートすることができました。

宮崎キネマ館の若き支配人、喜田さんはじめスタッフの皆さんと!

 学生時代の友人をはじめ所縁のある方々との再会も嬉しく、とても元気をいただきました。中心地から20分ちょっとで「鬼の洗濯板」の異名をとる風景が大自然の神秘を感じさせる青島へ。「2400万年〜200万年前に海床に規則的に堆積した砂岩と泥岩の互層が傾き、海上に露出したものが波の浸食を受け、堅さの違いにより凹凸を生じたもの」だそうです。

E.T.が出てきそう…??

 何万年もの歳月をかけて自然が彫刻した風景に、神々の存在を感じずにはいられません。聞けば、宮崎はコンビニよりも神社のほうが多いくらいなのだそうです。

青島神社の奥にはこんな投甍所が。投げてみました。開運厄除!

 中心地で印象的だったのは青空市場。戦後に出来て、一時は歳末のアメ横くらいの人出で賑わった市場は、建て替えのタイミングを外し(そこに残った乾物屋さんのお話)、今は5〜6軒が営業するのみ。

「明日にでも店たたみたいくらいなんだけど、ボケ防止でやってる」と仰る80歳を超えた店主は、ご自身で漬けられた梅干しやラッキョウを店先に並べていらっしゃいました。

街中に突然現れる一角
ラッキョウ、ひと瓶買って帰りたかった。できれば大きいのを
店先にはエサが置かれ、ネコがのんびり食事中

 

こういうノボリ、どの街にもあるべき!

 さて、6/17、青梅に昨年出来た木造の映画館、シネマネコでの上映も始まりました。6/25の山口洋さんとのトークは早々と満席になってしまいましたが、6/30まで上映は続くので、青梅散歩と併設のお洒落なカフェでのアフタヌーンティーを兼ねて、どうぞ足を運んでみてください。青梅の魅力を伝えるwebサイト、oumegocotiではこんなに素敵な紹介が載りました

 6/18からは北海道・苫小牧にあるミニシアター、シネマ・トーラスでの上映がスタート! まだまだお客様は少ないようですが、道内の映画館での上映は貴重です。自粛生活後、集客がなかなか元に戻らない地元の映画館を応援する意味でも、是非劇場で観てくださいね。7/1まで。

 全国に先駆けて始まった道内連続自主上映会も、弟子屈町でも好評のうちに修了し、7月には釧路での上映会が決まっています。

 大地の再生奈良支部主催の上映会も6/18に無事終了しました。すぐに満席になってしまい、上映回数をなんと5回に増やしての開催。奈良では7月に宇陀市の「Hi Studioもとたねしゃ」で「大地の再生」写真展&「杜人」上映会が決まっています。

 また、6/18に開催されると決まるや満席となった千葉県長南町たまる食堂での上映会は大盛況、素敵なショートムービーまで作成してくださいました! 

集まってくださったお一人おひとりの言葉に、地域の環境再生の一歩がここから踏み出される予感がビシビシと。10月には規模を拡大した上映会も予定されていますので、チェックしてくださいね。

 6/25には、神奈川県二宮町で大規模な「大地の再生の詩〜杜人オリジナル・エディション〜」上映会が企画されています。こちらも、町が一体となった取り組みで、すでに200名以上のお申し込みが来ているとか!

 そして南にまた目を転じれば、石垣島! 閉館中の「ゆいロードシアター」の復活を望む声が高い中、月に一度、ゆいシネマ上映会が開かれており、6月(第6回)は「杜人」をかけていただけることに!

 6/24〜6/26、すでに予約もスタートしています。なんと最終日には、エンディングテーマ「わたしをつつむもの」を提供してくださって、現在全国ツアー中のG.Yokoさんのミニ・ライヴも開催されるとか。「JAZZ BAR すけあくろ」、是非お集まりください(個人的には「石の声」がとても観たいです!)。

 7/10にはいよいよ屋久島で初の上映会も!

「杜人」冒頭を飾る屋久島のガジュマル。2018年5月末、直前にヤフオクで購入したプロ仕様のカメラを持って初めて訪れた現場でもあります

 まだまだお知らせしたいことがありますが、ひとまずはこの辺で! 良き夏至の夕をお過ごしくださいね。

2022.6.21 前田せつ子

空港までの道の途中、宮崎の天空カフェ「ジール」にもよることができました!
緑の斜面にメガソーラーが……
夏の風物詩「しろくま」もしっかりいただきました!

 

堀信行先生との白熱トーク@シネマスコーレ!「杜人」は宮崎、青梅、苫小牧へ

 封切りからちょうど2ヶ月。線状降水帯と豪雨が心配される季節に入りましたが、皆さん、いかがおすごしでしょうか。

 吉祥寺に始まった「杜人」の旅は、この間、大阪、京都、横浜、岡山(総社)、川崎、逗子、仙台、兵庫(豊岡)、名古屋、千葉(柏)、厚木を廻ってきました。封切館のアップリンク吉祥寺では6/10〜アンコール上映がスタート。初日を除いて連日満席が続いています。岡山シネまるむすびでも7/16〜、現在ロングラン中のシネマアミーゴでも7/17〜、さらに、6/17で上映が終わるシネマスコーレでも7/22〜アンコール上映が決定しました。千葉県柏市のキネマ旬報シアターでは延長上映中。大阪十三にある老舗ミニシアター、シアターセブンでは第七藝術劇場から引き継いで、なんと2ヶ月を超えるロングラン上映をしていただいています。

 ひとえに口コミで広めてくださった皆様と、志と情熱あふれる劇場スタッフの皆様のおかげです。本当にありがとうございます!!

