草の根に倣って〜公開2年目に入ったいま思うこと

4月15日、公開1周年を迎えました。

2021年9月18日にスタートしたMotion Galleryのプロジェクトで389名、実際には別の方法でご支援いただいた方もいらっしゃるので、420名を超える方々から熱い応援をいただいてから約1年半。

広報宣伝は、ごく少数の新聞、雑誌、WEBメディア、ラジオを除けば、ほぼ口コミだったにもかかわらず、1年間で全国46の映画館、6つの非常設の映画館、4つの映画祭(ゆふいん、島根、くにたち、江古田)、208の自主上映会場で上映していただきました。今なお上映のお申し込みは続いています。

自主上映は15名くらいを対象とした会から300名近いもの、トーク付きやワークショップと連動している会までさまざまですが、「地域をよくしたい」という主催者様の根源的で切実な想いを中心軸に、集った方々の繋がり、連なりに支えられ、育てられ、どの会もあたたかく希望に満たされるものであったと多くの方からご報告をいただきます。

目には見えない人と人を結ぶ脈が途切れることなく打ち続け、参加された方が今度は主催者となって上映会を開いてくださっている流れを、心から有り難いと思います。そして、それは希望そのものです。

5月に咲くのが普通なのにひと月早く花を咲かせたナルコユリ。地下茎で伸び、乾燥させた根茎は滋養強壮の生薬としても知られる。実は毒性があって食べられないが、葉っぱも茎もお浸しなどで食べられるそう。花言葉は「元気を出して」「あなたを偽れない」「心の痛みのわかる人」

4月2日、柏崎での上映会には河川工学の第一人者、大熊孝先生(新潟大学名誉教授)の講演が。『阿賀に生きる』製作委員会に関わる中で「川」の定義が自身の中で変わり、その後は学生にこう教えたという。「川とは、山と海とを双方向に繋ぐ、地球における物質循環の重要な担い手であるとともに、人間にとっては身近な自然で、恵みと災害という矛盾のなかに、ゆっくりと時間をかけて、人の“からだ”と“こころ”をつくり、地域文化を育んできた存在である」

「草の根」とは、小さな市民運動のたとえではありません。

溶岩流が流れ下った噴火口を観察していた矢野さんは、そこで草の根の本当の意味に気づいたそうです。

「植物が芽吹くなど想像できない過酷な環境に一番にやってくるのは草。一番手の草が枯れると、その草の根がつくった空気の通り道めがけて二番手がやってくる。二番手が枯れると、今度は三番手。草はそうやって、自身が枯れても根を残し、次の草が生きていきやすい環境をつくる。それが本当の草の根」

これからの時代に向けて、本気で草の根に倣いたいと背筋を伸ばす想いです。

初夏に咲く野菊、ミヤマヨメナ。山野に自生する

さて、これからに向けてみなさまと共有しておきたいことを書いておきます。

1)クラウドファンディングのネクスト・ゴールでもあった『MORIBITO: A Doctor of the Earth』(英語字幕版/インターナショナル・エディション)の貸し出しを開始しました。国内での上映はもとより、英語圏での公開に向けて本格的に取り組んでいきます。

2)フランス在住の方からのお申し出、ご協力により、フランス語字幕版を現在制作中です。フランス国内での上映(映画館、イベント、自主上映会)に向けて準備を進めています。

3)ナレーションや背景音、会話のすべてに日本語字幕が付いたバリアフリー字幕版(制作:シネマ・チュプキ・タバタ)の貸し出しを開始します。音声ガイドについては、申し訳ありませんが、もうしばらくお待ちください(DVD/Blu-ray化までお待ちいただく可能性もあります)。

4)長くお待たせしていたオンラインでの自主上映会を8月以降の開催で受け付けます。

5)クラファンのエンドレス・ゴールである「チルドレンズ・エディション」については、現在各方面からご意見やアイディアをいただきながら進めています。加えて『杜人』に収録できなかった現場や新たな現場を含め、続編というよりは番外編(スピンオフ)に近い映像の制作も考えています。続報をお待ちください。

