「環境の日」に矢野さんがJ-WAVE生出演! 「杜人」は明日からアップリンク吉祥寺でアンコール上映!

photo by 田中トシノリ

 6月5日(日)は「環境の日」。1972年6月5日、ストックホルムで初の「国連人間環境会議」が開かれたのがきっかけで制定された「世界環境デー」なのだそうです。が、私は今年初めて知りました(不勉強ですみません!)。

 なんと半世紀も前にこんな会議が開かれたのに、その後、人間は何をやってきたのだろう……と思わずにはいられませんが、この日、矢野智徳さんが初めてラジオ番組に出演しました。しかも、生出演!

 朝9時20分にラジオの前にスタンバイ。なぜか緊張しながら、矢野さんの声が流れてくるのを待ちました。パーソナリティは玄理さん。そして20分間、質問に答える形で「大地の呼吸不全」と「環境再生」、「結」について、矢野さんが語りました。文字起こしして、整えたものを掲載しますね。

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玄理がお送りしています、J-WAVE ACROSS THE SKY。ここからはさまざまな国の最新カルチャーのいまをお届けするmeeth WORLD CONNECTION。

今日6月5日は「世界環境デー」です。

この番組でもさまざまなゲストをお迎えして、みなさんと一緒に考えてきましたが、今日は「大地」という観点から環境問題を考えていきたいと思います。

実はいま日本全国の大地が呼吸不全を起こしているそうです。一体どういうことなんでしょうか。そしてその解決方法はあるんでしょうか。

この時間は「大地の再生 結の杜づくり」を通して傷んだ自然環境を本来の姿に戻す活動を行っている、造園技師で環境再生医の矢野智徳さんにお話をうかがいます。

○矢野さん、はじめまして。

矢野)はじめまして。

○よろしくお願いします。

矢野)はい、よろしくお願いします。

○矢野さんは「環境再生医」ということなんですけれど、まず矢野さんが環境を再生する必要があると考えるようになったきっかけは何なのでしょうか。

矢野)造園の現場で、雨が降っているときに作業していて、大地に水がどんどん浸透していっている様子を見ていたんですけど、その場所の土の中から空気がプクプク出てきていたんですね。それは大地の中に空気がこもっているということで、空気が大地から出てくると、水が大地に浸透するっていう現象を見て、土の中の空気が動かないと、大地の中に水が入っていかないんだっていうことがわかって。

 私は当時、大学の地理学部地理学科(夜間)に通っていて、恩師の先生にこのことを話したら、そういうことは聞いたことないよって言われて。それで、これは大変なことだから研究していこうっていうことを言ってくれたんですね。それから大地のメカニズムを見ていく取り組みを始めました。もう40年近く前になります。それがきっかけと言っていいと思います。

○日本全国の大地が呼吸不全を起こしている、と矢野さんはおっしゃっていますね。

矢野)そうですね。自然界はミクロもマクロも相似形なので、大きな自然も小さな自然もシステムは一緒なんですね。ですから盆栽でも大自然を表現できる。ミクロな世界を通してマクロな世界を学ぶ、見ていく。そういう視点で、大地の中の空気が循環することを通して、水が循環することが見えてきて。それに伴って生き物が呼吸をし、大地が呼吸しているんだということが見えてきました。

 その視点で見ると、現代社会はこの半世紀近くの国土開発で、重たいコンクリートや鉄骨を大地の上に載せてきてしまった。自然状態の大地を「からだ」と見ると、重たいものが載っけられて、大地の血管が循環不良を起こしている。呼吸も血液循環も含めて、循環が普通でない状態になっている。それがもう全国で無数に起こっている。

 大地の上に重いコンクリートが載せられて、重機で締めつけられて、からだの血行が悪くなるという現象が、この半世紀近く全国で起きているわけです。その現場を見て、環境を変えていかないといけない、そういうことを取り組むようになったんですね。

○でも、だからといって、日本全国のコンクリートを取り除くというのも難しそうなんですけども。どうやったら、この水と空気の循環、元に戻るんでしょうか。

矢野)コンクリートが全部悪いわけではなくて、形や置かれている状態が問題なんです。締めつける状態でなく、循環する状態をつくってやればいい。だから、血行不良を起こしていたり、詰められて呼吸がしづらくなっているようなところを、ちゃんと循環するように部分的な改善をしていく。全部を改善する必要はないわけです。