シネマスコーレ✖️堀先生、忘れられない一日になりました!
6月5日、環境の日にあつぎのえいがかんkikiで山口洋さんと。青梅シネマネコではどんなお話を聴けるか楽しみです

 さて、今週末から新たなシーズンに入る「杜人」の旅。6/17〜宮崎キネマ館での公開に合わせて、17日、18日と監督トークに伺います。宮崎には特別に思い入れがあります。というのも、海、山の豊かさに加え、大学時代の4年間を共に過ごした友をはじめ大切な友が多く暮らす土地でもあるからです。

 同じ6/17〜青梅に昨年できた日本で唯一の木造映画館「シネマネコ」での上映もスタート。25日にはHEATWAVE山口洋さんとアフタートークに伺いますが、この日のチケットは(劇場窓口のみの販売だったにもかかわらず)早くもSOLD OUTになっています。「チーム青梅」という名の熱血自主プロモーターガールズに、心から感謝です!他の日は大丈夫ですので、カフェ併設の素敵な映画館で是非ご鑑賞いただけたら嬉しいです。

 6/18〜北海道は苫小牧にあるシネマ・トーラスで上映がスタート。北海道では現在大地の再生講座が連続開催されていますが、自主上映会も連携した形で行われています。道内の方、是非、劇場と自主上映会の情報をチェックしてお近くの会場に足をお運びくださいね。7/8には札幌シアターキノでフライデーシネマも決定しています。

 また、6/18には千葉県長生郡のたまる食堂、奈良市高畑町のホテル尾花、長崎県西海市で「杜人」上映会が開催されます。満席の会場もありますが、どうぞチェックしてみてください。

 さて、この間に伺った舞台挨拶の中でも、どうしても文字に残しておきたくて娘にテープ起こしを頼んだのが地理学者の堀信行先生とのアフタートーク@シネマスコーレ(2022.5.28)

 根っからの研究者気質の堀先生は、慣れない舞台挨拶という場でも、やっぱり好奇心全開、愛すべき研究者スピリットで「杜人」を熱く研究・分析してくださいました。

 短い時間にもかかわらず濃厚なトークは文字にして8000字! 是非お読みいただきたい保存版です。

 下記に掲載します!

「ひと言」がなんと1000字に及んだ堀先生の熱いトーク!

 まだまだお知らせしたいことがてんこ盛りですが、それはまた後日。どうか、お元気でお過ごしください。

2022年6月15日 前田せつ子

 

「環境の日」に矢野さんがJ-WAVE生出演! 「杜人」は明日からアップリンク吉祥寺でアンコール上映!

photo by 田中トシノリ

 6月5日(日)は「環境の日」。1972年6月5日、ストックホルムで初の「国連人間環境会議」が開かれたのがきっかけで制定された「世界環境デー」なのだそうです。が、私は今年初めて知りました(不勉強ですみません!)。

 なんと半世紀も前にこんな会議が開かれたのに、その後、人間は何をやってきたのだろう……と思わずにはいられませんが、この日、矢野智徳さんが初めてラジオ番組に出演しました。しかも、生出演!

 朝9時20分にラジオの前にスタンバイ。なぜか緊張しながら、矢野さんの声が流れてくるのを待ちました。パーソナリティは玄理さん。そして20分間、質問に答える形で「大地の呼吸不全」と「環境再生」、「結」について、矢野さんが語りました。文字起こしして、整えたものを掲載しますね。

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玄理がお送りしています、J-WAVE ACROSS THE SKY。ここからはさまざまな国の最新カルチャーのいまをお届けするmeeth WORLD CONNECTION。

今日6月5日は「世界環境デー」です。

この番組でもさまざまなゲストをお迎えして、みなさんと一緒に考えてきましたが、今日は「大地」という観点から環境問題を考えていきたいと思います。

実はいま日本全国の大地が呼吸不全を起こしているそうです。一体どういうことなんでしょうか。そしてその解決方法はあるんでしょうか。

この時間は「大地の再生 結の杜づくり」を通して傷んだ自然環境を本来の姿に戻す活動を行っている、造園技師で環境再生医の矢野智徳さんにお話をうかがいます。

○矢野さん、はじめまして。

矢野)はじめまして。

○よろしくお願いします。

矢野)はい、よろしくお願いします。

○矢野さんは「環境再生医」ということなんですけれど、まず矢野さんが環境を再生する必要があると考えるようになったきっかけは何なのでしょうか。

矢野)造園の現場で、雨が降っているときに作業していて、大地に水がどんどん浸透していっている様子を見ていたんですけど、その場所の土の中から空気がプクプク出てきていたんですね。それは大地の中に空気がこもっているということで、空気が大地から出てくると、水が大地に浸透するっていう現象を見て、土の中の空気が動かないと、大地の中に水が入っていかないんだっていうことがわかって。

 私は当時、大学の地理学部地理学科(夜間)に通っていて、恩師の先生にこのことを話したら、そういうことは聞いたことないよって言われて。それで、これは大変なことだから研究していこうっていうことを言ってくれたんですね。それから大地のメカニズムを見ていく取り組みを始めました。もう40年近く前になります。それがきっかけと言っていいと思います。

