海、里、森で起きていること。繋がりを取り戻すこと。7代先を考えて動くこと
白木蓮の花が開いたと思ったら、あっという間にハラハラと散ってしまいました。
気温の変化に植物たちが戸惑っているようにも見えるこの頃、私たち人間が大地、生物、気象に及ぼしている影響を考えずにはいられません。
さて、長くなりますが、この間のご報告をさせてください。
2/11、12には私が加入している二つの会、生活クラブと大地を守る会主催の上映会が開催されました。生活クラブは2010年から、大地を守る会は娘が小さい頃、2000年からお世話になっています。
大地を守る会(オイシックス、らでぃっしゅぼーやの3ブランド共催)の上映会では、初めて生産、流通に携わる方と直にお話しする機会を得ました。海、里、森に携わる方にお話を聴く1時間半はあっという間で、とても考えさせられる時間でした。
まずは海。「とろイワシ缶」でお馴染みの千葉産直サービスの冨田正和さんの現場からの声は衝撃的でした。
「ほんとうに魚が獲れていない。獲れないというよりは育たない。同じ期間海にいても育たないんです。秋刀魚は4年連続で不漁。2018年の統計に比べて85%減。昔は獲らなかった小さい魚を獲らざるを得ない状況。大衆魚の鯖もどんどんいなくなっています。要は海の中のプランクトン、豊かな藻場が減っている。森、里、川から流れてくる水の養分が減り、マイクロプラスチックの問題もある。利根川流域に住んでいる人たちの中で、自分たちが使っている水がどこに繋がって流れ出ているか考えている人が、いったいどのくらいいるでしょう」
利根川流域で農業経営者を束ねる有機栽培あゆみの会の齊藤篤司さんは「稲作だけで760ha、畑を入れると960ha、1300戸の農家をまとめていますが、そのうち50ha以上は私含め5軒しかありません。小規模経営がほとんど。昔は25haで一家が食べていけたんです。でも、1俵15000円の最低ラインがいま1万円に下がってしまって、これではとてもやっていけない。それでも農家さんは先祖から受け継いだ土地を守っていこうと皆さん必死。だからやめられる時は突然なんです。今年も10ha引き継いでくれないか、と言われましたが、いつか背負いきれない時が来る。そうなると耕作放棄地が増えて、海への影響も広がっていく」。
森を中心に環境問題に取り組む生活アートクラブの富士村夏樹さんは「日本はノルウェーに次いで世界2位、3位を争う森林大国。にもかかわらず森の健康状態が悪過ぎる。国産材の自給率が平成15年は過去最低の18%。人工林が放置されると光が入らず森は荒れる。間伐しても出口がないと燃やすしかない。山が保水力を失うと災害も増える。使わなくなったのは竹も同じ。とくに九州、山口は放置竹林が多く、竹は縦横無尽に根を張るため行政に相談に行くと除草剤を撒けと指導される」。
海、里、森で起きていること。一つボタンをかけ違うと限りなく広がっていく汚染の問題。いのちの疲弊。じゃあ、いったいどこからボタンをかけ直せばいいのか。自分自身の生活からしかない、と痛感させられました。
2/19には山口・下関市で、2/25には周南市で、どちらもグリーンコープやまぐち主催の上映会。会場からは、「気がつくとあちらこちらで山が削られている。風景が変わっていく。風力発電やメガソーラーの話が持ち上がり、近隣の反対の声を無視して進んでいる。どうやって抗っていけばいいのか」という声も。
確かに実家のある山口にこの半年頻繁に帰省して感じるのは、水田が減り、宅地化された土地には一切植物がなくコンクリート張り、かつては生きものがたくさんいた水路にはいのちの気配が全くなく、スーパーの店先には貝類をほとんど見かけなくなってしまったということ。近くの山々も竹が繁茂し、つる植物が暴れ、木々は一様に苦しそうな表情を見せています。
大きな経済システムの中で自然はあって当たり前、「タダ同然」のものとしてその恵みを享受されるばかりで、長く顧みられることなく人間本位の開発が進められてきました。中でも戦後70数年の開発は凄まじく、自然の息は閉塞寸前、矢野さんの言う大地の環境、生物の環境を傷めるばかりかいま気象の環境にまで影響が及んでいます。
ウクライナを犠牲に軍需産業が利を得て、人間社会では仮想現実が現実の世界に取って代わろうとしているいま、できることは人間本位でない視点に立ち、小さくても、かき消されても、声を挙げ、他者とつながり、行動し続けるしかない、と強く思います。
ところで、3月も引き続き『杜人』を土日特別上映中してくださっているMorc阿佐ヶ谷で現在上映中のこの映画、ご存知でしょうか?