6)YouTubeチャンネルで「矢野智徳 大地の再生の手法」①~④をアップしたまま間が空いてしまいましたが、新たな手法⑤~を順次アップしていきたいと考えています。『大地の再生 実践マニュアル』(矢野智徳/大内正伸 著 農文協発行)を実践する際の参考になればとも思っています。Setsuko Maedaのチャンネルをご覧ください。

なお、これまでの動画については、こちらにまとめています。

「木」と「土」と「人」の物語だから「杜人」。

撮影を始めて半年くらい経った頃にふと浮かんだ言葉を、北極星のように仰ぎ見ながら歩んで4年半。矢野さんが大切にしている「杜」の意味が忘れ去られていく中で、この言葉が多くの方に届いたことは何より嬉しいことです。

ただし、この物語の主人公は矢野さんではありません。

山に霊性を見、魂が還る場所として敬い、畏れ、川を友として親しみ、海を母として愛し、自然と共に暮らしたかつての人々。

生態系の輪の中に在った動物らしい人間。

それとは正反対に、いま社会が向かっている方向は、五感を無視し、手足さえ使わずに仮想空間を生きる人間へと駆り立てている気がして仕方ありません。

2011年の原発事故などなかったかのように原発の再稼働、運転期間延長、さらには新設・増設が方針として示され、国民的議論のないままALPS処理水が海洋放出されようとし、再生可能エネルギー推進の名のもとに森林が伐採され、都市空間においても大量の樹木が伐採されていく中で、私たちはどう生きるのか。

100年後、1000年後の世界から現在の私たちを眺めたとき、愚かで哀しい民にならないために。

足元から草の根で、未来につづく「杜」を、一緒につくっていきたいです。

 2023.4.17 前田せつ子

昇り龍そっくりなご近所の庭のアカマツ。植えたわけではなく元々山林だった頃自生していたもの。真夏でもこの松の木陰は涼しく野鳥が集まる。宅配便の人も思わずひと息ついていくのだとか

海、里、森で起きていること。繋がりを取り戻すこと。7代先を考えて動くこと

白木蓮の花が開いたと思ったら、あっという間にハラハラと散ってしまいました。

気温の変化に植物たちが戸惑っているようにも見えるこの頃、私たち人間が大地、生物、気象に及ぼしている影響を考えずにはいられません。

花言葉は「自然への愛」「慈悲」「気高さ」「高潔さ」

さて、長くなりますが、この間のご報告をさせてください。

2/11、12には私が加入している二つの会、生活クラブと大地を守る会主催の上映会が開催されました。生活クラブは2010年から、大地を守る会は娘が小さい頃、2000年からお世話になっています。

羽村で開かれた多摩きた生活クラブ生協主催の上映会

大地を守る会(オイシックス、らでぃっしゅぼーやの3ブランド共催)の上映会では、初めて生産、流通に携わる方と直にお話しする機会を得ました。海、里、森に携わる方にお話を聴く1時間半はあっという間で、とても考えさせられる時間でした。

まずは海。「とろイワシ缶」でお馴染みの千葉産直サービスの冨田正和さんの現場からの声は衝撃的でした。
「ほんとうに魚が獲れていない。獲れないというよりは育たない。同じ期間海にいても育たないんです。秋刀魚は4年連続で不漁。2018年の統計に比べて85%減。昔は獲らなかった小さい魚を獲らざるを得ない状況。大衆魚の鯖もどんどんいなくなっています。要は海の中のプランクトン、豊かな藻場が減っている。森、里、川から流れてくる水の養分が減り、マイクロプラスチックの問題もある。利根川流域に住んでいる人たちの中で、自分たちが使っている水がどこに繋がって流れ出ているか考えている人が、いったいどのくらいいるでしょう」