○日本全国の大地が呼吸不全を起こしている、と矢野さんはおっしゃっていますね。

矢野)そうですね。自然界はミクロもマクロも相似形なので、大きな自然も小さな自然もシステムは一緒なんですね。ですから盆栽でも大自然を表現できる。ミクロな世界を通してマクロな世界を学ぶ、見ていく。そういう視点で、大地の中の空気が循環することを通して、水が循環することが見えてきて。それに伴って生き物が呼吸をし、大地が呼吸しているんだということが見えてきました。

 その視点で見ると、現代社会はこの半世紀近くの国土開発で、重たいコンクリートや鉄骨を大地の上に載せてきてしまった。自然状態の大地を「からだ」と見ると、重たいものが載っけられて、大地の血管が循環不良を起こしている。呼吸も血液循環も含めて、循環が普通でない状態になっている。それがもう全国で無数に起こっている。

 大地の上に重いコンクリートが載せられて、重機で締めつけられて、からだの血行が悪くなるという現象が、この半世紀近く全国で起きているわけです。その現場を見て、環境を変えていかないといけない、そういうことを取り組むようになったんですね。

○でも、だからといって、日本全国のコンクリートを取り除くというのも難しそうなんですけども。どうやったら、この水と空気の循環、元に戻るんでしょうか。

矢野)コンクリートが全部悪いわけではなくて、形や置かれている状態が問題なんです。締めつける状態でなく、循環する状態をつくってやればいい。だから、血行不良を起こしていたり、詰められて呼吸がしづらくなっているようなところを、ちゃんと循環するように部分的な改善をしていく。全部を改善する必要はないわけです。

○どういうポイントを見たら、ここのコンクリートの状態はよくない、ここのコンクリートの状態は悪くないっていうのがわかるんですか。

矢野)自然の地形が本来の「からだ」の姿ですから、そういう大地、自然の地形を基本に、本来通っていたはずの循環がどういう形で閉ざされているかを確認していく。「点と線」で大地の中に脈は広がっているので、いわゆる「脈絡」のポイントを見て、特にひどく滞っているところを通していく。そういう治療、改善施工を通してやると、大地の中の空気と水は循環し始めるんですよ。

○そうなってくると、昔の日本地図とかが必要になってくるんでしょうか。

矢野)いえ、現在の地形図を中心に、敷地図とか、平面と立体で、その大地の状態を確認していってやれば、大体当たらずとも遠からずで、「脈」、空気や水が通っている「水脈」の状態を読んでやることは十分可能になると思うんですね。

○ということは、本来川があった場所が埋め立てられているとか、そういうのがやっぱり一番よくないってことなんでしょうか。

矢野)川がコンクリートで三面張りになっているとか、山の裾野に擁壁がつくられたり、砂防ダムで全部止められたり、「抜き」の機能がなくなっていることがすごく問題になります。

○その補修工事というのか、よくないコンクリートの改善の工事は、結構大がかりなものなんですか。それとも意外と簡単なものなんでしょうか。

矢野)ケース・バイ・ケースです。私も最初の頃は、コンクリートをみんな壊さないといけないと思っていたんですよ。でも、途方もない量なので、ある意味途方に暮れながら作業をしてたんですけど、だんだん全部壊さなくていいんだっていうのがわかってきて。特に大地の血管にあたる「水脈ライン」を最低限通していってやると、元の自然がちゃんと再生してくるということを、現場で教えてもらえて。すごい再生力があるんだっていうことをね、現場が教えてくれたんですよね。

○ここ数年、大雨による土砂災害が各地で起きていますよね。その原因もやはり先ほどおっしゃっていた大地の呼吸不全、水脈を止めてしまっているからなんでしょうか。

矢野)現代土木の基本的な問題点が、大きく一つあると思うんですね。私たち人間も含めて、生物が生活している「生物環境」にあたる部分は、地上数メートル、地下数メートルと言っていいと思います。つまり、植物が枝を広げているエリアと、根っこを広げているエリアに、生物の多くが集中している。生物が住んで暮らしている生活エリアの「大地の組成」というか、大地をつくりあげている組み合わせが、単純に言うと、土と石と木。大地は土と石と木で出来上がっているって言っていいと思うんです。そこに生き物が集中している。

 生き物はみんな呼吸をしていますから、空気と水が循環しないと生きていられないわけですね。大気空間と大地空間のちょうど接する地表面にほとんどの生き物が集中していて、空気と水の循環を保全するように自分自身も息をしながら生活している。そんな「生き物環境」は、土と石と木の三つの組み合わせ比率がうまく大地の中に組み込まれてはじめて、血管のように空気と水が循環する脈が生まれるわけです。

 その組み合わせ比率が、現代土木整備の中で変化してきている。有機物である木が大地の中からどんどん排除されて、コンクリートや鉄骨で、重たいもので締めつけられて、安定させられている。安定と言っても、見かけの安定です。そこに「抜き」や「循環」の機能がないために、たまりかねて崩壊していくっていうことが起きてるんです。

photo by iDaps石田伸二

 要はバランスなんですね。そのバランスを、大地をもっと有機的に「からだ」として見るような、そういう生態的視点を通して、土木がもう一度見直されていかないと、この現代の災害は、生物災害も気象災害も、そして大地の災害も、収まらない。異常といわれている生態系の問題が根本的に解決されていかないと。この視点が土砂災害の現場で必要とされていると思うんです。

photo by iDaps石田伸二

○その一方で、コンクリートがなかった時代でも、川の氾濫とか土砂災害ってあったんじゃないかなと思うんですけど、そんなことはないんですか。

矢野)もちろんあったんですけども、現代の災害が大きく拡大していっているのは、人の開発が影響していると思っています。大きく大地を動かして、その分、相対的にエネルギーが拡大するようなことが起きて、災害そのものも拡大することに繋がっている。だから「抜き」の機能、いわゆる柔軟性ですね、それが現代土木の中に必要だと思っています。昔の土木のような「抜き」の機能を備えた柔軟性のある土木、土と木を中心とした有機的な土木、それがどうしても視点として必要になってくると思いますね。

