『杜人』DVDリリースと桜をめぐる物語

 ソメイヨシノもほぼ全国で開花し、これから八重桜が見頃を迎える頃となりました。遅くなりましたが、ようやくDVDが完成し、4月15日にリリースできることになりました。

 

 応援し続けてくださっている皆さまのおかげで、息長く上映され、3万人を超える方々に観ていただけたこと、そして現在もなお各地で上映会が続いていることに、心より深く感謝いたします。本当にありがとうございます。

 DVDには英語字幕版(高画質)が収録され、英語圏の方にもご覧いただけるものになっています。また、キャスト&スタッフ紹介、シーン解説、封切り後の最新情報をまとめたリーフレット(8頁)も封入しています。併せて、これまで上映会場でしかご購入いただけなかったパンフレット、サウンドトラックCDのオンライン販売を開始いたしました。Lingkaran Films Online Shop、是非訪れていただければ幸いです。

 技術的には拙い作品ですし、できれば上映会場で地域の方と一緒に観ていただくことが「杜人」本来の願いです。これから神奈川、愛知、京都、岡山で自主上映会が開催されます。また、5月16日〜5月22日には小田原シネマ館での上映が決まりました。一緒にご覧になった方々と、是非その場で感想をシェアしていただき、新たな動きにつなげていただければ嬉しいです。

 個人的なことで恐縮ですが、昨年9月、食べることが困難になり、特養から病院に移った母を、家(実家)に連れて帰ることを決めました。いわゆる「看取り」で、私も半分以上は実家で訪問看護師さん、ヘルパーさん、言語聴覚士さんらに支えられながら、母をみる生活が始まりました。「いのちのスープ」をひと口でも飲ませたい一心でしたが、口内の痛みで叶わず、点滴(中心静脈栄養)でいのちをつなぐ日々です。

 私が大学で山口から東京に移って以来、数十年にわたって米や海苔、自分で育てた里芋、じゃがいも、玉ねぎ等「食べるもの」を送り続けてくれた母。映画になるかどうかもわからない中で矢野さんを追いかけ始めた私に、真っ先にカンパをしてくれたのも母でした。

 3年前、88歳の誕生日に「杜人」も封切りを迎えたものの、その夏、母はコロナで死の淵を彷徨いました。その後も二度三度、「ご家族を呼んでください」と言われる状況に陥りながら、奇跡的に生還してきた母。

 先週4月4日、無事花見ができたと姉から写真が送られてきました(私は同行できませんでした)。平成9年に退院記念として植えてもらった桜が大きく育ち、満開となった日。言語聴覚士さんが写真を撮ってくださったそうです。

「願はくは 花の下にて 春死なむ その如月の 望月の頃」

 桜ほど人に寄り添いながら、彼岸と此岸、いのちの尊さ、儚さを感じさせる存在はない気がします。4月15日、母は91歳の誕生日を迎えます。

 

 この間、私はといえば、伐採されてチップにされる寸前に救出された二小の桜たちのその後を追いかけていました。

 卒業式、入学式のたびに見事な花をいっぱいに咲かせて、半世紀以上子どもたちを祝福してきたのに、突然「ここにいたらいのちはないから避難するよ!」と枝も根も大きく落とされて掘り出され、狭い校庭の隅にみんなで仮住まいさせられた後、「ここには戻れる場所がないから別の場所に引っ越すよ」と見知らぬ土地に連れていかれた校庭の桜たち。

 阿佐ヶ谷、秩父、品川、市原、伊豆、練馬、桜川、館山、日光、世田谷……。幼稚園から大学、ギャラリー、コミュニティ施設、個人邸まで、心ある「里親さん」のもとを訪ねる旅でした。

 歳を重ね、満身創痍のからだで新たな場所に立ち、それでもいのちの限りで花を咲かせた姿は、人生を励ましてくれているように見えました。

 一方で、新たな土地で枝が落ちてしまった桜も。それでも、「この桜が来てくれたから、この場所の環境を考え、手入れするようになりました。元気になってほしい一心で」と里親さん。「こんなにも木のことを想い、生きてほしいと願ったことはないです」とも。

 桜をはじめ樹木と人が織りなす物語。いつか皆さまにお届けできることを願う春です。

 2025年4月11日 前田せつ子