大分の日田から福岡、そして函館へ。忘れがたい旅を終えて

9月も半ばを過ぎましたが、まだまだ日中の暑さが収まりません。それでも、朝夕の風、虫の鳴き声は秋の到来を知らせてくれます。

さて、8月15日『ホピの予言』オンライン上映会、157名の方にご視聴いただきました。改めて御礼申し上げます。ありがとうございます!

初めてご覧になった方も多く、「今こそ観るべき映画!」「衝撃を受けた」とたくさんのご感想をいただきました。

北米大陸の大地で「ホピ」=「平和の民」は、「母なる大地を傷つけてはならない。最低限必要なものだけをそこから収穫する」という教えを守り、「生きとし生けるもの全ての調和と均衡を大切にする」暮らしを送ってきました。とうもろこしを主食に、牛、馬、羊の放牧と織物をし、ナバホと大地を共有しながら永く生きてきました。

新たな移住者によって強制移住を強いられた砂漠の土地がビッグ・マウンテン。そここそがウラニウムの眠る土地で、その採掘に従事することになった彼らは被曝し、そこから掘り起こされたウランが広島に落とされることになりました。

「鉱物資源は母なる大地の内臓。地球も生きていくのに内臓が必要。決して掘り起こしてはならない」

どんなに略奪され、蹂躙され、虐げられてもなお、その地から大地と平和のために祈りを捧げ続けてきたホピに長く伝わる教えは、現在の地球環境をも予言していました。

「宇宙のバランスを崩すと、地震、洪水、激しい嵐が我々を襲うだろう。季節の激しい変化、火山の爆発、稲妻。そして第三次世界大戦が起これば、我々のうち何人も生き残れなくなるだろう」

私たちの歩むべき道を示すように予言は続きます。

「木々も果実も花も鳥も守らなければならない。なぜなら、それは私たちの一部だから」

1986年、宮田雪監督が私財を投じ、命懸けで撮られたドキュメンタリー『ホピの予言』。現実世界が進んでいる方向の危なさに打ちのめされながらも、自身の生き方を見つめ直す時間になりました。

さて、8月19日には、大分県日田市にある「小さくて自由な映画館」日田シネマテークリベルテに行ってきました。

昨年の8月、家族の急病でトークの予定を急遽キャンセルせざるを得なかったのですが、オーナーの原茂樹さんから「リベンジで是非!」とお声かけいただき、2週間のアンコール上映の初日に伺いました。

ボウリング場併設というところは大阪の第七藝術劇場を思い出させ、それだけでも気持ちは高揚。入ってみると、カフェにオリジナル・グッズがひしめくショップ、写真展もあり、まさに「文化の発信基地」!

原さんがナビゲーターを務めてくださるトークはなんと1時間半にも及び、「ぶどう園物語-ザ・スターリンになれなかった男」を上梓されたばかりのツージーQさんもいらしてくださって、とても熱く、貴重な時間になりました。

日田と言えば「進撃の巨人」の諫山創さんが生まれ育った場所、山々に囲まれた盆地、というイメージが先行していたのですが、原さんにあちこち案内していただいてわかったのは、数々の歴史の舞台となった神がかった土地だということでした。

日田のソウル・フードと呼ばれているらしい「賽屋本店」のチャンポンはボリューム満点で懐かしい味! 道の駅には「進撃の巨人ミュージアム」、駅前にはリヴァイ兵長の銅像もあって、一度では消化しきれない奥深さを感じました。

さらに、トーク翌日、博多へのバスに乗る前に原さんが連れていってくださったところ、そこは……。

中村哲医師がアフガニスタンの地で水路を引く時に実際に訪れ、その技術を真似たという山田堰。大きなシロサギが魚を求めて何羽も集まり、近くには巨大な楠木があって、何度もの旱ばつ、飢饉に苦しみながらも知恵を絞って自然と共に生きてきたこの地域の力強さを感じる場所でした。

さて、その足で福岡へ。福岡市には各学区に人権尊重推進協議会があるそうで、西高宮校区主催の上映会に呼んでいただきました。

ここで教えていただいたのが「桧原桜」の物語。

昭和59年、福岡市南区の桧原にある樹齢50年のソメイヨシノ9本が道路の拡幅工事で伐採されることになり、1本が伐られた翌朝、一人の住民が桜に歌を下げたとか。

「花あわれ せめてあと二旬(にじゅん) ついの開花をゆるし給え」

この短歌が話題となり、数多の歌が桜に吊り下げられ、その中にこんな返歌があったそうです。

「桜花(はな)惜しむ 大和心(やまとごころ)のうるわしや とわに匂わん 花の心は」

それがのちに福岡市長の歌だったことがわかり、道路拡幅計画は一部変更され、なんと8本の桜がいのちを永らえることになったそうです! いまこそ、そういう首長の気概が望まれるところです。

9月に入ってからはここへ。さあ、この人物は誰でしょう。答え:石川啄木。北海道は函館に行ってきました。

呼んでくださったのは、函館映画鑑賞協会。1980年11月にテオ・アンゲロプロスの『旅芸人の記録』の上映を皮切りに、「函館に岩波ホールを!」と『木靴の樹』『ベニスに死す』『生きる』『泥の河』『阿賀に生きる』など数々の名画を上映され続けてきた市民団体で、過去には手塚治虫監督、宮崎駿監督も呼ばれたそうです。正直、気後れするというか、申し訳ないような気持ちでしたが、映画文化を愛する皆さんの熱い想い、持続する志に触れて、強い力をいただきました。

空港への送り迎えから、ホテル、食事まで、行き届いたお心遣いとその笑顔に、別れがたい想いで帰ってきました。

今回は年に一度の、非会員の方も参加可能な特別例会でしたが、基本的には年に6回、会員向けの例会(上映会)を開いていらっしゃいます。映画を観終わった後、「感想会」と名付けて感想をシェアする時間を設けていらっしゃるのもとてもいいと思いました。函館近郊の方、お勧めします(hakodate-eikann★ncv.jp *★を@に変えて送信してください)。

啄木小公園から眺める海の向こうには青森県。よく見ると白い建物が。東日本大震災で一旦ストップしたものの、建設が進み、稼働間近の大間原発でした。

「一旦事故が起きたら、遮るものが何もない。函館市は市として反対しているんです」

美しい風景の先には必ずと言っていいほど人の欲がある。

「杜人」が見せてくれる風景、出逢わせてくれる人々、かけがえのないその縁を、大事に育てていきたいと思います。

 2023.9.19 前田せつ子

『ホピの予言』オンライン上映会、8月15日に開催!

台風6号に伴う土砂災害、水害に遭われたみなさまに心よりお見舞い申し上げます。

猛暑に豪雨。人間の開発によって蓄積された地球の「脈」の詰まりが、気候変動というより気候危機となって人間に襲いかかっているようです。

私たちはどう生きるのか。

宮﨑駿監督の最新作は、これまでの作品の集大成とも思える強い力で、私たちに問いかけているようです。

猛暑は樹木のありがたさを思い知らせてくれる。国立・大学通りの両脇にある銀杏と桜、実生の木々の緑地帯にどれほど救われるか

さて、〜つづく つながる〜くにたちみらいの杜プロジェクトのクラウドファンディング「樹木(いのち)の緊急避難プロジェクト」は、7月12日、目標額の123%を達成して終了しました。

スタートダッシュからラストスパートにいただいた畳み掛けるような応援(なんと、必死に救出作業をしてくださった職人さんまでが!)の渦に、プロジェクト・メンバー一同どれほど励まされ、勇気と希望をいただいたかしれません。

改めて、心より御礼申し上げます。

8月10日現在、仮移植した木々は互いにスクラムを組んで過酷な環境を耐えてくれています。

大きく剪定した枝の先端から新しい芽が!
既存の桜と支え合うようにして呼吸を繋いでいます
最後に救出された桜、元気です!