食べることが好きでIT企業から転職したという冨田さん。海の生きものへの想いがこもっていました
植物プランクトンが流れ込まない山と海の分断に加え、ネオニコ系農薬、除草剤、合成洗剤、マイクロプラスチック…

利根川流域で農業経営者を束ねる有機栽培あゆみの会の齊藤篤司さんは「稲作だけで760ha、畑を入れると960ha、1300戸の農家をまとめていますが、そのうち50ha以上は私含め5軒しかありません。小規模経営がほとんど。昔は25haで一家が食べていけたんです。でも、1俵15000円の最低ラインがいま1万円に下がってしまって、これではとてもやっていけない。それでも農家さんは先祖から受け継いだ土地を守っていこうと皆さん必死。だからやめられる時は突然なんです。今年も10ha引き継いでくれないか、と言われましたが、いつか背負いきれない時が来る。そうなると耕作放棄地が増えて、海への影響も広がっていく」。

齊藤篤司さんが作られた資料。大自然、環境、生物があって初めて経済が成り立つ

森を中心に環境問題に取り組む生活アートクラブの富士村夏樹さんは「日本はノルウェーに次いで世界2位、3位を争う森林大国。にもかかわらず森の健康状態が悪過ぎる。国産材の自給率が平成15年は過去最低の18%。人工林が放置されると光が入らず森は荒れる。間伐しても出口がないと燃やすしかない。山が保水力を失うと災害も増える。使わなくなったのは竹も同じ。とくに九州、山口は放置竹林が多く、竹は縦横無尽に根を張るため行政に相談に行くと除草剤を撒けと指導される」。

もともとは腸内細菌が専門の富士村夏樹さんの言葉は説得力に溢れていました

海、里、森で起きていること。一つボタンをかけ違うと限りなく広がっていく汚染の問題。いのちの疲弊。じゃあ、いったいどこからボタンをかけ直せばいいのか。自分自身の生活からしかない、と痛感させられました。

海、山、森がつながっているように、人もつながっていかなければ

2/19には山口・下関市で、2/25には周南市で、どちらもグリーンコープやまぐち主催の上映会。会場からは、「気がつくとあちらこちらで山が削られている。風景が変わっていく。風力発電やメガソーラーの話が持ち上がり、近隣の反対の声を無視して進んでいる。どうやって抗っていけばいいのか」という声も。

確かに実家のある山口にこの半年頻繁に帰省して感じるのは、水田が減り、宅地化された土地には一切植物がなくコンクリート張り、かつては生きものがたくさんいた水路にはいのちの気配が全くなく、スーパーの店先には貝類をほとんど見かけなくなってしまったということ。近くの山々も竹が繁茂し、つる植物が暴れ、木々は一様に苦しそうな表情を見せています。

大きな経済システムの中で自然はあって当たり前、「タダ同然」のものとしてその恵みを享受されるばかりで、長く顧みられることなく人間本位の開発が進められてきました。中でも戦後70数年の開発は凄まじく、自然の息は閉塞寸前、矢野さんの言う大地の環境、生物の環境を傷めるばかりかいま気象の環境にまで影響が及んでいます。

ウクライナを犠牲に軍需産業が利を得て、人間社会では仮想現実が現実の世界に取って代わろうとしているいま、できることは人間本位でない視点に立ち、小さくても、かき消されても、声を挙げ、他者とつながり、行動し続けるしかない、と強く思います。

グリーンコープやまぐちの実行委の女性たち。めちゃくちゃパワフルでした

ところで、3月も引き続き『杜人』を土日特別上映中してくださっているMorc阿佐ヶ谷で現在上映中のこの映画、ご存知でしょうか?