○矢野さんは土砂災害の復旧作業でも流れてきた土砂や瓦礫をなるべく利用するようにしてるということなんですけど、それはどうしてなんでしょうか。どんなふうに利用するんでしょうか。

矢野)阪神・淡路大震災の後、倒壊した樹木を荷台に積んで、大量の瓦礫の埋め立て処理の現場に行ったことがあるんです。長蛇の列で、大量の災害残土が捨てられているのを見て、自然はこんなことしないなって思った。それが大きなヒントだったんですね。

 災害で出たものを全部捨ててしまうのではなく、自然の中に組み込んでいく雨風の機能にも似た「技」を、昔の人たちは確かにやっていたなと思い返されて。現代的にそれをやっていく必要がきっとある。自然界にはごみはない。これが基本だなっていう。戦乱の中で街が崩壊したときも、瓦礫を都市空間の中にちゃんと再利用してきた経緯があったはずなんですね。雨風がどうやって大地にその瓦礫を組み込んでいくのか。土砂災害の現場を通して、その組み合わせ比率や組み方、構造を大事に見ていく中で、施工を進めて「脈」をちゃんと通していく。それをやるとちゃんと安定した、再生した環境が戻ってくる。それが現場で私たちが教えられたことです。

2018年西日本豪雨の被災地で。流木を移動し、天穴をあけると「脈」が通り、水が澄んでいった

○矢野さんの活動を追ったドキュメンタリー映画「杜人 環境再生医 矢野智徳の挑戦」という映画があるんですけど、そこでキーワードになってる言葉「結(ゆい)」についても教えていただけますか。

矢野)お祭りもみんな「結」で、かつては、いろんな農作業も含めて生活そのものが各地域で「結」が基本にあった。生態系で見れば、各動物たちが群れをなして、おそらく生き抜くために「結」という形をとっていたと思うんです。人が群れとして生き抜いていく、ひとつの知恵が「結」という形。それは歴史を経て培われてきたもの。

 それは生態系の生き物たちがみんなスクラムを組んで生態系循環を支えている、いのちを支えている、息づけるようにみんながスクラムを組む、その生態系のシステムから学んだ機能が「結」なんだということを、現場の結作業を通して、あらためて思い返されたというか、教えてもらった気がするんですね。

○矢野さんが今日のお話の中で何度もおっしゃってた「循環」という言葉とも関係があるんでしょうか、この「結」という言葉は。

矢野)もう、まさに。循環機能をそのまま人のシステムや機能の中に応用していった、それが「結」という世界だと思います。

それぞれが分かれて作業しない。帯のように連なってやることが基本
「じゅんこの庭」の作業はまさに「結」だった

○今日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。今日矢野さんの活動に興味を持たれた方はぜひ、現在公開中のドキュメンタリー映画「杜人 環境再生医 矢野智徳の挑戦」をご覧ください。他にも矢野さんのインタビューなど、私も読ませてもらったんですけど、とてもおもしろかったです。番組のSNSにも上映情報、リンクしておきます。矢野さん、今日はありがとうございました。

矢野)はい、どうもありがとうございました。

○以上、meeth WORLD CONNECTIONでした。

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 初めて聴かれる方には理解が追いつかない部分もあったかと思いますが、よくここまで短時間で「大地の呼吸不全」とそれが引き起こすこと、それをどうしたら解決できるかを凝縮して話されたと私は瞠目(瞠耳?)しました。

 矢野さんの言葉はメモを取ることができない。考え抜かれ、削ぎ落とされ、本質を示した言葉だからです。それが「杜人」を撮った理由でもあるのですが、物事を深く追求し続けてきた人の言葉は凄いと、痛感しています。

 この日は、あつぎのえいがかんkikiで13:50上映回の後、HEATWAVEの山口洋さん(音楽)とのアフタートーク、そして、20:00〜bay fm「THE FLINTSTONE」という番組で「杜人」について語らせていただきましたが(収録)、自分の言葉の精度を上げていかなくては、と反省することしきりでした。ただ、あつぎのえいがかんkikiにいらしてくださった方々のお声かけ、bay fmの番組担当の方の熱意には胸打たれ、とても励まされました。

 明日6月10日から、アップリンク吉祥寺で「杜人」アンコール上映がスタートします。時間もスクリーンもバラバラなので、サイトでチェックしてくださいね。

 10日(金)13:45回、11日(土)9:35回、12日(日)11:25回にはアフタートークで伺います。予約はもう始まっています。

 千葉県柏のキネマ旬報シアターでは明日6月10日(金)まで、あつぎのえいがかんkiki、名古屋シネマスコーレ、大阪・シアターセブンでは6月17日(金)まで、逗子のシネマアミーゴでは6月18日(土)までの上映です。

 是非、お観逃しありませんように!

