南フランスでの上映、無事に終わりました!

ひとりの想いが現実をつくる。

その想いが「持続する志」である限り。

別の言葉でいえば、消えることのない情熱だ。

島内アゾラン咲子さんからこのサイトの問い合わせ欄からご連絡をいただいたのは去年の7月のこと。南フランスのオクシタニー州に住んでいらして、『杜人』を見つけて上映したいと名乗り出てくださったのでした。

本編もまだご覧になっていないのにその情熱に火を灯してくださり、フランス語字幕も自ら引き受けてくださって、映画配給の申請(フランスではこれがとても面倒!)にもチャレンジ。映画館にも個別に交渉をして、『LA QUINZAINE DU JAPON EN OCCITANIE(オクシタニーの日本2週間)』という企画の中で4つの映画館に各1回ずつの上映を決めてくださいました。

和紙に印刷した貴重なポスターも作ってくださいました!
11/19初日、Albiという古都での上映会はみんなで記念撮影を!
11/22アレスという地方都市の「地球座」という名のシネコンで。宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』は
『LE GARCON ET LE HERON(少年と鷺)』というタイトルで公開中
フランスでも大ヒット中らしい。フランスで日本のアニメは大人気。それがきっかけで日本大好きになってくださる方も!
普通のシネコンに果たしてお客様は入ってくださるのか? 上映開始2分前までゼロだったことは忘れられません!
11/23、クレルモンレローでの上映はフランス全土で活動する環境団体の協力を得て良質な映画を提供することで有名な「CINE RENCONTRE」で
ああ、フランス語がわかれば、他の作品も観たかった
11/24ペズナスの古い大きな映画館で最終上映。一番多くのお客様が入ってくださいました

この間のことはMotion Gallery「杜人」プロジェクトのアップデート4243に載せたので、どうぞご覧くださいね。

日本に帰ってきて改めて思うのは、『杜人』に宿る見えない力のこと。雨が少なく岩だらけで一年中乾燥している南フランスは、風土も気候も日本とは随分異なります。もちろん、言語も、文化も、価値観も。それなのに、多くの方が「とても心を揺さぶられた」「感動した」「目に見えないものを感じるムッシュウ矢野の視点はもっと世界に発信されるべき」「やはり風が大切だとわかった。多くの学びと驚きに満ちていた」……と感想を述べてくださったこと。「大きな仕事をしてくれて、本当にありがとう」と仰ってくださった方も。中には「日本に行って講座を受ける」「早速自分の庭で実践してみる」と宣言された方もありました。

最終上映のペズナスで、深く感動したと声をかけてくださった女性
立派な庭をお持ちで、「早速ムッシュウ矢野に倣ってやってみるわ」と

「違い」を超えて「通じるもの」。世界共通の何かが映画の底辺に宿り、それぞれのお客様の感性に響くものがあったことは、人間という生きものへの信頼につながる体験でした。

 上映後のトークは事前に日本語で書いたものを咲子さんに訳してもらって、咲子さんのパートナーのフレッドに発音を特訓してもらって挑みました。フランス語の長文を読むのは学生時代の第二外国語の授業以来でなんと40年ぶり! 読むだけならなんとかなるだろう……という考えが甘過ぎたことは行ってから実感したことでした。いわゆる挨拶だけならともかく、ある程度の内容を伝える文章を読むのは何回練習しても言葉が口に馴染まない!

 到着した翌日から毎晩練習したものの、なんとか伝わったかなと思えたのは最終日。もっと勉強して、いつかリベンジしたいものです。ちなみに、冒頭は「ベルサイユのばら」。バスティーユへと蜂起する市民に銃を向けることができず、フランス衛兵隊長の徽章をもぎ取り「人間は髪の毛一本までも自由なのだ!」と叫んだオスカルに心を射抜かれたところから始まる長い挨拶をしたのでした。私にとって矢野さんは、人間という徽章をもぎ取り、虫たちの側に立つ戦士なので。