ここに仮移植されている木々は35本。多くが桜で、モミジやイスノキ、ヒマラヤスギもいます。でも、まだ本移植先は決まっておらず、仮移植にかかった費用もまだまだ足りていません。

そんな状況を見かねて、大地の再生活動に深く共鳴されているランド・アンド・ライフ(辰巳玲子さん主宰)が、このプロジェクトをはじめとする三団体のチャリティー・オンライン上映会を企画してくださいました。

上映してくださる映画は『ホピの予言』。辰巳玲子さんの言葉を引用します。

「地中の鉱物、天然ガス、地下水はMotherEarthの内臓。ことにウランは消して掘り出してはならなかったのです。

矢野さんは『杜人』の中で、『単純に、皆さんの体で考えて頂ければ、呼吸と血管、空気と血液という循環ですね。これが体の中を巡っているのと同じように、地球上の大地そのものが、大気と水の動き、これが地球全体で体のように循環しているということ』とインディアンと同じことを話されています。

バランスを保つこととは、宇宙の真理とともに在ることです。それが平和の有り様なのだと。平和を創る〜様々なアプローチ、歩み方があります。小さいかもしれませんが、その交流の場となることを願っています」

『ホピの予言』は「ムーミン」や「あしたのジョー」、「ルパン三世」(TV第一シリーズ!)、そして「探偵物語」(松田優作)など名だたるTV作品を手がけた脚本家、宮田雪さんがアメリカ先住民の「ホピ=平和の民」と出会ったことをきっかけに、私財を投じて撮られた渾身のドキュメンタリー。

1986年、まさにチェルノブイリ事故が起きた年に公開されました。当時はフィルムしかない時代。資金的にも労力的にも、どれほど大変だったか想像も及びません。

それでも、文字を持たない彼らが石板に刻んだ絵、口で伝え継いできた大切な教えを、絶対に世界へ、次なる世代へと伝え継がなくてはいけないという想いでつくり上げた『ホピの予言』

ここには、宮﨑駿監督に通底する地球と人類への祈りが脈打っています。

ご覧になったことがある方も、初めてご覧になる方も、是非、いま、「ホピの予言」の意味を、私たちが生きていく方向を、一緒に考え、見据える機会になることを強く願っています。

是非、下記のリンクをご覧ください。私もトーク・ゲストの一員として参加させていただきます。

平和を創る〜『ホピの予言』上映会

8月15日、終戦の日が、永遠にその日であることを願って。

 2023.8.11 前田せつ子

あと5日!「息をしている限りあきらめない」樹木(いのち)の緊急避難プロジェクト!

豪雨と猛暑が交互にやってきて、体調も崩れやすい時期、みなさま、お元気に過ごされていることを祈ります。

さて、前回ご報告した浦堂認定こども園みんなの庭プロジェクト〜「大地の再生」とともに〜は、みなさまの応援、ご支援のおかげで、無事目標額を達成しました! 心より感謝申し上げます。

秋には、第2弾となる園庭の環境改善作業が行われることが決まったそうです。大阪府高槻市の駅から近く。コンクリートに囲まれた敷地に「森=杜」ができ、大地が呼吸し、生きものが息づく園庭で、木漏れ日の中、子どもたちが遊べ回る風景を心に描き、ワクワクしています。

さて、国立第二小学校の校庭で校舎の改築に伴い伐採が決まった樹木100本のいのちをなんとか繋ごうと急遽発足した〜つづく つながる〜くにたちみらいの杜プロジェクトのクラウドファンディングも大詰めを迎えています。

キービジュアルを一新し、メイン動画をアップしましたので、ご覧いただければ嬉しいです。

音楽は『杜人』と同じ、山口洋さん(HEATWAVE)。凄まじいエネルギーが渦巻く怒濤の4日間を3分半に凝縮するのに、音楽は何より強い力を発揮してくれました。少しでも奇跡の「結」を感じていただければ幸いです。

この映像は、『杜人第二章』に繋がっていくもの。結末が見えない物語ですが、ともに見守り、できれば伴走してしていただけると嬉しいです。ちなみに、昨日の物語はこちらのアップデート記事を是非、お読みください。

単純に痛々しい姿と見るのか、いのちが必死で息をしている姿と見るか。いつの間にか広がった芝生も応援しているようです

さて、『杜人』の海外進出も少しずつ現実になってきています。フランス在住の方が、フランス語字幕を付けることをかって出てくださって、現在、映画館にも交渉を始めてくださっています。

こちらが予告編。

秋には南フランスの小さな映画館で上映していただけることがほぼ決まりました。南フランス。風景は全く違うものでしょうが、同じ人間として、生きものとして、届くものがあることを信じて。

『杜人』の物語、まだまだ続いていきます。

 2023.7.8 前田せつ子

「みんなの庭」に行ってきました!

以前から、水はけが悪い園庭を改善している話を「やっちゃん」こと松下泰子さん(大地の再生たむたむ支部)から聞いていました。

コンクリートに囲まれた街の中心部にあり、植物も育たず、雨の日は水たまりだらけになってしまう子どもたちの庭。

いきなり重機が入るのをためらう園長先生らの想いもあって、まずは手作業を2年近く進めてきたけれど、根本的な改善にはやはり重機も入れた作業が必要。

その費用を賄うためにクラウド•ファンディング(CF)への挑戦を考えていると。

折しも、先の投稿でお伝えした「樹木(いのち)の緊急避難プロジェクト」から1週間後、浦堂認定こども園 みんなの庭プロジェクト〜「大地の再生」とともに〜がスタート。重なるように「公益」、とくに「子どもたちの未来」のためのプロジェクトが二つ、同時期に始まることになりました。

当初、二つを同時にアナウンスすることには少なからず抵抗がありました。貴重なご支援を、あっちもこっちも、と呼びかけることが憚られたからです。でも、実際に園を訪れて、迷いが消えました。どちらもそこに私益はなく、自分を勘定に入れない「いのち」そのものへの想いを、具体的なお金というカタチに載せていただくことを願うもの。そんな「いのちの循環」を促す経済が生まれることを願うプロジェクトが成功することが、多くのひとりを励まし、未来に希望をともすと感じたからです。

屋上から見ると流線形の水脈がくっきりと

5月28日、大阪の高槻市にある浦堂認定こども園を訪れると、やっちゃん率いる大地の再生たむたむ支部のメンバーと多くのボランティアさん、そして、小さなユンボに乗って水脈を掘っている矢野智徳さんの姿がありました。

これは整地作業

日本全国(たぶん、海外でも)どこへ行ってもやることは同じ。水脈を掘り、点穴をあけ、炭と竹(コルゲート管)、枝葉とチップ、粗腐葉土などの有機材で、大地がラクに呼吸できる環境を取り戻すこと。