宮崎駿監督が、ナウシカの興行収入を注ぎ込んで(それでも足りなくなって借金して)製作、高畑勲監督の「水と人間」への想いが込められたジブリ唯一のドキュメンタリー『柳川堀割物語』。たった一人の市の職員(係長)さんが、議会承認も得て進められようとしていた「水路の埋め立て」に反対し、ひっくり返していく奇跡の実話。87年製作のフィルム作品がこうして映画館で上映されるのは稀有なことです。

根底に流れる自然と人との関係、人の在り方は、現代に深く響いてほしい理、真実に溢れています。それ以上に「一人の想いは無力でも微力でもない」ことに、とても元気が出ます! 
ご覧になっていらっしゃらない方は、是非阿佐ヶ谷に足をお運びください。

もう一つ、是非観てほしい映画があります。2/27江古田映画祭を観に来てくださったTBS「報道特集」のディレクター、川上敬二郎さんが初めて監督されたドキュメンタリー『サステナ・ファーム トキと1%』

この作品の元になっているのは、ネオニコの問題を追求した報道特集。

2021年、20分の番組ですが、EUではその問題性が指摘され、使用禁止になった農薬が未だ日本国内では「人には影響がない」とされ、使用され続けているという現実を、農業の現場、学者の発言などを織り込み、丁寧に問うていきます。

TBS報道特集「ネオニコ系農薬 人への影響は」より

生態系は循環していて、私たちが出した毒、ごみは、必ず私たちに戻ってくる。トキのためにネオニコ系農薬の使用をやめた佐渡の在り方は希望であり、深く胸打たれます。

封切りは3/17よりヒューマントラストシネマ渋谷で開催されるTBSドキュメンタリー映画祭2023。初回は3/18(土)14:15〜回。舞台挨拶付きです。

さて、ここからは『杜人』の今後の予定。お伝えした通り、3月中もMorc阿佐ヶ谷で土日特別上映中。4/22、23には高知のゴトゴトシネマで上映。

自主上映はこちら。まだまだお申し込みが続いており、最近では参加者から主催者になられる方も多く、「草の根」の広がりを感じています。

3/19は長野の駒ヶ根に伺います。後援に自治体、教育委員会がずらりと並ぶ、主催の中川英明さんの情熱が迸る上映会。一緒に登壇するのは、いま全国で進み始めたオーガニック給食のトップを走るいすみ市の牽引役とも言える手塚幸夫さん

生物多様性という言葉は後付けで、植物、動物とともにでなければ私たち人間は生きていけないことを、先住民、原住民と呼ばれる人々は当たり前に知っていました。

「平和の民」、ホピ族の長老が1995年阪神・淡路大震災の後に語った言葉。

今、世界中の人々がバランスを失っている。昔の生き方に戻らなければならない、と長老たちは言っていた。

そうすることがとても難しいことは、わしは知っている。

だが、バランスが大きく崩れると、地震、竜巻、病気の蔓延、飢餓、火山の爆発などさまざまな厄災がやってくる。

わしらは、自分たちの身も心も守らなければならない。

新しく、近代的なテクノロジーは確かに強い。だが、その力でいつもコントロールできるとは限らない。

もしも事態が悪化すれば、なんの役にも立たなくなるだろう。

飢餓が来れば、大地から食べ物を得るのは難しくなるだろう。

すべてが汚染されているからだ。

そのために、わしらはたいへんな目にあう。

だから、何よりもバランスを取り戻さなければならん。

わしらは今、まるで自分で自分を滅ぼそうとしているようなものだ。

もしも、わしらがバランスを少しでも取り戻さなければ、すべてのことがますます悪化していくだろう。

人も動物も大地もすべてのものが滅んでいくだろう。そして、戦争がやって来る……

恐ろしいほどその予言が的中し始めているいま、ひとりひとりの行動が問われています。

4/2新潟県柏崎市では、大熊孝教授(河川工学の第一人者。新潟大学名誉教授。『阿賀に生きる』製作委員会の会長でもある)の講演付き上映会が開かれます。ご自身が研究してきたことの問題性に気づき、方向転換し、市民とともに活動する大熊先生の言葉からは希望の光が射してくると思います。私も拝聴しに伺います。