滞在先(サラスク村)の大家さん、ブノワ。自然なものに惹かれ、島根で修行して和紙職人に。佇まいは静かで日本語も上手で働き者
お料理も上手い
お喋り好きなガールズが焼いた手作りのデザート(タルト・オ・ポンム)も美味しかった。彼女たちは島根で「石見神楽」を何度も観ている強者。コレクションは「ふりかけ」
見渡す限りの葡萄畑。このあたりは美味しい白ワインの生産地
街路樹はプラタナス!
どこもかしこもプラタナス(フランスではプラタン。材木としても使うそうだ)
マツも多い
日本とは随分違う形
山は岩だらけ
高速道路の側面はこんな感じ

ほとんど観光らしい観光はしない旅でしたが、咲子さんのおかげでさまざまな方に出逢い、家庭での食事に同席させていただき、サラスクという観光ではまず訪れない村に滞在し、そして、たくさんの動物たち(世界中どこに行っても変わらない!)に逢えたことは、忘れ得ぬ宝物になりました。

咲子さんちの愛犬プルヌと愛猫メイ。プルヌは日本から連れてきた
グラフィック・デザイナーでMORIBITOの宣伝を手伝ってくれたフローラン。愛犬フロコンとフィッシュマンズや園子温が大好き
仏語字幕を手伝ってくれたジュリーのところにやってきた仔猫、フュードルはずっとフロコンを追い回していた
ブノワの家のシキ(四季)はお父さんが秋田犬
その名も「スミエ(墨絵)」は裏庭の竹林に住む
地中海に面した古い漁師町、セートで見つけた猫マンション(!)
面白い漁師町だった
世界で最も美しい村の一つ、サン・ギレーム・レ・デセールに暮らす猫
その子の友猫
1855年に植えたというプラタナスは168歳! 旅の途中に見た一番大きな樹だった
夏は観光客で賑わう広場の真ん中に

フランス国内で映画を配給する資格を取得した咲子さんは、『MORIBITO』はもちろんのこと、これから日本の映画を中心に配給にチャレンジしていくそうです。頑張れ、咲子さん!

咲子さん(右から2番目)も23日と24日に通訳を引き受けてくれためいこさん(一番左)も、背筋を伸ばしてフランスで生きていく

さて、フランス行きですっかりご報告が遅れましたが、11月11日には1年かけて茨城県内に「点穴」をあけるように開催してくださった連続上映会のファイナルに行ってきました。なんと12回に及ぶ上映会を中心となって開催してくださったのは梅津順次さん。昨年11月の鬼石(群馬県)での上映会でお会いしたとき、47都道府県の中で茨城だけ未だ上映がないことを告げると、連続上映会を決意、実行してくださったのでした。

13:30〜1回目の上映は高源寺さんで
なんとこのお寺には「地蔵けやき」と呼ばれる樹齢1600年の欅が!

主催は「畑からつながるコミュニティ」の綱島さんご夫妻。コロナ禍で子どもも大人も自由に遊べ、学べ、自然とつながる場所として「大地の再生」の手法で竹林整備、水脈通しを行ったという場所には、心地よい風が吹き、生き生きとした空間が形成されていました。

ここには竹が繁茂し、歩くこともできなかったとか

畑で採れたさつまいもとマコモダケで夜の部の仕込みを。いただいたかき揚げ、美味しかった!
定期的に通って環境再生・整備を実践・指導されている小松学さんとコミュニティを主催する綱島さん
パワー溢れる実行委の皆様、お世話になりました!
いただいたお弁当、とてもおいしかったです
観に来てくださった皆様と
夜の部は整備した竹林で野外上映会
懐かしくあたたかい風景でした

どんな場所に行っても、感じるのは「結(ゆい)」。人間は共感することを喜ぶ動物と聞いたことがありますが、会話などなくても、そこに「いのちの共振」があれば通じ合える。

ご報告が長くなりました。今日から12月。斜めに長く射し込む冬の光は、また新たな年へと繋がっていきます。

どうぞあたたかくして、2023年の締めくくりを豊かにお過ごしくださいね。

 2023.12.1 前田せつ子