詰まりやすい現場で水脈を確保・維持するのに必要なコルゲート管

その園庭でも同じことが行われていましたが、園長の濱崎心子さんらにとっては、園庭を重機が動き回るのは初めての経験。保護者の方への説明含め心配事はさまざまあったと思います。でも、これまでの手作業で少しずつよくなってきているのを体感していること、矢野さんの見立てで治療が必要な理由が腑に落ちていることから、どんな要請もどーんと受け止め、柔軟に対応されていました。

作業は参加者同士の息が合うことが何より大切

この園が保育で大事にしているものと、「大地の再生」が大事にしているものとが一致していることも大きいのでしょう。

子どもたちは、こんなに遊んでばかりでいいの?というくらい毎日遊ぶそうです
卒園する子からのプレゼント
気がつくと近所の子どもたちがやってきて作業のそばで遊び始めていました

1日目の作業を見ることはできませんでしたが、職人さんよりも素人のほうが多い2日間の作業を終えて、矢野さんは言いました。

「腕のいい職人さんだけが集まってもこの作業は終わらなかった。2日間で園全体の『脈』が通ったのは、初めての人含めてごちゃ混ぜの、このメンバーだったから。凄いことが起こったんです」

一日の作業を終えた後は必ずそれぞれの想いをシェアし、深める
保育の先生方も参加されていました

見渡せば、本当にバラバラ。こういう作業は初めてという保育士さんから、千葉から大地の再生を体験したくて飛んできた女性、友人に連れてこられた方、建築士さん……。造園技師の方はごく少数。

現場をまとめたやっちゃんは、元小学校教諭。子どもが生まれ、大地の再生に出会い、子育てと一緒だと感じて赤ちゃんをおぶって講座に参加し、いまはそれが本職に。

「こどもに関わる現場、こどもが育つ場をずっとやりたかった。心子先生の『こどもが真ん中』の保育方針に出会ったとき、ここだと思った。この現場はこれまでの、いや、私の人生の集大成」

やっちゃんが責任を持って仕上げた通常のインターロッキングとは全く違う、あえてきちんと並べない、固めない、直線のない、それでいて子どもが怪我をしない仕上げ。駐車場だったスペースが園庭+(使われていなかった)レンガの道に生まれ変わった

作業中はさまざまドラマティックなシーンが展開されるのに、終わってみれば「なんとなく」しかその形跡は残っていない。でも、確実にそこを流れる風は変わっていて、足の裏に触れる感触はやわらかく、気のせいか木々が喜んで葉を伸ばしているように見えるのが大地の再生。

翌日は朝から雨。行ってみると、昨日とは全く違う風景がそこにありました。

園庭って、こどもがいてこそなんだ!と改めて思いました

嬉々としてユンボに群がる大勢のこどもたち。

レンガを割ったり、敷いたりする作業を手伝う女の子。

園庭の隅っこで、ダンゴムシを手に象の鼻のようなコルゲート管をじっと見つめる男の子。

大人たちは「なんか、変わりましたね」「森になった気がする」「広くなりましたか?」。

雨が降り出しても中に入ろうともせずカッパを着て遊び続けるこどもたちを見て、保育士さんも「なんだか、いつもより元気に遊んでいますね」。

足元に水たまりも泥水もない雨の園庭。

雨の中、散歩に行きたい子は行って、残りたい子は残って。外で遊んでも、中で遊んでも、その子の自由。

レンガの作業を手伝い続ける女の子

午後には、輪になって、園の保育士さんらが一堂に集って、この2日間のシェアが行われました。濱崎心子園長先生曰く、

「矢野さんは言います。雨風にならう。大地に聞く。道具に聞く。自分の思い込みを外して、その場に聞く。そうすると、その場が教えてくれる、と。私たちがやっている保育と一緒だと思いました。そして、矢野さんはごみを出さない。コンクリートのガラも全部その場に返して、持ち出さない。考えてみたら、ごみを出すって、排除することと同じなんですよね」

一番難しいのが整地作業。一つ一つの言葉が一人ひとりに落ちていく
こどもたちの場所だからこそ、こどもたちの目線に立った仕上げが求められる

遊ぶこどもがいてこそ生きる庭。勝手に生えてきたというたくさんのナンキンハゼも、ビワもアンズもジューンベリーも桜も、とても嬉しそうに見えました。

秋には見事な紅葉を見せてくれるナンキンハゼ

CF「浦堂認定こども園 みんなの庭プロジェクト~『大地の再生』とともに~」は6月末までの募集です。

園児が外に出てしまうからフェンスを、と言われ、泰子さんが考えた竹の柵
園児と同じおいしい給食をいただく大地の再生メンバーと心子園長

「いのちをあきらめない」ことの重さと辛さ

この1カ月間に起こったことを、どこからどう伝えればいいのでしょう。

埼玉県本庄市の小学校の、一本の欅から始まった「杜人」第二章とも言える物語。

長いのですが、ここに記したのでお読みいただければ幸いです。

「息をしている限り あきらめない」樹木(いのち)の緊急避難プロジェクト

こんなに毎日、何かに追われているように緊迫した日々を送るのは、『杜人』公開前以来。いえ、それ以上かもしれないくらい、激流の上の丸太の橋を急いで渡らなければならない日々でした。

いくつもの開かない扉を叩き続け、かろうじて開いた隙間から入らせてもらい、交渉に交渉を重ね、無理に無理を重ねて市教委と協定も結んで許された樹木(いのち)の緊急避難。

GWの4日間に救出された木々は伐採が決まっていた43本中40本。

まさか、こんなにたくさんの木々を避難させることができるなんて思ってもみませんでした。最終日を迎えた朝には、まだ18本、掘り取られていない木が残っていましたから。

最終日の朝、「今日は打ち上げの食事会だから」と家を出る私に、娘が言いました。

「全部救えるといいね。じゃないと、打ち上げも悲しいもんね」

「そうだね」と答えながら、私は全部の救出は無理だろうと思っていました。

そもそも、与えられた期間は4日間。教育委員会と上限を設けず「可能な限り」と協定を結んだものの、教育委員会も全部を掘り取り、仮移植させるなんて想像もしていなかったと思います。

それができたのは、直前の呼びかけにかかわらず、GWを返上して、あるいは既に入っていた予定を変更して駆けつけてくださった大地の再生メンバーのおかげです。

総勢50〜70名/日 の職人さんやボランティア•スタッフさんが国立第二小学校に集結してくださり、奇跡の緊急避難が実現したのでした。

その様子はメディアでも報道されました。

TBS

学校建て替えで桜など100本の伐採計画に「待った」 緊急避難させる協定を結び校舎の端へ仮移植

東京新聞

国立の学び舎、木々40本残った 桜並木やキンモクセイなど 伐採計画に有志ら動く

朝日新聞

伐採寸前だった校庭の桜並木守りたくて 市に直談判、GWの突貫作業

asacoco

桜 空を飛ぶ

報道されたのはGW中の大救出作戦の様子。大型の重機とたくさんの人が動くクライマックスとも言えるシーンですが、物語はここで終わるわけではありません。

冒頭に記した通り、かかった費用は全額市民持ち。クラウドファンディングや顔の見える方からの寄付で賄うことになります。

それ以上に、仮移植した樹木のいのちをつなげていく、という大きな使命がのしかかっています。

救出できなかった3本の木についてはすぐに伐採はないことを確認し、打ち上げはすっきりした気持ちでできたものの、連休明けの水曜日、残せるかもしれないから移植しないでくれと言われていた木々の伐採が迫っていることを告げられました。そして、残していった3本も。その経過はこちらに。

樹木(いのち)の緊急避難•続編!