○どういうポイントを見たら、ここのコンクリートの状態はよくない、ここのコンクリートの状態は悪くないっていうのがわかるんですか。

矢野)自然の地形が本来の「からだ」の姿ですから、そういう大地、自然の地形を基本に、本来通っていたはずの循環がどういう形で閉ざされているかを確認していく。「点と線」で大地の中に脈は広がっているので、いわゆる「脈絡」のポイントを見て、特にひどく滞っているところを通していく。そういう治療、改善施工を通してやると、大地の中の空気と水は循環し始めるんですよ。

○そうなってくると、昔の日本地図とかが必要になってくるんでしょうか。

矢野)いえ、現在の地形図を中心に、敷地図とか、平面と立体で、その大地の状態を確認していってやれば、大体当たらずとも遠からずで、「脈」、空気や水が通っている「水脈」の状態を読んでやることは十分可能になると思うんですね。

○ということは、本来川があった場所が埋め立てられているとか、そういうのがやっぱり一番よくないってことなんでしょうか。

矢野)川がコンクリートで三面張りになっているとか、山の裾野に擁壁がつくられたり、砂防ダムで全部止められたり、「抜き」の機能がなくなっていることがすごく問題になります。

○その補修工事というのか、よくないコンクリートの改善の工事は、結構大がかりなものなんですか。それとも意外と簡単なものなんでしょうか。

矢野)ケース・バイ・ケースです。私も最初の頃は、コンクリートをみんな壊さないといけないと思っていたんですよ。でも、途方もない量なので、ある意味途方に暮れながら作業をしてたんですけど、だんだん全部壊さなくていいんだっていうのがわかってきて。特に大地の血管にあたる「水脈ライン」を最低限通していってやると、元の自然がちゃんと再生してくるということを、現場で教えてもらえて。すごい再生力があるんだっていうことをね、現場が教えてくれたんですよね。

○ここ数年、大雨による土砂災害が各地で起きていますよね。その原因もやはり先ほどおっしゃっていた大地の呼吸不全、水脈を止めてしまっているからなんでしょうか。

矢野)現代土木の基本的な問題点が、大きく一つあると思うんですね。私たち人間も含めて、生物が生活している「生物環境」にあたる部分は、地上数メートル、地下数メートルと言っていいと思います。つまり、植物が枝を広げているエリアと、根っこを広げているエリアに、生物の多くが集中している。生物が住んで暮らしている生活エリアの「大地の組成」というか、大地をつくりあげている組み合わせが、単純に言うと、土と石と木。大地は土と石と木で出来上がっているって言っていいと思うんです。そこに生き物が集中している。

 生き物はみんな呼吸をしていますから、空気と水が循環しないと生きていられないわけですね。大気空間と大地空間のちょうど接する地表面にほとんどの生き物が集中していて、空気と水の循環を保全するように自分自身も息をしながら生活している。そんな「生き物環境」は、土と石と木の三つの組み合わせ比率がうまく大地の中に組み込まれてはじめて、血管のように空気と水が循環する脈が生まれるわけです。

 その組み合わせ比率が、現代土木整備の中で変化してきている。有機物である木が大地の中からどんどん排除されて、コンクリートや鉄骨で、重たいもので締めつけられて、安定させられている。安定と言っても、見かけの安定です。そこに「抜き」や「循環」の機能がないために、たまりかねて崩壊していくっていうことが起きてるんです。

photo by iDaps石田伸二

 要はバランスなんですね。そのバランスを、大地をもっと有機的に「からだ」として見るような、そういう生態的視点を通して、土木がもう一度見直されていかないと、この現代の災害は、生物災害も気象災害も、そして大地の災害も、収まらない。異常といわれている生態系の問題が根本的に解決されていかないと。この視点が土砂災害の現場で必要とされていると思うんです。

photo by iDaps石田伸二

○その一方で、コンクリートがなかった時代でも、川の氾濫とか土砂災害ってあったんじゃないかなと思うんですけど、そんなことはないんですか。

矢野)もちろんあったんですけども、現代の災害が大きく拡大していっているのは、人の開発が影響していると思っています。大きく大地を動かして、その分、相対的にエネルギーが拡大するようなことが起きて、災害そのものも拡大することに繋がっている。だから「抜き」の機能、いわゆる柔軟性ですね、それが現代土木の中に必要だと思っています。昔の土木のような「抜き」の機能を備えた柔軟性のある土木、土と木を中心とした有機的な土木、それがどうしても視点として必要になってくると思いますね。

○矢野さんは土砂災害の復旧作業でも流れてきた土砂や瓦礫をなるべく利用するようにしてるということなんですけど、それはどうしてなんでしょうか。どんなふうに利用するんでしょうか。