そして4/22、23には〝秩父MORIBITO祭  映画「杜人」×ライブ×トーク×マルシェ×自然〟『杜人 インターナショナル版(英語字幕付)』の初上映が決まりました。

音楽の山口洋さんもトークとライヴで2日間の登場。秩父水系の重要な水脈を担うMahora稲穂山で、かつて先住民の地を何度も訪れ、ヴィジョン・クエストにも挑戦した山口さんと「7代先の未来を考える」貴重な2日間。

生きとし生けるすべてのものが共に循環して生きられる世界へ。さまざまな形、やり方、生き方を、ひとりではなく共に考え、動いていきたいです。

3/11埼玉県富士見市で開かれた矢野さんとのトーク付きの上映会場で。秩父MORIBITO祭実行委のメンバーとともに

 2023.3.17 前田せつ子

コンクリートの廃墟に、森がやってきた!

 今日の東京は雪景色。雪に弱いと言われる都市空間ですが、雪化粧した風景は静かで美しいです。鳥の声もしませんが、こんな日、きっと鳥たちは大きな樹木に護られているのでしょう。

 2月7〜8日、兵庫県西脇市にある播州織工場、tamaki niimeに行ってきました。1月17〜18日に初めて訪れてから2回目。前回の投稿で「人工物を敵とせず、共存を図る新たな施工法への挑戦」と紹介した「動物たちの家」プロジェクトの第2期工事です。

 行ってびっくり! 古きもの、新しきもの、無機物、有機物、植物、動物、人間、大地、空気と水、光と熱の、新たな循環と共生が、まさに実現に向かって具体的な一歩を踏み出していました。矢野さん曰く「動植物園」。動物の中に人間が含まれることは言うまでもありません。

元は使われなくなったコンクリートの浄化槽。覗いてみると……
中はこんなふうになっていた
植物たちでいっぱい。茶色の葉がついているのはコナラ。春になれば緑の新芽を吹くだろう
途中経過だが、屋根は完全には覆わない。入ってすぐは水飲み場、泉になる予定
無機質のコンクリート槽の外観を覆うのは原木丸太と生きた植物たち

 ちなみに、こちらが前回、1月17日の様子です。

自分たちの家をチェックする山羊たち

 さらに、浄化槽の上も原木が横たわり、その空間にもどんどん植栽が運び込まれていました。

屋上緑化というより、屋上が森に……
ちなみに1月18日時点ではこんな感じ
2月8日夕方時点での全景。株立ちが美しいソヨゴは、tamaki niime所有の里山から移植

 どんなに写真を並べても、この現場のリアリティを伝えることはできません。コンクリートの直線形状が、一つとして同じものはない自然の多様な形状とともに在ることで息づくとき、「負の遺産」だったコンクリートが、どれほど自分の役割を別の形で果たし始めるか。植物の匂い、足の裏に伝わる変化に富んだ起伏、やわらかさが、どれほど動物としての人間をワクワクさせてくれるか。

 この工事の意味を、矢野さんはこんなふうに語りました。現代の経済社会システムへの痛切なメッセージです。

右から矢野智徳さん、増茂匠さん、岩田彦乃さん
流線形に張り巡らされた水脈が一番の要

「経済の仕組みは、お金を払ってものを仕入れるところから始まる。でも、出発点の自然にはお金を払っていない。今回、必要な植物はできるだけ近くの林や里山から移植した。ある林からは、主に伐り倒された木々の根株を勝手に持っていっていい、ということだった。でも、そこに行ったら、大地は傷んでいるし、植物も元気がない。それに輪をかけて僕らが根株だけ持っていったら、この林はもう元も子もないな、と。明らかにこの大地は呼吸が弱っている。伐られた木々、残された材は放置され、荒れた風景。取るものを取られて、あとは残骸として残された占領の場。悪く言えば戦場」