大事な予定が入っていたのにそれをキャンセルして5月13日、国立に来てくださった矢野さんはじめ、2日前(!)の呼びかけに応えてくださった16名もの職人さん。

中でも予定外だったヒマラヤスギの救出作業は「いのちを最後まであきらめない」凄まじい執念と気迫が実現させたものでした。

小さな重機で根回りを掘る
ロープを繋いで引き倒した!

最後に、残ってしまった桜が一本。飼育小屋の奥で、場所的に他から離れていたこと、また赤いテープではなかったことからGW中に見落とされ(見つけられていたとしても間に合わなかったと思います)、追加の作業では重機の関係で掘り出すことが不可能だった桜。

残していかざるを得ない状況の中、しみじみ眺め、「残してくれないかな。どうしても工事の支障になるのかな……」と見つめました。

「枝ぶりといい、立派な桜なのに……」

昨日(5月18日)、真夏日が続いたため、工事中につき立ち入りが禁止されている中、仮移植された木々の様子を見にいったプロジェクト•メンバーから送られてきた写真に愕然としました。

この木は子どもたちが「小人の木」と名付け、かくれんぼなどして遊んでいた木だったそうです。

人には忘れるという能力があります。「見ない」こともできます。でも、絶対に忘れたくないと思いました。

たった一本。でも、かけがえのない一本。ついこの間まで見事な花でみんなを歓ばせ、緑の木陰で飼育小屋の動物たちを守っていた木。

大切な、いのち。

このプロジェクトは、小さな市民の力を草の根のように細くつなげながら、まだまだ続いていきます。

   2023.5.19 前田せつ子

草の根に倣って〜公開2年目に入ったいま思うこと

4月15日、公開1周年を迎えました。

2021年9月18日にスタートしたMotion Galleryのプロジェクトで389名、実際には別の方法でご支援いただいた方もいらっしゃるので、420名を超える方々から熱い応援をいただいてから約1年半。

広報宣伝は、ごく少数の新聞、雑誌、WEBメディア、ラジオを除けば、ほぼ口コミだったにもかかわらず、1年間で全国46の映画館、6つの非常設の映画館、4つの映画祭(ゆふいん、島根、くにたち、江古田)、208の自主上映会場で上映していただきました。今なお上映のお申し込みは続いています。

自主上映は15名くらいを対象とした会から300名近いもの、トーク付きやワークショップと連動している会までさまざまですが、「地域をよくしたい」という主催者様の根源的で切実な想いを中心軸に、集った方々の繋がり、連なりに支えられ、育てられ、どの会もあたたかく希望に満たされるものであったと多くの方からご報告をいただきます。

目には見えない人と人を結ぶ脈が途切れることなく打ち続け、参加された方が今度は主催者となって上映会を開いてくださっている流れを、心から有り難いと思います。そして、それは希望そのものです。

5月に咲くのが普通なのにひと月早く花を咲かせたナルコユリ。地下茎で伸び、乾燥させた根茎は滋養強壮の生薬としても知られる。実は毒性があって食べられないが、葉っぱも茎もお浸しなどで食べられるそう。花言葉は「元気を出して」「あなたを偽れない」「心の痛みのわかる人」

4月2日、柏崎での上映会には河川工学の第一人者、大熊孝先生(新潟大学名誉教授)の講演が。『阿賀に生きる』製作委員会に関わる中で「川」の定義が自身の中で変わり、その後は学生にこう教えたという。「川とは、山と海とを双方向に繋ぐ、地球における物質循環の重要な担い手であるとともに、人間にとっては身近な自然で、恵みと災害という矛盾のなかに、ゆっくりと時間をかけて、人の“からだ”と“こころ”をつくり、地域文化を育んできた存在である」

「草の根」とは、小さな市民運動のたとえではありません。

溶岩流が流れ下った噴火口を観察していた矢野さんは、そこで草の根の本当の意味に気づいたそうです。

「植物が芽吹くなど想像できない過酷な環境に一番にやってくるのは草。一番手の草が枯れると、その草の根がつくった空気の通り道めがけて二番手がやってくる。二番手が枯れると、今度は三番手。草はそうやって、自身が枯れても根を残し、次の草が生きていきやすい環境をつくる。それが本当の草の根」

これからの時代に向けて、本気で草の根に倣いたいと背筋を伸ばす想いです。

初夏に咲く野菊、ミヤマヨメナ。山野に自生する

さて、これからに向けてみなさまと共有しておきたいことを書いておきます。

1)クラウドファンディングのネクスト・ゴールでもあった『MORIBITO: A Doctor of the Earth』(英語字幕版/インターナショナル・エディション)の貸し出しを開始しました。国内での上映はもとより、英語圏での公開に向けて本格的に取り組んでいきます。

2)フランス在住の方からのお申し出、ご協力により、フランス語字幕版を現在制作中です。フランス国内での上映(映画館、イベント、自主上映会)に向けて準備を進めています。

3)ナレーションや背景音、会話のすべてに日本語字幕が付いたバリアフリー字幕版(制作:シネマ・チュプキ・タバタ)の貸し出しを開始します。音声ガイドについては、申し訳ありませんが、もうしばらくお待ちください(DVD/Blu-ray化までお待ちいただく可能性もあります)。

4)長くお待たせしていたオンラインでの自主上映会を8月以降の開催で受け付けます。

5)クラファンのエンドレス・ゴールである「チルドレンズ・エディション」については、現在各方面からご意見やアイディアをいただきながら進めています。加えて『杜人』に収録できなかった現場や新たな現場を含め、続編というよりは番外編(スピンオフ)に近い映像の制作も考えています。続報をお待ちください。

6)YouTubeチャンネルで「矢野智徳 大地の再生の手法」①~④をアップしたまま間が空いてしまいましたが、新たな手法⑤~を順次アップしていきたいと考えています。『大地の再生 実践マニュアル』(矢野智徳/大内正伸 著 農文協発行)を実践する際の参考になればとも思っています。Setsuko Maedaのチャンネルをご覧ください。

なお、これまでの動画については、こちらにまとめています。

「木」と「土」と「人」の物語だから「杜人」。

撮影を始めて半年くらい経った頃にふと浮かんだ言葉を、北極星のように仰ぎ見ながら歩んで4年半。矢野さんが大切にしている「杜」の意味が忘れ去られていく中で、この言葉が多くの方に届いたことは何より嬉しいことです。

ただし、この物語の主人公は矢野さんではありません。

山に霊性を見、魂が還る場所として敬い、畏れ、川を友として親しみ、海を母として愛し、自然と共に暮らしたかつての人々。

生態系の輪の中に在った動物らしい人間。

それとは正反対に、いま社会が向かっている方向は、五感を無視し、手足さえ使わずに仮想空間を生きる人間へと駆り立てている気がして仕方ありません。

2011年の原発事故などなかったかのように原発の再稼働、運転期間延長、さらには新設・増設が方針として示され、国民的議論のないままALPS処理水が海洋放出されようとし、再生可能エネルギー推進の名のもとに森林が伐採され、都市空間においても大量の樹木が伐採されていく中で、私たちはどう生きるのか。

