未来へのヒントは過去にしかない〜2022年のクリスマスに〜

 

 

 寒波襲来。停電の中、カイロと防寒着で一日一日凌いでいらっしゃる方、雪かきでヘトヘトに体力を消耗された方、体調を崩されている方々に、心よりお見舞い申し上げます。

 今朝の東京は風もなく、冬至を過ぎた太陽があたたかく降り注ぎ、植物も鳥もホッとした表情を見せていました。

 

 公開から8カ月と10日。息の長い応援をいただき、奇跡的にいまなおロードショー公開が続いています。改めて心より御礼申し上げます。ありがとうございます。

 この間、監督トークで伺った劇場、自主上映会場は合わせて48箇所。トークはのべ84回。85回目のアフタートークは12月27日、Morc阿佐ヶ谷で12:50回終了後に決まっています。光栄なことに、劇場からのオファーで、公開時に推薦コメントをくださった龍村ゆかりさん(『地球交響曲』プロデューサー)と一緒に登壇させていただくことになりました。

 残念ながら私には『地球交響曲/ガイアシンフォニー』という壮大で深い洞察と祈りに満ちた作品について述べる資格はありません。第一番がつくられた1992年、私は会社員。自分のことに精いっぱいで地球についてほとんど何も考えていなかったからです。あの頃、バブルは崩壊していたとはいえ、まだ経済至上主義は続いており、環境問題は現在ほど危機的状況ではありませんでした。実際には加速度を増して崖っぷちへと突き進んでいたわけですが、切実に感じとっていた人々はまだ少数派。実際、『第一番』が完成した時、人々の反応は冷たかったそうです。

 現実世界を生きる人々に、その生活の根底を揺るがすような警鐘を鳴らす人は疎んじられます。それが真実であればあるほど、なおさらに。

 でも、強い信念に貫かれたこの作品に共感・共鳴する人は少しずつ増え、昨年完成した第九番を含め全9作が、現在ではのべ250万人を超える人々に届いています。

 第一番はとくに生まれたての子どものように興奮と感動に溢れていますが、中でもこの時期思い出すのがアイルランドのニューグレンジ。先史時代(5000年前!)につくられた「羨道墳(せんどうふん)」(王の遺体が安置されている空間まで狭い通路羨道が続いている古墳)で、一年に一度、冬至の朝にだけ光が王の墓所を照らすつくりになっているものです。

アイルランド・ミース県の小高い丘に建つニューグレンジ(2017年夏撮影)。エジプトの大ピラミッドより古いという
この石を積むのにどれほどの労力と時間を費やしたのだろう
5000年前につくられて以来、一滴の雨水も漏れたことがない完全ウォータープルーフ。
最近になって入り口はコンクリートで補強されたが、屋根にあたる部分は一切手を加えていないとか。
冬至の朝にだけ真ん中の細い通路を通った光が中央の墓所に届く

 当時の人々が天文学、地学、物理学に通じ、現代でも及ばない高度な文明を持っていたことを証明するものですが、詳しいことはわかっていません。そして、この遺跡のシンボルとも言えるのが、大きな石に刻まれた文様。

5000年前の人々が描いた渦巻きの文様!

 現代人が「科学」と名づけて最先端をいっているかのように思い込んでいるものは、実はとっくに発見され、検証され、淘汰されたものかもしれない。この渦が示すものにいまこそ想いを馳せるべきかもしれません。

 哲学者の内山節さんが先週、こんな話をされていました。

「未来を考えるとき、ヒントは過去にしかない。一つの考え方が壁にぶち当たったとき、現在の問題意識をもって過去から学ぶことしかない」(12/17 陽楽の森連続講座第7 回「自然との関係を通して現代社会を捉え直す」)

 日本列島に平均して30〜40万人住んでいたという縄文人は、なぜ1万年以上も変わらない暮らしをしていたのか。なぜ生産性の向上など考えなかったのか。過去に学ぶことで精度を増した未来が見えてきます。

 さらに、こう仰いました。

「江戸期までの日本には、宗教も信仰も存在しなかった。神も仏も存在していたけれど、それらは特別の精神世界を意味するものではなく、日々の暮らしのなかに埋め込まれているものだった。かつて人間の中には死者も含まれ、自然の向こうには神仏があった。自然と生者と死者と神仏の社会。これがかつての日本の社会観」

 目まぐるしく流れてくる情報と一旦距離を置いて、見えない世界に心を寄せる静かな時間が、いまとくに求められているように感じます。

 12月27日のアフタートークは、龍村さんから未来への眼差しを示していただきながら、客席の方々と一緒に、新たな時代へのパースペクティヴが共有できるような場になるといいと思っています。劇場サイトで現在予約受付中。劇場では最後のトーク。お目にかかれると嬉しいです。

 

    2022.12.25 前田せつ子

P.S.年が明けて1月8日からは逗子のCINEMA AMIGOで新春アンコール上映があります。

また、1月22日上津役シネマ、2月4日〜5日ミクスタ・D・シネマ、2月25日〜26日東田シネマと、矢野さんの故郷・北九州での上映も続きます。

岡山シネまるむすび、江古田映画祭をはじめ、各地で新春以降の上映も決まっています。

2023年も、どうぞよろしくお願いいたします。

ニューグレンジへの道の途中、やってきてくれたクックロビン

 

冬本番を前に、足元から希望の灯を!

