年の瀬に思うこと
2024年もあと半月となりました。皆様にとってはどんな一年だったでしょうか?
私にとっては大切な、心から尊敬する友との別れと、15年を共に過ごした保護犬の看取りを経験した年でした。必死に生き抜こうとするいのちそのものが持つ強さ。あたたかさ。愛しさ。その体験が、母を実家で看取る決心をさせた年でもありました。
一方で嬉しかったのは、猫の額ほどの庭にキジバトの夫婦が巣をつくったこと。雨の夜も風の強い日も交替で卵を温めること2週間。無事に雛が孵ったときの嬉しさといったら。2羽の雛は親鳥が運んでくるごはんを食べ、巣からはみ出すほどに成長し、健気に巣立っていきました(その後も時々戻ってくるのは、いわゆる帰巣本能なのでしょうか)。親鳥も雛も必死で生きるその姿は、そのめぐりの尊さと共に、樹がいかに他のいのちを守り育てるかをも実感させてくれるものでした。
お伝えしている国立二小の桜たちは、仮移植中にいのちをつなぐことができなかった数本を残して全て里親さんが見つかり、都内をはじめ、秩父、伊豆、桜川(茨城)、館山、日光、佐久穂町(長野)に本移植することができましたが、未だいのちのせめぎ合いの中にいます。このことについては改めてお伝えしていきたいと思います。
一番大きなソメイヨシノは長野県佐久穂町の大日向小学校に里親さんになってもらい、本移植された
二小には2本の本移植しか叶わなかったが、そのうちの一本「サンニュー」はかつての正門を入ってすぐ、三つに分かれた幹がひときわ印象的に二小を彩った桜
日本国内に目を転じれば、今年最も大変な思いをされたのは能登半島の方々でしょう。元日、家族が久しぶりに顔を合わせ、新年を祝う中で起こった大地震。そこからなんとか立ち直ろうとされた矢先、地震より酷い被害に見舞われた9月の豪雨。生活そのものも、気持ちも押し潰された方々を思うと言葉がありません。
矢野さんたちが1月から通い続けている輪島の被災地。山道の崩れた斜面が水脈を通したことで5月には安定してきていた
地理学の堀信行先生曰く「災害の災という字の語源は『字統』(白川静)によると、上の部分は『川に横棒』、つまり『川を堰き止める』こと。その下に火を加えて、水害と火の害(火山噴火含む)を一緒にしたのが『災』。日本列島は古来水や火が頻繁に出る島。けれど、それを『災害』と呼ぶようになったのはごく最近のことなんです。人工的に堰き止められた自然の脈が災害につながっている」(12月8日第2回環境シンポジウム「災害と『脈』をめぐって~大気と大地と『いのち』をかけつなぐ」@立命館大学より)
1月半ばに能登入りし、その後毎月奥能登で支援活動を続けてきた矢野さんはじめ杜の学校、大地の再生ネットワークの皆さん。堀先生も何度も現地に同行され、現地調査をされました。そこで確信されたのが「脈」の大切さ。「小さな脈の詰まりが大きな災害につながる」ということ。逆に言えば、小さな脈を日常的にケアすることで「災」を「害」にしなくて済む。能登で起こったことは日本のどこでも起きること。だからこそ、一人ひとりの気づきが重要。現代土木が見落としているもの、熊本・川辺川ダムの問題の核心を突く調査報告など風土と人間の関係に一石を投じるシンポジウムについて、詳しくは杜の財団のWebサイトをご覧ください。
さて、2022年4月に封切りして2年と半年。映画館は別として、サイトに掲載したものだけで2022年は42箇所、23年は187箇所、24年は60箇所で自主上映会を開催していただきました(掲載を望まれない主催者さんもいらっしゃるので)。主催者さんの中には、映画館や自主上映会でご覧になって「地域で観たい」と開催してくださる方がもちろん多いのですが、自分が観たいから、という理由で(まだご覧になっていないのに)開催してくださる方も。参加者さんの人数にかかわらず、多くの方から「開催してよかった」というご報告をいただくのは何より嬉しいことです。さらに、上映にとどまらず、想いをシェアする時間をつくってくださり、地域で、流域で、ともに風土を再生する仲間が生まれる種を播いてくださることは、「災」を「幸」にさえ変えていく力になるのだと信じています。
ところで、この間ずっといただいてきたのが「DVDやBlu-rayはないのですか?」というお問い合わせ。当初から、できれば映画館という空間で観ていただきたい、主催者さんの熱が伝わる自主上映会場でその場に集った方々とつながっていただきたい……という思いが強くあり、DVD化は先延ばしにしてきました。ただ、それが叶わない方、何度も繰り返し観たいと仰る方から、リクエストも再三いただいてきました。そのお声にお応えすべく、来春には英語字幕版と併せた形でDVDの販売を開始したいと思っています。詳細は改めてお知らせしますので、お待ちいただければ幸いです。
2025年がいのちに敏感な社会への一歩を踏み出す年となりますように。どうぞ、あたたかくして年の瀬をお過ごしください。
2024年12月15日 リンカランフィルムズ 前田せつ子
紅葉したヤヤマボウシの巣に今も時々戻ってくる(ちょっと前まで雛だった)キジバト兄妹(?)