100年後、1000年後の世界から現在の私たちを眺めたとき、愚かで哀しい民にならないために。

足元から草の根で、未来につづく「杜」を、一緒につくっていきたいです。

 2023.4.17 前田せつ子

昇り龍そっくりなご近所の庭のアカマツ。植えたわけではなく元々山林だった頃自生していたもの。真夏でもこの松の木陰は涼しく野鳥が集まる。宅配便の人も思わずひと息ついていくのだとか

海、里、森で起きていること。繋がりを取り戻すこと。7代先を考えて動くこと

白木蓮の花が開いたと思ったら、あっという間にハラハラと散ってしまいました。

気温の変化に植物たちが戸惑っているようにも見えるこの頃、私たち人間が大地、生物、気象に及ぼしている影響を考えずにはいられません。

花言葉は「自然への愛」「慈悲」「気高さ」「高潔さ」

さて、長くなりますが、この間のご報告をさせてください。

2/11、12には私が加入している二つの会、生活クラブと大地を守る会主催の上映会が開催されました。生活クラブは2010年から、大地を守る会は娘が小さい頃、2000年からお世話になっています。

羽村で開かれた多摩きた生活クラブ生協主催の上映会

大地を守る会(オイシックス、らでぃっしゅぼーやの3ブランド共催)の上映会では、初めて生産、流通に携わる方と直にお話しする機会を得ました。海、里、森に携わる方にお話を聴く1時間半はあっという間で、とても考えさせられる時間でした。

まずは海。「とろイワシ缶」でお馴染みの千葉産直サービスの冨田正和さんの現場からの声は衝撃的でした。
「ほんとうに魚が獲れていない。獲れないというよりは育たない。同じ期間海にいても育たないんです。秋刀魚は4年連続で不漁。2018年の統計に比べて85%減。昔は獲らなかった小さい魚を獲らざるを得ない状況。大衆魚の鯖もどんどんいなくなっています。要は海の中のプランクトン、豊かな藻場が減っている。森、里、川から流れてくる水の養分が減り、マイクロプラスチックの問題もある。利根川流域に住んでいる人たちの中で、自分たちが使っている水がどこに繋がって流れ出ているか考えている人が、いったいどのくらいいるでしょう」

食べることが好きでIT企業から転職したという冨田さん。海の生きものへの想いがこもっていました
植物プランクトンが流れ込まない山と海の分断に加え、ネオニコ系農薬、除草剤、合成洗剤、マイクロプラスチック…

利根川流域で農業経営者を束ねる有機栽培あゆみの会の齊藤篤司さんは「稲作だけで760ha、畑を入れると960ha、1300戸の農家をまとめていますが、そのうち50ha以上は私含め5軒しかありません。小規模経営がほとんど。昔は25haで一家が食べていけたんです。でも、1俵15000円の最低ラインがいま1万円に下がってしまって、これではとてもやっていけない。それでも農家さんは先祖から受け継いだ土地を守っていこうと皆さん必死。だからやめられる時は突然なんです。今年も10ha引き継いでくれないか、と言われましたが、いつか背負いきれない時が来る。そうなると耕作放棄地が増えて、海への影響も広がっていく」。

齊藤篤司さんが作られた資料。大自然、環境、生物があって初めて経済が成り立つ

森を中心に環境問題に取り組む生活アートクラブの富士村夏樹さんは「日本はノルウェーに次いで世界2位、3位を争う森林大国。にもかかわらず森の健康状態が悪過ぎる。国産材の自給率が平成15年は過去最低の18%。人工林が放置されると光が入らず森は荒れる。間伐しても出口がないと燃やすしかない。山が保水力を失うと災害も増える。使わなくなったのは竹も同じ。とくに九州、山口は放置竹林が多く、竹は縦横無尽に根を張るため行政に相談に行くと除草剤を撒けと指導される」。

もともとは腸内細菌が専門の富士村夏樹さんの言葉は説得力に溢れていました

海、里、森で起きていること。一つボタンをかけ違うと限りなく広がっていく汚染の問題。いのちの疲弊。じゃあ、いったいどこからボタンをかけ直せばいいのか。自分自身の生活からしかない、と痛感させられました。

海、山、森がつながっているように、人もつながっていかなければ

2/19には山口・下関市で、2/25には周南市で、どちらもグリーンコープやまぐち主催の上映会。会場からは、「気がつくとあちらこちらで山が削られている。風景が変わっていく。風力発電やメガソーラーの話が持ち上がり、近隣の反対の声を無視して進んでいる。どうやって抗っていけばいいのか」という声も。

確かに実家のある山口にこの半年頻繁に帰省して感じるのは、水田が減り、宅地化された土地には一切植物がなくコンクリート張り、かつては生きものがたくさんいた水路にはいのちの気配が全くなく、スーパーの店先には貝類をほとんど見かけなくなってしまったということ。近くの山々も竹が繁茂し、つる植物が暴れ、木々は一様に苦しそうな表情を見せています。

大きな経済システムの中で自然はあって当たり前、「タダ同然」のものとしてその恵みを享受されるばかりで、長く顧みられることなく人間本位の開発が進められてきました。中でも戦後70数年の開発は凄まじく、自然の息は閉塞寸前、矢野さんの言う大地の環境、生物の環境を傷めるばかりかいま気象の環境にまで影響が及んでいます。

ウクライナを犠牲に軍需産業が利を得て、人間社会では仮想現実が現実の世界に取って代わろうとしているいま、できることは人間本位でない視点に立ち、小さくても、かき消されても、声を挙げ、他者とつながり、行動し続けるしかない、と強く思います。

グリーンコープやまぐちの実行委の女性たち。めちゃくちゃパワフルでした

ところで、3月も引き続き『杜人』を土日特別上映中してくださっているMorc阿佐ヶ谷で現在上映中のこの映画、ご存知でしょうか?

宮崎駿監督が、ナウシカの興行収入を注ぎ込んで(それでも足りなくなって借金して)製作、高畑勲監督の「水と人間」への想いが込められたジブリ唯一のドキュメンタリー『柳川堀割物語』。たった一人の市の職員(係長)さんが、議会承認も得て進められようとしていた「水路の埋め立て」に反対し、ひっくり返していく奇跡の実話。87年製作のフィルム作品がこうして映画館で上映されるのは稀有なことです。

根底に流れる自然と人との関係、人の在り方は、現代に深く響いてほしい理、真実に溢れています。それ以上に「一人の想いは無力でも微力でもない」ことに、とても元気が出ます! 
ご覧になっていらっしゃらない方は、是非阿佐ヶ谷に足をお運びください。

もう一つ、是非観てほしい映画があります。2/27江古田映画祭を観に来てくださったTBS「報道特集」のディレクター、川上敬二郎さんが初めて監督されたドキュメンタリー『サステナ・ファーム トキと1%』

この作品の元になっているのは、ネオニコの問題を追求した報道特集。

2021年、20分の番組ですが、EUではその問題性が指摘され、使用禁止になった農薬が未だ日本国内では「人には影響がない」とされ、使用され続けているという現実を、農業の現場、学者の発言などを織り込み、丁寧に問うていきます。