 2022年6月9日(ロックの日) 前田せつ子

仙台、京都、豊岡、名古屋、柏、大阪、逗子で上映中!(5/30現在)

 5月27日(金)から兵庫・豊岡劇場、28日(土)から名古屋・シネマスコーレ、千葉・柏キネマ旬報シアターで上映が始まりました。

コウノトリで有名な豊岡市にある豊岡劇場。凄い歴史を誇る建物
豊岡劇場では「杜ノ匠ノ」「大地の再生 関西支部」の増茂匠さん、友美さんとアフタートークを
1983年、若松孝二監督が立ち上げたミニシアター、名古屋のシネマスコーレ(映画の学校!)
トークショーの後、堀先生のお話をもっと聞きたい!という方が続出!
シネマスコーレの名物支配人、木全さん、一緒にアフタートークをお願いした堀信行先生と

柏駅、高島屋の隣のビルにあるキネマ旬報シアター。「勝手にしやがれ」と並んでポスターを貼ってもらえるなんて!
映画の歴史が詰まった図書館も劇場内に!

キネマ旬報シアター支配人、江崎さんと。江崎さんは長く映画雑誌の編集者だったそうです

 ほか、現在上映中の劇場はフォーラム仙台(6月2日まで)アップリンク京都(6月2日まで)大阪・シアターセブン(6月10日まで逗子・シネマアミーゴ(6月18日まで)

フォーラム仙台。初日に「あぶくまの里山を守る会」の大槻さん、照井さん、中畑さんとアフタートークを

 

 6月4日(土)からは、神奈川・あつぎのえいがかんkiki(17日まで)、17日(金)からは青梅・シネマネコ(30日まで)、宮崎キネマ館(30日まで)、18日からは北海道・苫小牧シネマ・トーラス(7月1日まで)で上映が始まります。

 映画館の上映期間は基本2週間(か1週間)なので、どうぞ、お観逃しなきように。

 あつぎのえいがかんkikiでは、6月5日(日)13:50〜上映回終了後、青梅・シネマネコでは、6月25日(土)15:30〜上映回終了後、いずれもHEATWAVEの山口洋さんと前田せつ子(監督)が30分のアフタートークを行います。シネマネコでは6月1日から劇場窓口で先行予約も受付。

 撮影開始から間もなく、まだ映画になるかどうかわからない頃から、音楽の提供を約束し、音源を惜しみなく提供してくださった山口洋さん。冒頭から何度も繰り返し流れる曲は「Old English Rose」。亡きお母さまに捧げられた曲。30分のお時間をいただいたので、音楽、映画、自然とのつきあい方、人生の歩き方に至るお話が聴けるはず。どうぞ、スケジュールに入れてください。

 もちろん、『moribito』サウンドトラックCDへのサイン会もあります。

 さらに! 封切り館で、ひと月以上のロングラン上映をしていただいたアップリンク吉祥寺で、6月10日(金)からアンコール上映が決まりました!

 さらにさらに!! 石垣島で6月24日(金)〜26日(日)上映が決定。最終日には、エンディングテーマを提供してくださったG.Yokoさんのミニライヴも!

G.Yokoさんの「わたしをつつむもの」をライヴで聴けるかも!

 どうぞ、お近くの劇場に足をお運びください!

生きものたちの饗宴

 2022年5月22日〜23日、久しぶりの撮影に行ってきました。急遽決定した広島県三原市「ひよめき」さんでの大地の再生講座。重機を使わず手作業で基本を押さえる講座は、中国地方の里山風景と相まって、終始やわらかくのどかな雰囲気で進められました。

おばあちゃんの家みたいな「ひよめき」
野菜をたくさん育てて、カフェもやっている

 小豆島でオリーブを育てている方、山口でお米をつくっている方、この地を選んで移住された方、生口島で猟師をやっている方、昨秋のクラファンで熱い応援をくださった方、「尾道の台所」の西山優子さん、編集の最終段階で的確なアドバイスをくださった映画監督の田中トシノリさん、岡山「円結」で「杜人」を観てくださった方……。30名を超える参加者さんが集まって、風の草刈り、水脈づくりを中心に「基本の手作業」を学ぶ2日間でした。

 テーマは「つなぐ」。

 重機やチェーンソーの音がほとんどない中で、矢野さんもお一人お一人に大切なことをマイクを通さず伝えていきます。

熱心に聴き入る参加者さん

「表層5センチ。大気と大地の境界面にあたるこの表層5センチの改善が、実は重機よりも力を発揮する」

「水が走らないこと。自然界の動きは、等速、等圧。直線でなく流線形」

「深追いしない。30分だったら30分でできることをやる。焦らず慌てずゆっくり急ぐ。実は、それは渦流の動き」

「やり過ぎない。一見、どこをやったの? くらいがちょうどいい。それが雨風の技。これは、ちょっとやり過ぎ(笑)」

「遠ざけるんじゃなく、リスクを背負う。生きていくってことは不安定が大前提」

「『見る』んじゃなく『観る』。よく観て、察する。そうでないと、いのちはつなげない」

「ちゃんとやってるはずのに、なんでうまく行かないのかと悩んだ時期もある。でも、ある時、いや、それは自分のやり方がまずいんだ、と気がついた。それからは、そう決めた。そうしたら、迷わなくなった」