「これを素通りしたら、大地の再生で言っていること、やっていることと矛盾する。それをやろうとすれば手間もかかる。なかなか大変な作業。でも、その延長線上にコンクリートの廃墟の再生事業がある。そこを再生することで、流域、風土の再生に繋がっていないと、本質を外すことになる。それで、林にも手を入れることにした。取ってくるだけでなく、大地に脈を通しながら、なんとか息ができる環境をその林に提供して」

木々が伐採された戦場のような林から運び込んだ根株が、ここでは新たな役割を担う

「その材を持って現場に戻ったら、コンクリートの廃墟がワッと息づき始めた。原木丸太を含めて、自然の材がいかに力を持っているか、見せつけてくれた。その材を使うとき、林に対しての気遣いと同じように向き合っていくと、見えない空気が通っていく。現場が息づいていく。再生していく。それは人それぞれが群れをなす生きものとして結の連携も生み出していく。これが人間、これが生きものだということを見せてくれた」

結作業で粗枝を敷き、炭と粗腐葉土を撒く。最後はグランドカバー。どんな現場でもやることは同じ

「土地利用の出発点は、ボタンの掛け違えから始まった。いつも人都合のボタンが先にかけられた。それをひっくり返す経済、内容を組み直す作業が本来の大地の再生作業。それをやっていくことで、生きもの環境も、気象の環境も、連動してプラスを生み出し、それが流域、風土の再生に繋がっていくべきもの。流域改善の基本が問われている」

「経済的な問題をtamakiさんサイドで全部賄ってもらうのは不可能。これは人社会がずっとやってきた負の蓄積。本来、自然から何かをいただくときは、傷めず穢さず大事に使わせてもらうことから出発しないと、生態系の一員として森の秩序、生態系の秩序は保てない」

「一体いくらかかるのか、わかっていない。資金調達の目処も立っていない。でも、目処がたってから始めたのでは遅い。大地の再生ネットワークはもちろん、僕らだけでなく社会に向けて、これを社会が負ってくれることを願っている」

普通ならごみとして廃棄されるものも水脈に組み込み、炭をかけ、息づかせていく
関西を中心に北海道からも駆けつけた大地の再生メンバー

 ここはまさに「大地の再生」の集大成であり、新たなチャレンジの場。その場に人間以外の生きものたちが集ってお腹を満たしていることが、一層心を満たしてくれました。

集めた水脈資材もどんどん食べます
うーん、紅梅の蕾はあんまり食べてほしくないのだけれど
羊たちもモリモリ

 tamaki niimeさんの工場&ショップにはアルパカもやってくるそうで、2月11日〜12日にはこれまでで最大のイベント「niime博」が開催されるそうです。

誰でも参加可能。是非この動植物園も体感してください
綿花に続いて、羊毛やアルパカ、カシミアも自分たちの手で紡ぐ志。ただし、全量生産を目指してはいない
着々と準備が進められていました

 聞けば、4日間の予定だった2期工事は予定通りには終わらず、5日目の深夜、いや6日目の朝2時まで続いたとか。ちなみに、動植物園の中心には水の循環が、びっくりするような形で出現するそうです。

屋上の風景が遠い山並と繋がるように
一瞬雨が降り出した……と思ったら、この虹を見せてくれるための雨だった
この風土と繋がるように

 この現場の続きは、またお伝えします。

 2月はこれから生活クラブ生協、大地を守る会、グリーンコープやまぐち生協(下関、周南)など、生産者と直接繋がって環境を傷めず穢さない生活を提案してきた協同組合の上映会が続きます。2月27日からは第12回「3.11 福島を忘れない!」江古田映画祭2023での上映も。詳しくは劇場および自主上映のスケジュールをチェックしてください。

 どこかの会場でお目にかかれることを楽しみにしています!