TBS報道特集「ネオニコ系農薬 人への影響は」より

生態系は循環していて、私たちが出した毒、ごみは、必ず私たちに戻ってくる。トキのためにネオニコ系農薬の使用をやめた佐渡の在り方は希望であり、深く胸打たれます。

封切りは3/17よりヒューマントラストシネマ渋谷で開催されるTBSドキュメンタリー映画祭2023。初回は3/18(土)14:15〜回。舞台挨拶付きです。

さて、ここからは『杜人』の今後の予定。お伝えした通り、3月中もMorc阿佐ヶ谷で土日特別上映中。4/22、23には高知のゴトゴトシネマで上映。

自主上映はこちら。まだまだお申し込みが続いており、最近では参加者から主催者になられる方も多く、「草の根」の広がりを感じています。

3/19は長野の駒ヶ根に伺います。後援に自治体、教育委員会がずらりと並ぶ、主催の中川英明さんの情熱が迸る上映会。一緒に登壇するのは、いま全国で進み始めたオーガニック給食のトップを走るいすみ市の牽引役とも言える手塚幸夫さん

生物多様性という言葉は後付けで、植物、動物とともにでなければ私たち人間は生きていけないことを、先住民、原住民と呼ばれる人々は当たり前に知っていました。

「平和の民」、ホピ族の長老が1995年阪神・淡路大震災の後に語った言葉。

今、世界中の人々がバランスを失っている。昔の生き方に戻らなければならない、と長老たちは言っていた。

そうすることがとても難しいことは、わしは知っている。

だが、バランスが大きく崩れると、地震、竜巻、病気の蔓延、飢餓、火山の爆発などさまざまな厄災がやってくる。

わしらは、自分たちの身も心も守らなければならない。

新しく、近代的なテクノロジーは確かに強い。だが、その力でいつもコントロールできるとは限らない。

もしも事態が悪化すれば、なんの役にも立たなくなるだろう。

飢餓が来れば、大地から食べ物を得るのは難しくなるだろう。

すべてが汚染されているからだ。

そのために、わしらはたいへんな目にあう。

だから、何よりもバランスを取り戻さなければならん。

わしらは今、まるで自分で自分を滅ぼそうとしているようなものだ。

もしも、わしらがバランスを少しでも取り戻さなければ、すべてのことがますます悪化していくだろう。

人も動物も大地もすべてのものが滅んでいくだろう。そして、戦争がやって来る……

恐ろしいほどその予言が的中し始めているいま、ひとりひとりの行動が問われています。

4/2新潟県柏崎市では、大熊孝教授(河川工学の第一人者。新潟大学名誉教授。『阿賀に生きる』製作委員会の会長でもある)の講演付き上映会が開かれます。ご自身が研究してきたことの問題性に気づき、方向転換し、市民とともに活動する大熊先生の言葉からは希望の光が射してくると思います。私も拝聴しに伺います。

そして4/22、23には〝秩父MORIBITO祭  映画「杜人」×ライブ×トーク×マルシェ×自然〟『杜人 インターナショナル版(英語字幕付)』の初上映が決まりました。

音楽の山口洋さんもトークとライヴで2日間の登場。秩父水系の重要な水脈を担うMahora稲穂山で、かつて先住民の地を何度も訪れ、ヴィジョン・クエストにも挑戦した山口さんと「7代先の未来を考える」貴重な2日間。

生きとし生けるすべてのものが共に循環して生きられる世界へ。さまざまな形、やり方、生き方を、ひとりではなく共に考え、動いていきたいです。

3/11埼玉県富士見市で開かれた矢野さんとのトーク付きの上映会場で。秩父MORIBITO祭実行委のメンバーとともに

 2023.3.17 前田せつ子

コンクリートの廃墟に、森がやってきた!

 今日の東京は雪景色。雪に弱いと言われる都市空間ですが、雪化粧した風景は静かで美しいです。鳥の声もしませんが、こんな日、きっと鳥たちは大きな樹木に護られているのでしょう。

 2月7〜8日、兵庫県西脇市にある播州織工場、tamaki niimeに行ってきました。1月17〜18日に初めて訪れてから2回目。前回の投稿で「人工物を敵とせず、共存を図る新たな施工法への挑戦」と紹介した「動物たちの家」プロジェクトの第2期工事です。

 行ってびっくり! 古きもの、新しきもの、無機物、有機物、植物、動物、人間、大地、空気と水、光と熱の、新たな循環と共生が、まさに実現に向かって具体的な一歩を踏み出していました。矢野さん曰く「動植物園」。動物の中に人間が含まれることは言うまでもありません。

元は使われなくなったコンクリートの浄化槽。覗いてみると……
中はこんなふうになっていた
植物たちでいっぱい。茶色の葉がついているのはコナラ。春になれば緑の新芽を吹くだろう
途中経過だが、屋根は完全には覆わない。入ってすぐは水飲み場、泉になる予定
無機質のコンクリート槽の外観を覆うのは原木丸太と生きた植物たち

 ちなみに、こちらが前回、1月17日の様子です。

自分たちの家をチェックする山羊たち

 さらに、浄化槽の上も原木が横たわり、その空間にもどんどん植栽が運び込まれていました。

屋上緑化というより、屋上が森に……
ちなみに1月18日時点ではこんな感じ
2月8日夕方時点での全景。株立ちが美しいソヨゴは、tamaki niime所有の里山から移植

 どんなに写真を並べても、この現場のリアリティを伝えることはできません。コンクリートの直線形状が、一つとして同じものはない自然の多様な形状とともに在ることで息づくとき、「負の遺産」だったコンクリートが、どれほど自分の役割を別の形で果たし始めるか。植物の匂い、足の裏に伝わる変化に富んだ起伏、やわらかさが、どれほど動物としての人間をワクワクさせてくれるか。

 この工事の意味を、矢野さんはこんなふうに語りました。現代の経済社会システムへの痛切なメッセージです。

右から矢野智徳さん、増茂匠さん、岩田彦乃さん
流線形に張り巡らされた水脈が一番の要

「経済の仕組みは、お金を払ってものを仕入れるところから始まる。でも、出発点の自然にはお金を払っていない。今回、必要な植物はできるだけ近くの林や里山から移植した。ある林からは、主に伐り倒された木々の根株を勝手に持っていっていい、ということだった。でも、そこに行ったら、大地は傷んでいるし、植物も元気がない。それに輪をかけて僕らが根株だけ持っていったら、この林はもう元も子もないな、と。明らかにこの大地は呼吸が弱っている。伐られた木々、残された材は放置され、荒れた風景。取るものを取られて、あとは残骸として残された占領の場。悪く言えば戦場」

「これを素通りしたら、大地の再生で言っていること、やっていることと矛盾する。それをやろうとすれば手間もかかる。なかなか大変な作業。でも、その延長線上にコンクリートの廃墟の再生事業がある。そこを再生することで、流域、風土の再生に繋がっていないと、本質を外すことになる。それで、林にも手を入れることにした。取ってくるだけでなく、大地に脈を通しながら、なんとか息ができる環境をその林に提供して」

木々が伐採された戦場のような林から運び込んだ根株が、ここでは新たな役割を担う

「その材を持って現場に戻ったら、コンクリートの廃墟がワッと息づき始めた。原木丸太を含めて、自然の材がいかに力を持っているか、見せつけてくれた。その材を使うとき、林に対しての気遣いと同じように向き合っていくと、見えない空気が通っていく。現場が息づいていく。再生していく。それは人それぞれが群れをなす生きものとして結の連携も生み出していく。これが人間、これが生きものだということを見せてくれた」