「畝溝(うねみぞ)をつくってから畔溝(あぜみぞ)をつくる人がいるけど、逆。畔溝を先につくらないと空気と水は循環しない。人間社会も同じ。いまは私益、共益、公益の順番になっていて、自分の生活、自分が直接関わる場が満たされて初めて公益を考える、というふうになっている。それではいのちをつなぐ循環は保たれない」

「かつて水脈整備は集落で最も重要な結作業だった。大人も子どももみんなが関わり、その中でそれぞれが体感で学び、集落の安息状態を保っていた」

人間は群れを成す動物

 矢野さんの言葉を、職場の状況や家庭、ご自身の人生と重ねて噛み締められた方もありました。風通しが良い。息ができる。どんな場所でも、大事なことは同じ。それは頭でなく心が教えてくれること。

 講座中の言葉以上に、矢野さんの言葉が胸に響いたのは、実は朝食後の何気ない語らいの中での体験談でした。いつか、誰かの役に立つ日が訪れるかもしれないので、シェアしますね。

「2mの脚立に立って、後ろにひっくり返って、コンクリートの三和土に頭を打ちつけたことがある。落ちる瞬間、大切なのは身体の力を抜くこと。そして打ちつけた瞬間は息を吐く。それからゆっくり息を吸う。救急車を呼んでもらって来るのを待つ間、武道の先生に電話して聞いてもらった。こういうときはどうしたらいいか、と。
 先生曰く『とにかく氷で頭を冷やしなさい』。だから救急車に乗ったらすぐ「頭冷やすものありませんか」と救急隊員に聞いた。氷はないけど保冷剤はある、と保冷剤を出してもらって、冷やし続けた。
 病院に着いたら、誰が診るか決まるまで、処置もなしに待たされた。これがすごく長い。2〜3時間待ったと思う。その間、看護師さんに頼んで氷を持ってきてもらった。何度も、何度も。その氷のおかげで、脳内の血管が破れることなく、いまがあると思う」

 話を聞きながら、私は「北の国から」の最終回を思い出していました。ひとり吹雪の小屋に取り残され、傷を負った黒板吾郎さんを。絶対助からない状況で、機転と忍耐、最後は「気力」で生き延びる姿を描いた、あの最終回を。

息をしている限り あきらめない


 かつて豪農だっただろう家に引っ越し、自給自足と共同体の暮らしを実践している花ちゃんの「ひよめき」という場は、あたたかいだけでなく、いのちがひしめき、せめぎ合う場所でした。

 ウグイスにスズメ、カラスにシロサギ、クロアゲハ、シジミチョウ、トンボにハチ。ムクムク顔を出すタケノコにヨモギ、ヘビイチゴ、アザミ、フキ。ものすごい数のトノサマガエルに、それを狙うヤマカガシ……。

マムシほどではないけれど、毒牙を持っているヤマカガシ(見えるかな)

 早朝の光は青々と神々しく、すべてを祝福し、浄化しているようでした。
 今日いのちが絶えるかもしれないけれど、それを心配する生きものなんておらず、それぞれが朝露と真新しい光を喜び、いのちそのものの歓びを享受している。その場に立っていると、細胞の一つ一つが満たされていく感覚に陥りました。

「杜」=「この場所を 傷めず 穢さず 大事に使わせてください」と人が森の神に誓って紐を張った場。そこは、まさに「祈り」の場に思えました。

 

 

 東京に戻って来て、人間ばかりが幅を利かせるまちに降り立つと、タイムスリップしたような、なんとも言えない淋しい気持ちになりました。

 たくさんのものを手に入れたつもりで、いったいどれだけのものを手放してしまったのだろう。

 でも、きっと取り戻せる。余分なものを手放しさえすれば。

「満たされなくて当たり前」と肚の底から思えるようになりさえすれば。

花ちゃんが育てたイグサで編んだ円座、まさに「渦」!
花ちゃん、たくさん、たくさん、ごちそうさまでした!

 さて、今週末から新しい劇場での上映がスタートします。

 5月27日(金)〜兵庫・豊岡劇場28日(土)〜愛知・名古屋シネマスコーレ千葉・キネマ旬報シアター

 27日は映画にも登場される大地の再生関西支部の増茂匠さん、友美さんと、28日は同じく出演もされている地理学の権威で矢野さんの恩師、堀信行先生と登壇します。キネマ旬報シアターさんには29日に伺って、なんと45分ものQ&Aトークをさせていただきます。

 劇場でお会いできるのを、楽しみにしています!

2022年5月25日 前田せつ子

封切りからひと月ちょっと。いま思うこと

 思えば、昨秋Motion Galleryで行ったクラウドファンディングが、最初でした。2021年9月18日の前、2週間近く、ずっと「どうやって想いを伝えるか」に格闘していました。なぜ、応援してほしいのか。それをきちんと言葉で伝える。雑誌で記事を書く仕事はしていたものの、自分の想いをとことん書くのは初めての経験だった気がします。

 書いた文章は1万字を軽く超え、読んでもらった方からは「長い! 半分にできないの?」とも言われましたが、紙媒体ならともかくWEBなんだから! 削るところなんてひとかけらもないんだから! と強引にそのまま載せることにしたのがリリース3日前。

 クラファンはスタートダッシュが肝心、と言われ、大地の再生の支部の方々、応援してくださる方には事前にお知らせして、その時を待ちました。リターン品もショールや手ぬぐい、パンフレットやDVDなど選び抜いた品を用意して、気分はセレクトショップを新規開店する前の高揚感と若干の不安でいっぱいに。