     2023.2.10 前田せつ子

旧暦元旦! 新たな挑戦の始まり

 本日1月22日、旧暦の新年が明けました。おめでとうございます。立春に一番近い新月を元日とした旧暦は、人間よりも月、太陽、宇宙の動きに従う意味で腑に落ちるところがあります。

 さて、お知らせしたいことがいくつもあります。

 まずは、待望の「大地の再生」の視点と技術を収めた本が1月18日に出版されました。矢野智徳さん、大内正伸さん共著による「『大地の再生』実践マニュアル〜空気と水の浸透循環を回復する」(農文協)です。

 私が矢野さんを追いかけ始めるひと月前、大内さんは矢野さんを追って屋久島の講座に参加。そこでこれまでご自身に欠けていた「空気の視点」に気づかれたと言います。大内さんとは、福聚寺や西日本豪雨被災地など数多くの現場で会い、半ば「同志」のように互いを鼓舞し合い、エールを送り合ってきました。

 矢野さんの本を作るのは、映画を作るよりも大変だったことでしょう。というのも、矢野さんはどんどん進化し続けていて、文章は修正が効くからです。
 待ち望む人が多いなか、紆余曲折の長い年月を経て、この本が産声をあげたことを心から嬉しく思います。
 なんとこの本、予約が殺到し、発売前から重版決定。1月22日現在、「環境・エネルギー部門」のベストセラー第1位に。本が売れない時代と言われますが、この本は長く生き残っていく本だと確信しています。

2/11(土)『杜人』上映会&出版記念講演会があります。講師は矢野智徳さんと大内正伸さん!

 講座に参加されたことのない方には若干理解が難しいところがあるかもしれませんが、最初から読了する本では決してなく、手元に置いて、パラパラめくるもよし、気になったところから読むもよし。繰り返し読むことでそこに書かれている視点、技術が馴染んでいくことと思います。その時こそ実践の時!
 ノコ鎌と移植ゴテという、両方買っても千円に満たない道具ですぐにできるのが何より「大地の再生」の強み。庭の隅やベランダの植木鉢から始めていただければ、植物の変化、土の変化が実感できるはずです。

1月9日、全国のスタッフが結集した上野原「杜の学校」新年会で行われた水切り作業。表層5cmの改善がすべての要
結作業で風の草刈り。ノコ鎌と移植ゴテは万能

 ここで、嬉しいニュースを。昨年4月15日の封切り館であるアップリンク吉祥寺、2022年の観客動員ランキングで、なんと第10位になりました。

  系列のアップリンク京都でも、同じく第10位にランクイン。

 こんなにスーパーインディペンデントな映画が、こんなにたくさんのお客様に観ていただけたのは、口コミという最古かつ最強のツールで応援してくださった皆さまのおかげです。ほんとうに、ありがとうございます!

 この間、監督トークで伺ったのは、東京・国分寺カフェスロー、そして埼玉・本庄シネマクラブ。
 1/14(土)カフェスローは『シチリアの奇跡〜マフィアからエシカルへ』を上梓されたばかりの作家の島村菜津さんと登壇、地域の方を中心に満席をいただき、熱い会になりました。

エシカルなカフェの草分け的存在、カフェスロー

島村さんは矢野さんとの出会いに加え、マフィアから没収した土地をオーガニックな畑に変えているシチリアの現在について話してくださいました

 

 1/15(日)本庄シネマクラブの上映会では、大地の再生関東甲信越支部の押田大助さんをはじめ「本気プロジェクト」の主催で、地元で活動する方々とのパネル・ディスカッション。
 本庄南小学校の岡村和美校長、地元・竹並建設会社の竹並達也社長、イベント等も積極的に開催するソルフロース(園芸店)の大澤さんらが、『杜人』の感想とともに、これから本庄市でやっていきたいことを熱く語ってくださいました。