矢野)阪神・淡路大震災の後、倒壊した樹木を荷台に積んで、大量の瓦礫の埋め立て処理の現場に行ったことがあるんです。長蛇の列で、大量の災害残土が捨てられているのを見て、自然はこんなことしないなって思った。それが大きなヒントだったんですね。

 災害で出たものを全部捨ててしまうのではなく、自然の中に組み込んでいく雨風の機能にも似た「技」を、昔の人たちは確かにやっていたなと思い返されて。現代的にそれをやっていく必要がきっとある。自然界にはごみはない。これが基本だなっていう。戦乱の中で街が崩壊したときも、瓦礫を都市空間の中にちゃんと再利用してきた経緯があったはずなんですね。雨風がどうやって大地にその瓦礫を組み込んでいくのか。土砂災害の現場を通して、その組み合わせ比率や組み方、構造を大事に見ていく中で、施工を進めて「脈」をちゃんと通していく。それをやるとちゃんと安定した、再生した環境が戻ってくる。それが現場で私たちが教えられたことです。

2018年西日本豪雨の被災地で。流木を移動し、天穴をあけると「脈」が通り、水が澄んでいった

○矢野さんの活動を追ったドキュメンタリー映画「杜人 環境再生医 矢野智徳の挑戦」という映画があるんですけど、そこでキーワードになってる言葉「結(ゆい)」についても教えていただけますか。

矢野)お祭りもみんな「結」で、かつては、いろんな農作業も含めて生活そのものが各地域で「結」が基本にあった。生態系で見れば、各動物たちが群れをなして、おそらく生き抜くために「結」という形をとっていたと思うんです。人が群れとして生き抜いていく、ひとつの知恵が「結」という形。それは歴史を経て培われてきたもの。

 それは生態系の生き物たちがみんなスクラムを組んで生態系循環を支えている、いのちを支えている、息づけるようにみんながスクラムを組む、その生態系のシステムから学んだ機能が「結」なんだということを、現場の結作業を通して、あらためて思い返されたというか、教えてもらった気がするんですね。

○矢野さんが今日のお話の中で何度もおっしゃってた「循環」という言葉とも関係があるんでしょうか、この「結」という言葉は。

矢野)もう、まさに。循環機能をそのまま人のシステムや機能の中に応用していった、それが「結」という世界だと思います。

それぞれが分かれて作業しない。帯のように連なってやることが基本
「じゅんこの庭」の作業はまさに「結」だった

○今日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。今日矢野さんの活動に興味を持たれた方はぜひ、現在公開中のドキュメンタリー映画「杜人 環境再生医 矢野智徳の挑戦」をご覧ください。他にも矢野さんのインタビューなど、私も読ませてもらったんですけど、とてもおもしろかったです。番組のSNSにも上映情報、リンクしておきます。矢野さん、今日はありがとうございました。

矢野)はい、どうもありがとうございました。

○以上、meeth WORLD CONNECTIONでした。

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 初めて聴かれる方には理解が追いつかない部分もあったかと思いますが、よくここまで短時間で「大地の呼吸不全」とそれが引き起こすこと、それをどうしたら解決できるかを凝縮して話されたと私は瞠目(瞠耳?)しました。

 矢野さんの言葉はメモを取ることができない。考え抜かれ、削ぎ落とされ、本質を示した言葉だからです。それが「杜人」を撮った理由でもあるのですが、物事を深く追求し続けてきた人の言葉は凄いと、痛感しています。

 この日は、あつぎのえいがかんkikiで13:50上映回の後、HEATWAVEの山口洋さん(音楽)とのアフタートーク、そして、20:00〜bay fm「THE FLINTSTONE」という番組で「杜人」について語らせていただきましたが(収録)、自分の言葉の精度を上げていかなくては、と反省することしきりでした。ただ、あつぎのえいがかんkikiにいらしてくださった方々のお声かけ、bay fmの番組担当の方の熱意には胸打たれ、とても励まされました。

 明日6月10日から、アップリンク吉祥寺で「杜人」アンコール上映がスタートします。時間もスクリーンもバラバラなので、サイトでチェックしてくださいね。

 10日(金)13:45回、11日(土)9:35回、12日(日)11:25回にはアフタートークで伺います。予約はもう始まっています。

 千葉県柏のキネマ旬報シアターでは明日6月10日(金)まで、あつぎのえいがかんkiki、名古屋シネマスコーレ、大阪・シアターセブンでは6月17日(金)まで、逗子のシネマアミーゴでは6月18日(土)までの上映です。

 是非、お観逃しありませんように!

 2022年6月9日(ロックの日) 前田せつ子

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