 そして、オープン初日。その日に目標額を達成し、その後、英語字幕をつけて国際版をつくる、子どもたちにわかるチルドレンズ・エディションをつくる、という二つの目標も達成して、当初の目標の495%、379名の方の応援をいただいてプロジェクトは終了しました。名もなき人たちでつくった映画を、こんなにたくさんの方が応援してくださったことが本当にありがたく、嬉しく、もったいない気持ちでいっぱいになりました。

 とはいえ、映画として出ていく以上、もっともっとたくさんの方に観てもらわなければならない。だとしたら、この379名の方には応援団、プロモーターになっていただかなくては。そこでMotion Galleryのプロジェクトでの呼びかけはもちろん、fbでチラシを撒いてくださる方を募ったり、大地の再生各支部の方にお願いしたり、友人・知人に声をかけたり、口コミで広めていただくお願いをしました。

 さすがに配給・宣伝までやるとは思ってもいませんでしたが、いまドキュメンタリー作品は続々と生まれていて、力のある配給・宣伝会社は何ヶ月も先の公開まで予定がギッシリ。やむなく、封切り館のアップリンクさんや制作スーパーバイザーの纐纈監督や、配給会社に勤め始めたかつてのワークショップ仲間に教えてもらいながら、やることに。

 正直、封切り直前の1ヶ月はやることがあり過ぎて一日一日が真剣勝負。公開直前に完成した「杜人ガイドブック」(編集=私、レイアウト=娘、の完全家内制手工業!)を特別鑑賞券とともにクラファン支援者の方に無事送ることができたときには、どれほど肩の荷が降りたことか。さらに、新聞などのメディアに取り上げてもらうお願いをしたり、知り合いという知り合いにお願いメールを送ったり、犬の散歩で会話を交わした方にチラシを渡したり、「封切りまでもう少しですね。ワクワクしますね!」と言われても、ワクワクなんてしているヒマはない!と叫びそうになる日々でした。

 結局、地方版への掲載はあっても、全国紙に取り上げてもらうことはなく、メジャーな媒体とは無縁で、行き届かない告知に不安を抱えたまま公開初日を迎えることに。最初の3日間はトークショーも組んで、満員御礼を目指しましたが、4日目以降はどういう方が観にきてくださるか、くださらないか、まったくわからない状況でのスタートでした。ところが……。

 その後のことは、これまでも書いたように、奇跡かしらと思うことの連続でした。

 アップリンク吉祥寺の劇場担当の方には「こんなに満席になるのって、『ドライブ・マイ・カー』がアカデミー賞でニュースになったとき以来。その前は……ちょっと思い出せないです」と言っていただいたり(ちなみにアップリンク吉祥寺では一番大きいスクリーンで10回近く満席を記録)。物販担当の方は「こんなにパンフレットの購入に長蛇の列ができるのなんて初めてです」と驚かれたり(ちなみに、「杜人ガイドブック」は1000冊、サウンドトラックCDは240枚納品)。当初2週間の予定だった上映期間は、現在5週目に入っています(5月26日終映予定)。

 ほか、大阪・第七藝術劇場、アップリンク京都、横浜シネマ・ジャック&ベティでロングラン、5月8日には岡山・円結(まるむすび)さんでプレイベント、13日からは本上映が始まり、14日からは川崎市アートセンターで、15日からは逗子・シネマアミーゴさんで上映が始まりました。いずれも初日は満席御礼となりました。

川崎市アートセンター アルテリオ映像館で。佐藤俊さんと一緒にアフタートーク!
逗子にある海辺のお洒落なミニシアター、シネマアミーゴでは鶴田真由さんと対談を

 

 何より嬉しいのは、観てくださった方の多くが「自分事」として真剣に受け止めてくださっていること。造園に限らず、ご自身の人間関係、生き方に重ねて、あるいは大きな視野で人類の課題として捉えてくださっていることです。そして、それを誰かに伝えてくださっていること。身近な方、ご友人に直接、あるいはSNSで顔の見えない誰かに。

 二度、三度と足を運んでくださる方も多く、ご友人やご両親、お子さんと一緒にいらしてくださる方も。何の予備知識もなく「今日は映画を観よう!」と観にいらして、パンフレットまで購入され、サインを求めてくださった方もいらっしゃいました。

 大手メディアでの宣伝など全くしなかった(できなかった)のに、お一人お一人の発信で広まって、映画館も増え、現在30館で上映が決まりました。小学館の老舗アウトドア雑誌「BE-PAL」は、4月15日に行った矢野智徳さんのお話会2回に分けて詳細に載せてくださっています。私の森.jpgreenz.jpという環境をしっかり捉えたメディアでも紹介してくださり、その記事には強い想いが込められて読み応えたっぷりです。

 また、ランドスケープ・デザイナーであり、「コミュニティデザイン」という概念の日本における第一人者でもある山崎亮さんが、ご自身のYouTubeチャンネルでこんな発信をしてくださったり

 さらに、番組スタッフさんの推薦でラジオ*bayFM/THE FLINTSTONE→6/5(日)夜8:00〜放送も決まりました。すでに収録(リモート)は終わっており、正直、穴があったら入りたい気分ではありますが、千葉県を中心に関東地域、radikoでは全国で聴けますので、よろしくお願いいたします。

 