結作業で粗枝を敷き、炭と粗腐葉土を撒く。最後はグランドカバー。どんな現場でもやることは同じ

「土地利用の出発点は、ボタンの掛け違えから始まった。いつも人都合のボタンが先にかけられた。それをひっくり返す経済、内容を組み直す作業が本来の大地の再生作業。それをやっていくことで、生きもの環境も、気象の環境も、連動してプラスを生み出し、それが流域、風土の再生に繋がっていくべきもの。流域改善の基本が問われている」

「経済的な問題をtamakiさんサイドで全部賄ってもらうのは不可能。これは人社会がずっとやってきた負の蓄積。本来、自然から何かをいただくときは、傷めず穢さず大事に使わせてもらうことから出発しないと、生態系の一員として森の秩序、生態系の秩序は保てない」

「一体いくらかかるのか、わかっていない。資金調達の目処も立っていない。でも、目処がたってから始めたのでは遅い。大地の再生ネットワークはもちろん、僕らだけでなく社会に向けて、これを社会が負ってくれることを願っている」

普通ならごみとして廃棄されるものも水脈に組み込み、炭をかけ、息づかせていく
関西を中心に北海道からも駆けつけた大地の再生メンバー

 ここはまさに「大地の再生」の集大成であり、新たなチャレンジの場。その場に人間以外の生きものたちが集ってお腹を満たしていることが、一層心を満たしてくれました。

集めた水脈資材もどんどん食べます
うーん、紅梅の蕾はあんまり食べてほしくないのだけれど
羊たちもモリモリ

 tamaki niimeさんの工場&ショップにはアルパカもやってくるそうで、2月11日〜12日にはこれまでで最大のイベント「niime博」が開催されるそうです。

誰でも参加可能。是非この動植物園も体感してください
綿花に続いて、羊毛やアルパカ、カシミアも自分たちの手で紡ぐ志。ただし、全量生産を目指してはいない
着々と準備が進められていました

 聞けば、4日間の予定だった2期工事は予定通りには終わらず、5日目の深夜、いや6日目の朝2時まで続いたとか。ちなみに、動植物園の中心には水の循環が、びっくりするような形で出現するそうです。

屋上の風景が遠い山並と繋がるように
一瞬雨が降り出した……と思ったら、この虹を見せてくれるための雨だった
この風土と繋がるように

 この現場の続きは、またお伝えします。

 2月はこれから生活クラブ生協、大地を守る会、グリーンコープやまぐち生協(下関、周南)など、生産者と直接繋がって環境を傷めず穢さない生活を提案してきた協同組合の上映会が続きます。2月27日からは第12回「3.11 福島を忘れない!」江古田映画祭2023での上映も。詳しくは劇場および自主上映のスケジュールをチェックしてください。

 どこかの会場でお目にかかれることを楽しみにしています!

     2023.2.10 前田せつ子

旧暦元旦! 新たな挑戦の始まり

 本日1月22日、旧暦の新年が明けました。おめでとうございます。立春に一番近い新月を元日とした旧暦は、人間よりも月、太陽、宇宙の動きに従う意味で腑に落ちるところがあります。

 さて、お知らせしたいことがいくつもあります。

 まずは、待望の「大地の再生」の視点と技術を収めた本が1月18日に出版されました。矢野智徳さん、大内正伸さん共著による「『大地の再生』実践マニュアル〜空気と水の浸透循環を回復する」(農文協)です。

 私が矢野さんを追いかけ始めるひと月前、大内さんは矢野さんを追って屋久島の講座に参加。そこでこれまでご自身に欠けていた「空気の視点」に気づかれたと言います。大内さんとは、福聚寺や西日本豪雨被災地など数多くの現場で会い、半ば「同志」のように互いを鼓舞し合い、エールを送り合ってきました。

 矢野さんの本を作るのは、映画を作るよりも大変だったことでしょう。というのも、矢野さんはどんどん進化し続けていて、文章は修正が効くからです。
 待ち望む人が多いなか、紆余曲折の長い年月を経て、この本が産声をあげたことを心から嬉しく思います。
 なんとこの本、予約が殺到し、発売前から重版決定。1月22日現在、「環境・エネルギー部門」のベストセラー第1位に。本が売れない時代と言われますが、この本は長く生き残っていく本だと確信しています。

2/11(土)『杜人』上映会&出版記念講演会があります。講師は矢野智徳さんと大内正伸さん!

 講座に参加されたことのない方には若干理解が難しいところがあるかもしれませんが、最初から読了する本では決してなく、手元に置いて、パラパラめくるもよし、気になったところから読むもよし。繰り返し読むことでそこに書かれている視点、技術が馴染んでいくことと思います。その時こそ実践の時!
 ノコ鎌と移植ゴテという、両方買っても千円に満たない道具ですぐにできるのが何より「大地の再生」の強み。庭の隅やベランダの植木鉢から始めていただければ、植物の変化、土の変化が実感できるはずです。

1月9日、全国のスタッフが結集した上野原「杜の学校」新年会で行われた水切り作業。表層5cmの改善がすべての要
結作業で風の草刈り。ノコ鎌と移植ゴテは万能

 ここで、嬉しいニュースを。昨年4月15日の封切り館であるアップリンク吉祥寺、2022年の観客動員ランキングで、なんと第10位になりました。

  系列のアップリンク京都でも、同じく第10位にランクイン。

 こんなにスーパーインディペンデントな映画が、こんなにたくさんのお客様に観ていただけたのは、口コミという最古かつ最強のツールで応援してくださった皆さまのおかげです。ほんとうに、ありがとうございます!

 この間、監督トークで伺ったのは、東京・国分寺カフェスロー、そして埼玉・本庄シネマクラブ。
 1/14(土)カフェスローは『シチリアの奇跡〜マフィアからエシカルへ』を上梓されたばかりの作家の島村菜津さんと登壇、地域の方を中心に満席をいただき、熱い会になりました。

エシカルなカフェの草分け的存在、カフェスロー

島村さんは矢野さんとの出会いに加え、マフィアから没収した土地をオーガニックな畑に変えているシチリアの現在について話してくださいました

 

 1/15(日)本庄シネマクラブの上映会では、大地の再生関東甲信越支部の押田大助さんをはじめ「本気プロジェクト」の主催で、地元で活動する方々とのパネル・ディスカッション。
 本庄南小学校の岡村和美校長、地元・竹並建設会社の竹並達也社長、イベント等も積極的に開催するソルフロース(園芸店)の大澤さんらが、『杜人』の感想とともに、これから本庄市でやっていきたいことを熱く語ってくださいました。

写真左から竹並社長、奥に主催の「本気プロジェクト」の山内和彦さん(上越電気工業)、岡村校長先生、奥に司会進行を務めてくださった「本気プロジェクト」の関口佐知子さん(暮しのデザイン 季の香)、右に押田さん(中央園芸)

 岡村校長はもと美術の先生。「美術の力で学校を創る 子どもたちが輝く」方針を掲げ、「美術は人権教育!」を信念に、果敢に生き生きとした学校づくりを進める方で、なんと南小は現在不登校児童ゼロなのだとか。この日は、子どもたちが自分で選んだアースカラーの色画用紙に描いた「森」の絵が飾られ、どの絵も夢のような物語のような生き生きとした世界へと扉を開いてくれました。