宮崎駿監督が、ナウシカの興行収入を注ぎ込んで(それでも足りなくなって借金して)製作、高畑勲監督の「水と人間」への想いが込められたジブリ唯一のドキュメンタリー『柳川堀割物語』。たった一人の市の職員(係長)さんが、議会承認も得て進められようとしていた「水路の埋め立て」に反対し、ひっくり返していく奇跡の実話。87年製作のフィルム作品がこうして映画館で上映されるのは稀有なことです。
根底に流れる自然と人との関係、人の在り方は、現代に深く響いてほしい理、真実に溢れています。それ以上に「一人の想いは無力でも微力でもない」ことに、とても元気が出ます!
ご覧になっていらっしゃらない方は、是非阿佐ヶ谷に足をお運びください。
もう一つ、是非観てほしい映画があります。2/27江古田映画祭を観に来てくださったTBS「報道特集」のディレクター、川上敬二郎さんが初めて監督されたドキュメンタリー『サステナ・ファーム トキと1%』。
この作品の元になっているのは、ネオニコの問題を追求した報道特集。
2021年、20分の番組ですが、EUではその問題性が指摘され、使用禁止になった農薬が未だ日本国内では「人には影響がない」とされ、使用され続けているという現実を、農業の現場、学者の発言などを織り込み、丁寧に問うていきます。
TBS報道特集「ネオニコ系農薬 人への影響は」より
生態系は循環していて、私たちが出した毒、ごみは、必ず私たちに戻ってくる。トキのためにネオニコ系農薬の使用をやめた佐渡の在り方は希望であり、深く胸打たれます。
封切りは3/17よりヒューマントラストシネマ渋谷で開催されるTBSドキュメンタリー映画祭2023。初回は3/18(土)14:15〜回。舞台挨拶付きです。
さて、ここからは『杜人』の今後の予定。お伝えした通り、3月中もMorc阿佐ヶ谷で土日特別上映中。4/22、23には高知のゴトゴトシネマで上映。
自主上映はこちら。まだまだお申し込みが続いており、最近では参加者から主催者になられる方も多く、「草の根」の広がりを感じています。
3/19は長野の駒ヶ根に伺います。後援に自治体、教育委員会がずらりと並ぶ、主催の中川英明さんの情熱が迸る上映会。一緒に登壇するのは、いま全国で進み始めたオーガニック給食のトップを走るいすみ市の牽引役とも言える手塚幸夫さん。
生物多様性という言葉は後付けで、植物、動物とともにでなければ私たち人間は生きていけないことを、先住民、原住民と呼ばれる人々は当たり前に知っていました。
「平和の民」、ホピ族の長老が1995年阪神・淡路大震災の後に語った言葉。
今、世界中の人々がバランスを失っている。昔の生き方に戻らなければならない、と長老たちは言っていた。
そうすることがとても難しいことは、わしは知っている。
だが、バランスが大きく崩れると、地震、竜巻、病気の蔓延、飢餓、火山の爆発などさまざまな厄災がやってくる。
わしらは、自分たちの身も心も守らなければならない。
新しく、近代的なテクノロジーは確かに強い。だが、その力でいつもコントロールできるとは限らない。
もしも事態が悪化すれば、なんの役にも立たなくなるだろう。
飢餓が来れば、大地から食べ物を得るのは難しくなるだろう。
すべてが汚染されているからだ。
そのために、わしらはたいへんな目にあう。
だから、何よりもバランスを取り戻さなければならん。
わしらは今、まるで自分で自分を滅ぼそうとしているようなものだ。
もしも、わしらがバランスを少しでも取り戻さなければ、すべてのことがますます悪化していくだろう。
人も動物も大地もすべてのものが滅んでいくだろう。そして、戦争がやって来る……
恐ろしいほどその予言が的中し始めているいま、ひとりひとりの行動が問われています。
4/2新潟県柏崎市では、大熊孝教授(河川工学の第一人者。新潟大学名誉教授。『阿賀に生きる』製作委員会の会長でもある)の講演付き上映会が開かれます。ご自身が研究してきたことの問題性に気づき、方向転換し、市民とともに活動する大熊先生の言葉からは希望の光が射してくると思います。私も拝聴しに伺います。
そして4/22、23には〝秩父MORIBITO祭 映画「杜人」×ライブ×トーク×マルシェ×自然〟で『杜人 インターナショナル版(英語字幕付)』の初上映が決まりました。
音楽の山口洋さんもトークとライヴで2日間の登場。秩父水系の重要な水脈を担うMahora稲穂山で、かつて先住民の地を何度も訪れ、ヴィジョン・クエストにも挑戦した山口さんと「7代先の未来を考える」貴重な2日間。
生きとし生けるすべてのものが共に循環して生きられる世界へ。さまざまな形、やり方、生き方を、ひとりではなく共に考え、動いていきたいです。
3/11埼玉県富士見市で開かれた矢野さんとのトーク付きの上映会場で。秩父MORIBITO祭実行委のメンバーとともに
2023.3.17 前田せつ子