本格的な冬がやって来ました。

迎撃ミサイルを含む国防費の増大が閣議決定され、2011年の事故以降、極力削減と位置付けられていた原発を「最大限活用していく」ことが表明される一方で、地球規模の気候変動に対しては机上の「脱炭素シフト」が叫ばれるだけ。

国産のアサリを店でほとんど見なくなったように、海の生きものも、山の生きものも減っているのに、人間目線、経済優先で突き進む現状に、寒さ以上に心が凍りそうになります。

いや、こんなときこそ、足元を見つめて、地を這うように進み続けなければ。

封切りからこれまで、一日も途切れることなく全国で劇場上映が続いてきましたが、12月1日だけ空白を挟んで、2日からはMorc阿佐ヶ谷で4週間のアンコール上映中です。

こんなに長く上映が続いているのは、足を運んでくださった方が口コミで広めてくださったおかげです。
改めて厚く御礼申し上げます。

Morc阿佐ヶ谷では12月のイチオシ作品としてリーフレットの表紙に載せてくださいました。29日までですが、都内はそれがほんとうに劇場最後。27日12:50~上映回後には、最後のアフタートークに伺います。
この日は劇場からのオファーで、『地球交響曲』プロデューサー、龍村ゆかりさんと一緒にお話しさせていただくことになりました。
封切り前に推薦コメントをお願いしたものの、実際にお会いするのは今回が初めて。
龍村さんは、美しいピアノ曲を提供してくださった水城ゆうさんとも長く親交がおありだったので、そのお話も伺いたいと思っています。
Morc阿佐ヶ谷は『荒野に希望の灯をともす』をはじめ他の映画のラインナップも素晴らしいので、是非チェックしてみてください。

https://www.morc-asagaya.com/2022/12/15/moribito-g…

年が明けて神奈川では、CINEMA AMIGOで1月8日から再々再上映していただくことになりました。2022年を代表する作品として、だそうです。自主上映会が増えている中で、年を越して映画館で上映していただけるのはほんとうに珍しく、嬉しいことです。福岡の東田シネマさん、岡山のシネまるむすびさんでも、新春上映が決まっています。詳細は改めてお知らせしますね。

12月8日には福聚寺のある三春町で上映会が開かれました。全3回上映で、1回目、2回目は、なんと町内にある田村高校の1年生、2年生が授業の一環で鑑賞!

「行きつけの杜」プロジェクトで植林活動に取り組む三春VIVOの渡部友紀さんと登壇しました

「ずっと観ていたい映像でした」
「土の中の環境にそんなに興味はなかったけれど、水溜りが土砂崩れの原因になるとわかって、できることをやっていきたいと思いました」
など、嬉しい感想をいただきました。

一般向けの夜の回には、三春町の教育長も。
「子どもの頃を思い出しました 」
「コンクリートは全部外さなくてもいいんですね」
「人間は自然と共にしか生きられない。子どもたちに伝えていきたいと思います」と感想を寄せてくださいました。

上映の間に福聚寺を訪れて驚いたのは、ヤマゴケが増えていたこと。以前伺ったとき、「苔むした寺にしたいんです」と仰っていたご住職の玄侑宗久さん。やっと念願の苔が増えてきたことはもちろん、植生の変化、風の通りを日々感じていらっしゃることでしょう。

境内はやわらかい草地となり、苔むしてきていました
来春も見事な花を咲かせてほしい愛姫の桜

さて、10月24日日比谷図書文化館で行われた中村桂子さん(生命誌研究者)と矢野智徳さんのトーク、改めて紹介しておきます。短い時間ながら「生きものとしての人間」に迫る対談です。生きもの研究の最前線を走り続ける科学者と、自然と対峙して現場を科学し、真理を追求してきた造園家の言葉に込められた深い意図を、祈りを、感じてください。

25分のダイジェスト版はこちらです。

さあ、ここからは、この間のご報告を一気に。

別府ブルーバード劇場で92歳の館長・岡村照さんを囲んで

岡山県の西粟倉村にあるあわくら図書館にも呼んでいただきました。ここは合併を拒否し、林業でやっていくことを宣言した人口1500人の村。間伐材で作られた美しい図書館には村役場が併設、子どもの図書館と遊び場も!

下のフロアは子どもの居場所。滑り台で。ここは風力発電もメガソーラーも誘致しないと決めているとか

藤野藝術の家での上映会は、地域で活動している方々のパネル・トークが素晴らしかった!

地域の結が形になった上映イベントでした。アンケートの回収率も、書き込みも凄まじかったです

東慶寺の大地の再生スタディツアーにも伺いました。息を取り戻した境内は紅葉も鮮やかに、リスの鳴き声が響いていました

倒れたナラをそのまま生かして周囲を息づかせる

エンディングシーンに登場する日野おちかわの里で開かれた4回目の大地の再生講座では、水溜りを矢野さんが検知棒で突くと、一気に小川に! 

おとなも子どもも結作業

講座が終わって、焚き火を囲んでシェアタイム。子どもの遊び場をみんなで再生したこの場所は、落ち葉がまんべんなく大地を包んで、足底にあたる地面も柔らかく。来年1月14日には七生公会堂で上映会を主催されます(予約不要だそうです)。

2022年もいよいよあと2週間。
あたたかい希望の灯をともして、良い年をお迎えください。

 2022.12.18  前田せつ子