 昨秋行ったクラファンのエンドレス・ゴールとして掲げた『杜人〜子どもエディション』のことを話すと、「全学年の児童に観せます!」と宣言してくださった岡村校長先生。必ず形にすべく、頑張ります!と約束しました。

 竹並さんはちょっと前まで本庄西小学校のPTA会長務めていた方で、学校のシンボルツリーの欅が枯れてきて伐採されることになったのを知って、校長先生に直談判されたそうです。話し合いの末、伐採は延期に。春に新芽が吹いて来るかどうか、様子をみることになったとか。 
 それを聞いた押田さん、仕事仲間の濱田さんと共に会が終了するのを待って欅の元に直行。とにかく、まずは点穴をあけられたそうです。

 さらに子どもたちと一緒にモグラ穴をあけることができたら、地下水脈が動き出して樹勢回復もあり得るでしょう。その時、何より自信を取り戻すのは子どもたちに違いありません。

 最後に、同じくクラファンのストレッチ・ゴール、『杜人〜インターナショナル・エディション(英語字幕版)』の制作についてお伝えします。字幕付けの作業は終わり、現在、公開の仕方とタイミングを検討しているところです。こちらが予告編になります。

 まだまだお伝えしたいことはたくさん。1/14にNPO法人グリーンワークスの会員研修として行われた中村桂子先生(生命誌研究者)のお庭の環境改善作業、また、播州織を現代に再生する西脇市のtamaki niimeで始まった「動物たちの家」プロジェクトなど、人工構造物を敵とせず、共存を図る新たな施工法への挑戦については、また次回。

 

 古きもの、新しきもの、無機物、有機物、植物、動物、人間、大地、空気と水、光と熱の、新たな循環と共生を目指して。『杜人』も進化していきます。

 2023年も、どうぞよろしくお願いいたします。

古いコンクリートの浄化槽が動物たちの家に!?
羊たちも
烏骨鶏も
みんなで住める家が
ほんとうに出来るのだろうか?
挑戦は続きます

   2022.1.22 前田せつ子

未来へのヒントは過去にしかない〜2022年のクリスマスに〜

 

 

 寒波襲来。停電の中、カイロと防寒着で一日一日凌いでいらっしゃる方、雪かきでヘトヘトに体力を消耗された方、体調を崩されている方々に、心よりお見舞い申し上げます。

 今朝の東京は風もなく、冬至を過ぎた太陽があたたかく降り注ぎ、植物も鳥もホッとした表情を見せていました。

 

 公開から8カ月と10日。息の長い応援をいただき、奇跡的にいまなおロードショー公開が続いています。改めて心より御礼申し上げます。ありがとうございます。

 この間、監督トークで伺った劇場、自主上映会場は合わせて48箇所。トークはのべ84回。85回目のアフタートークは12月27日、Morc阿佐ヶ谷で12:50回終了後に決まっています。光栄なことに、劇場からのオファーで、公開時に推薦コメントをくださった龍村ゆかりさん(『地球交響曲』プロデューサー)と一緒に登壇させていただくことになりました。

 残念ながら私には『地球交響曲/ガイアシンフォニー』という壮大で深い洞察と祈りに満ちた作品について述べる資格はありません。第一番がつくられた1992年、私は会社員。自分のことに精いっぱいで地球についてほとんど何も考えていなかったからです。あの頃、バブルは崩壊していたとはいえ、まだ経済至上主義は続いており、環境問題は現在ほど危機的状況ではありませんでした。実際には加速度を増して崖っぷちへと突き進んでいたわけですが、切実に感じとっていた人々はまだ少数派。実際、『第一番』が完成した時、人々の反応は冷たかったそうです。

 現実世界を生きる人々に、その生活の根底を揺るがすような警鐘を鳴らす人は疎んじられます。それが真実であればあるほど、なおさらに。

 でも、強い信念に貫かれたこの作品に共感・共鳴する人は少しずつ増え、昨年完成した第九番を含め全9作が、現在ではのべ250万人を超える人々に届いています。

 第一番はとくに生まれたての子どものように興奮と感動に溢れていますが、中でもこの時期思い出すのがアイルランドのニューグレンジ。先史時代(5000年前!)につくられた「羨道墳(せんどうふん)」(王の遺体が安置されている空間まで狭い通路羨道が続いている古墳)で、一年に一度、冬至の朝にだけ光が王の墓所を照らすつくりになっているものです。

アイルランド・ミース県の小高い丘に建つニューグレンジ(2017年夏撮影)。エジプトの大ピラミッドより古いという
この石を積むのにどれほどの労力と時間を費やしたのだろう
5000年前につくられて以来、一滴の雨水も漏れたことがない完全ウォータープルーフ。
最近になって入り口はコンクリートで補強されたが、屋根にあたる部分は一切手を加えていないとか。
冬至の朝にだけ真ん中の細い通路を通った光が中央の墓所に届く

 当時の人々が天文学、地学、物理学に通じ、現代でも及ばない高度な文明を持っていたことを証明するものですが、詳しいことはわかっていません。そして、この遺跡のシンボルとも言えるのが、大きな石に刻まれた文様。

5000年前の人々が描いた渦巻きの文様!

 現代人が「科学」と名づけて最先端をいっているかのように思い込んでいるものは、実はとっくに発見され、検証され、淘汰されたものかもしれない。この渦が示すものにいまこそ想いを馳せるべきかもしれません。

 哲学者の内山節さんが先週、こんな話をされていました。

「未来を考えるとき、ヒントは過去にしかない。一つの考え方が壁にぶち当たったとき、現在の問題意識をもって過去から学ぶことしかない」(12/17 陽楽の森連続講座第7 回「自然との関係を通して現代社会を捉え直す」)

 日本列島に平均して30〜40万人住んでいたという縄文人は、なぜ1万年以上も変わらない暮らしをしていたのか。なぜ生産性の向上など考えなかったのか。過去に学ぶことで精度を増した未来が見えてきます。

 さらに、こう仰いました。

「江戸期までの日本には、宗教も信仰も存在しなかった。神も仏も存在していたけれど、それらは特別の精神世界を意味するものではなく、日々の暮らしのなかに埋め込まれているものだった。かつて人間の中には死者も含まれ、自然の向こうには神仏があった。自然と生者と死者と神仏の社会。これがかつての日本の社会観」

 目まぐるしく流れてくる情報と一旦距離を置いて、見えない世界に心を寄せる静かな時間が、いまとくに求められているように感じます。

 12月27日のアフタートークは、龍村さんから未来への眼差しを示していただきながら、客席の方々と一緒に、新たな時代へのパースペクティヴが共有できるような場になるといいと思っています。劇場サイトで現在予約受付中。劇場では最後のトーク。お目にかかれると嬉しいです。

 

    2022.12.25 前田せつ子

P.S.年が明けて1月8日からは逗子のCINEMA AMIGOで新春アンコール上映があります。

また、1月22日上津役シネマ、2月4日〜5日ミクスタ・D・シネマ、2月25日〜26日東田シネマと、矢野さんの故郷・北九州での上映も続きます。

岡山シネまるむすび、江古田映画祭をはじめ、各地で新春以降の上映も決まっています。

2023年も、どうぞよろしくお願いいたします。

ニューグレンジへの道の途中、やってきてくれたクックロビン