 クラファンでご支援をいただいた方への御礼のメッセージに、最後に添えていた言葉があります。

 初心者の拙い映画ですが、どうか、届くものがありますように。

 そして、願わくば、この映画が小さな種籾となり、あちこちで杜人の芽がふいて、人間だけが自然の調和を邪魔することなく、人と植物、虫や鳥、動物たち、生きとし生けるすべてのものがこの地球を生きる仲間として、支え合い、補い合う世界に、わずかでも近づきますように。

 それはきっと人間にとっても生きやすい世界だと信じています。

 映画の成功は目的ではありません。矢野さんの言葉を借りれば「同じ生きもの同士、わかり合える」世界へ、少しでも近づきますように。これからも、草の根が見えないところへ柔らかい根を伸ばしていけますように。

 非力だからこそ、足りていないからこそ、差し伸べられる手があって、補い合うことで循環が生まれ、バランスが保たれていく。それを実感する日々です。どうぞ、引き続きよろしくお願いいたします。

       2022年5月17日 前田せつ子 

封切りの日、家に戻ると届いていた御花。会社員だった頃の後輩で、四半世紀に及ぶ友からの

全国28館で上映決定しました!

 4月15日(金)アップリンク吉祥寺での封切りから27日目を迎えました。

 当初、2週間の上映だったのが現在4週目。5週目の上映も決まりました。大阪・第七藝術劇場、アップリンク京都、横浜シネマ・ジャック&ベティでもロングラン公開中です。

 アフタートークの後、サイン会(おこがましい!)の時に「どちらでお知りになりましたか?」と尋ねると、「チラシを見て」「予告編に惹かれて」という方も多いのですが、それ以上に多いのが、「友人に勧められて」「知り合いのFacebookで見て」というお返事。公開した後、観てくださった方の多くが、「杜人」プロモーターになってくださっているのが本当に驚きで、ありがたいです。宣伝力がないことを見越して、というか、私もトークでお願いしていますが、実際に行動に起こしてくださっていることの凄さ。美しい波形を描いて多くの方に届いていることが本当に嬉しいです。

 そんな口コミは全国に広がり、上映したい、というお申し出をいただくことも少しずつ増えてきました。

 現在、全国28館で上映が決定しています。心より御礼申し上げます!

 この週末は山口の実家に立ち寄った後、岡山県総社市にある「円結(まるむすび)」でプレ上映&監督トークに出させていただきました。

「円結」という名前の通り、古民家を素敵にリフォーム、いろんな人が集まって語らい、学び、遊ぶ場!
「杜人」に出演している方が5人も! さて、見つけられるかな?

 311後に東京を脱出、総社市に移住されたムーキーさん(向坂雅浩さん)は、DJもされているということで、音響へのこだわりが素晴らしく、私も堪能させていただきました。あたたかいコミュニティ、早くも再会を心待ちにしています。
 円結さんでは、なんと大地の再生ミニ・ワークショップも同時開催! 講師は大地の再生岡山支部の杉本圭子さん! 映画を観て、ワークショップまで体験できるなんて、この場ならでは。詳しくはこちらをご覧くださいね。

 明日5月12日は、アップリンク吉祥寺で最後のアフタートークを行います。いま予約状況を見たら、まだまだ席が空いています。よかったら、ぜひお出かけくださいね。

まさかのロングラン? GWも延長上映決定!

 4月15日(金)の封切りから12日。
 アップリンク吉祥寺では一番大きいスクリーン3が、これまでに満席8回。

 横浜シネマ・ジャック&ベティも4月23日(土)初日は、矢野さんのアフタートークがあることも手伝って、補助椅子が出るほど満員御礼でスタートしました。

静岡の現場で深夜まで作業した後、駆けつけた矢野さん。この時のお話はこちら

 

サイン会は長蛇の列に!20年選手の作業ズボン姿で
シネマ・ジャック&ベティの梶原支配人と矢野さん
なんと、辻信一さんも駆けつけてくださいました!

 同じ週末、監督・前田は京都、大阪へ。アップリンク京都は奇しくもアースデイ、4月22日の公開。出演者でもある大地の再生メンバー、さがひろかさんが駆けつけてくれて、一緒にトークをしました。

お洒落でスタイリッシュなアップリンク京都にも「杜人」看板!

 この日、お客様として映画を観にきてくれた松下泰子さんにも出てきてもらって、現場の空気を伝えていただきました。サイン会の会場には懐かしい顔もたくさんあって、再会を喜んだり、新たな出逢いに感激したり。その足で大阪・十三にある老舗ミニシアター、第七藝術劇場へと向かいました。

ナニ!? このカッコよさ!!
大地の再生奈良支部の西尾和隆さんも加わって、アフタートークを。西尾さんの自然栽培三年番茶はあっという間に完売!
サイン会なんておこがましい限りですが、どこで映画のことをお知りになったのかなど直接うかがうことができる貴重な機会

 23日には再び第七藝術劇場でアフタートーク。ひとり登壇だと思っていたら、なんと客席に矢野さんの秘書(!)を務める岩田彦乃さんを発見。客席から少しお話しいただいて、生々しい矢野さんの日常を語っていただきました。

このラインナップに入れてもらえるなんて!

 というわけで、草の根の熱い応援をいただき、どの劇場も客足が途絶えず、上映の延長が決定! GWはアップリンク吉祥寺大阪・第七芸術劇場アップリンク京都横浜シネマ・ジャック&ベティへ、是非足をお運びください。