コンクリートの廃墟に、森がやってきた!

 今日の東京は雪景色。雪に弱いと言われる都市空間ですが、雪化粧した風景は静かで美しいです。鳥の声もしませんが、こんな日、きっと鳥たちは大きな樹木に護られているのでしょう。

 2月7〜8日、兵庫県西脇市にある播州織工場、tamaki niimeに行ってきました。1月17〜18日に初めて訪れてから2回目。前回の投稿で「人工物を敵とせず、共存を図る新たな施工法への挑戦」と紹介した「動物たちの家」プロジェクトの第2期工事です。

 行ってびっくり! 古きもの、新しきもの、無機物、有機物、植物、動物、人間、大地、空気と水、光と熱の、新たな循環と共生が、まさに実現に向かって具体的な一歩を踏み出していました。矢野さん曰く「動植物園」。動物の中に人間が含まれることは言うまでもありません。

元は使われなくなったコンクリートの浄化槽。覗いてみると……
中はこんなふうになっていた
植物たちでいっぱい。茶色の葉がついているのはコナラ。春になれば緑の新芽を吹くだろう
途中経過だが、屋根は完全には覆わない。入ってすぐは水飲み場、泉になる予定
無機質のコンクリート槽の外観を覆うのは原木丸太と生きた植物たち

 ちなみに、こちらが前回、1月17日の様子です。

自分たちの家をチェックする山羊たち

 さらに、浄化槽の上も原木が横たわり、その空間にもどんどん植栽が運び込まれていました。

屋上緑化というより、屋上が森に……
ちなみに1月18日時点ではこんな感じ
2月8日夕方時点での全景。株立ちが美しいソヨゴは、tamaki niime所有の里山から移植

 どんなに写真を並べても、この現場のリアリティを伝えることはできません。コンクリートの直線形状が、一つとして同じものはない自然の多様な形状とともに在ることで息づくとき、「負の遺産」だったコンクリートが、どれほど自分の役割を別の形で果たし始めるか。植物の匂い、足の裏に伝わる変化に富んだ起伏、やわらかさが、どれほど動物としての人間をワクワクさせてくれるか。

 この工事の意味を、矢野さんはこんなふうに語りました。現代の経済社会システムへの痛切なメッセージです。

右から矢野智徳さん、増茂匠さん、岩田彦乃さん
流線形に張り巡らされた水脈が一番の要

「経済の仕組みは、お金を払ってものを仕入れるところから始まる。でも、出発点の自然にはお金を払っていない。今回、必要な植物はできるだけ近くの林や里山から移植した。ある林からは、主に伐り倒された木々の根株を勝手に持っていっていい、ということだった。でも、そこに行ったら、大地は傷んでいるし、植物も元気がない。それに輪をかけて僕らが根株だけ持っていったら、この林はもう元も子もないな、と。明らかにこの大地は呼吸が弱っている。伐られた木々、残された材は放置され、荒れた風景。取るものを取られて、あとは残骸として残された占領の場。悪く言えば戦場」

「これを素通りしたら、大地の再生で言っていること、やっていることと矛盾する。それをやろうとすれば手間もかかる。なかなか大変な作業。でも、その延長線上にコンクリートの廃墟の再生事業がある。そこを再生することで、流域、風土の再生に繋がっていないと、本質を外すことになる。それで、林にも手を入れることにした。取ってくるだけでなく、大地に脈を通しながら、なんとか息ができる環境をその林に提供して」

木々が伐採された戦場のような林から運び込んだ根株が、ここでは新たな役割を担う

「その材を持って現場に戻ったら、コンクリートの廃墟がワッと息づき始めた。原木丸太を含めて、自然の材がいかに力を持っているか、見せつけてくれた。その材を使うとき、林に対しての気遣いと同じように向き合っていくと、見えない空気が通っていく。現場が息づいていく。再生していく。それは人それぞれが群れをなす生きものとして結の連携も生み出していく。これが人間、これが生きものだということを見せてくれた」

結作業で粗枝を敷き、炭と粗腐葉土を撒く。最後はグランドカバー。どんな現場でもやることは同じ

「土地利用の出発点は、ボタンの掛け違えから始まった。いつも人都合のボタンが先にかけられた。それをひっくり返す経済、内容を組み直す作業が本来の大地の再生作業。それをやっていくことで、生きもの環境も、気象の環境も、連動してプラスを生み出し、それが流域、風土の再生に繋がっていくべきもの。流域改善の基本が問われている」

「経済的な問題をtamakiさんサイドで全部賄ってもらうのは不可能。これは人社会がずっとやってきた負の蓄積。本来、自然から何かをいただくときは、傷めず穢さず大事に使わせてもらうことから出発しないと、生態系の一員として森の秩序、生態系の秩序は保てない」

「一体いくらかかるのか、わかっていない。資金調達の目処も立っていない。でも、目処がたってから始めたのでは遅い。大地の再生ネットワークはもちろん、僕らだけでなく社会に向けて、これを社会が負ってくれることを願っている」

普通ならごみとして廃棄されるものも水脈に組み込み、炭をかけ、息づかせていく
関西を中心に北海道からも駆けつけた大地の再生メンバー

 ここはまさに「大地の再生」の集大成であり、新たなチャレンジの場。その場に人間以外の生きものたちが集ってお腹を満たしていることが、一層心を満たしてくれました。

集めた水脈資材もどんどん食べます
うーん、紅梅の蕾はあんまり食べてほしくないのだけれど
羊たちもモリモリ

 tamaki niimeさんの工場&ショップにはアルパカもやってくるそうで、2月11日〜12日にはこれまでで最大のイベント「niime博」が開催されるそうです。

誰でも参加可能。是非この動植物園も体感してください
綿花に続いて、羊毛やアルパカ、カシミアも自分たちの手で紡ぐ志。ただし、全量生産を目指してはいない
着々と準備が進められていました

 聞けば、4日間の予定だった2期工事は予定通りには終わらず、5日目の深夜、いや6日目の朝2時まで続いたとか。ちなみに、動植物園の中心には水の循環が、びっくりするような形で出現するそうです。

屋上の風景が遠い山並と繋がるように
一瞬雨が降り出した……と思ったら、この虹を見せてくれるための雨だった
この風土と繋がるように

 この現場の続きは、またお伝えします。

 2月はこれから生活クラブ生協、大地を守る会、グリーンコープやまぐち生協(下関、周南)など、生産者と直接繋がって環境を傷めず穢さない生活を提案してきた協同組合の上映会が続きます。2月27日からは第12回「3.11 福島を忘れない!」江古田映画祭2023での上映も。詳しくは劇場および自主上映のスケジュールをチェックしてください。

 どこかの会場でお目にかかれることを楽しみにしています!

     2023.2.10 前田せつ子