写真左から竹並社長、奥に主催の「本気プロジェクト」の山内和彦さん(上越電気工業)、岡村校長先生、奥に司会進行を務めてくださった「本気プロジェクト」の関口佐知子さん(暮しのデザイン 季の香)、右に押田さん(中央園芸)

 岡村校長はもと美術の先生。「美術の力で学校を創る 子どもたちが輝く」方針を掲げ、「美術は人権教育!」を信念に、果敢に生き生きとした学校づくりを進める方で、なんと南小は現在不登校児童ゼロなのだとか。この日は、子どもたちが自分で選んだアースカラーの色画用紙に描いた「森」の絵が飾られ、どの絵も夢のような物語のような生き生きとした世界へと扉を開いてくれました。

 昨秋行ったクラファンのエンドレス・ゴールとして掲げた『杜人〜子どもエディション』のことを話すと、「全学年の児童に観せます!」と宣言してくださった岡村校長先生。必ず形にすべく、頑張ります!と約束しました。

 竹並さんはちょっと前まで本庄西小学校のPTA会長務めていた方で、学校のシンボルツリーの欅が枯れてきて伐採されることになったのを知って、校長先生に直談判されたそうです。話し合いの末、伐採は延期に。春に新芽が吹いて来るかどうか、様子をみることになったとか。 
 それを聞いた押田さん、仕事仲間の濱田さんと共に会が終了するのを待って欅の元に直行。とにかく、まずは点穴をあけられたそうです。

 さらに子どもたちと一緒にモグラ穴をあけることができたら、地下水脈が動き出して樹勢回復もあり得るでしょう。その時、何より自信を取り戻すのは子どもたちに違いありません。

 最後に、同じくクラファンのストレッチ・ゴール、『杜人〜インターナショナル・エディション(英語字幕版)』の制作についてお伝えします。字幕付けの作業は終わり、現在、公開の仕方とタイミングを検討しているところです。こちらが予告編になります。

 まだまだお伝えしたいことはたくさん。1/14にNPO法人グリーンワークスの会員研修として行われた中村桂子先生(生命誌研究者)のお庭の環境改善作業、また、播州織を現代に再生する西脇市のtamaki niimeで始まった「動物たちの家」プロジェクトなど、人工構造物を敵とせず、共存を図る新たな施工法への挑戦については、また次回。

 

 古きもの、新しきもの、無機物、有機物、植物、動物、人間、大地、空気と水、光と熱の、新たな循環と共生を目指して。『杜人』も進化していきます。

 2023年も、どうぞよろしくお願いいたします。

古いコンクリートの浄化槽が動物たちの家に!?
羊たちも
烏骨鶏も
みんなで住める家が
ほんとうに出来るのだろうか?
挑戦は続きます

   2022.1.22 前田せつ子

未来へのヒントは過去にしかない〜2022年のクリスマスに〜

 

 

 寒波襲来。停電の中、カイロと防寒着で一日一日凌いでいらっしゃる方、雪かきでヘトヘトに体力を消耗された方、体調を崩されている方々に、心よりお見舞い申し上げます。

 今朝の東京は風もなく、冬至を過ぎた太陽があたたかく降り注ぎ、植物も鳥もホッとした表情を見せていました。

 

 公開から8カ月と10日。息の長い応援をいただき、奇跡的にいまなおロードショー公開が続いています。改めて心より御礼申し上げます。ありがとうございます。

 この間、監督トークで伺った劇場、自主上映会場は合わせて48箇所。トークはのべ84回。85回目のアフタートークは12月27日、Morc阿佐ヶ谷で12:50回終了後に決まっています。光栄なことに、劇場からのオファーで、公開時に推薦コメントをくださった龍村ゆかりさん(『地球交響曲』プロデューサー)と一緒に登壇させていただくことになりました。

 残念ながら私には『地球交響曲/ガイアシンフォニー』という壮大で深い洞察と祈りに満ちた作品について述べる資格はありません。第一番がつくられた1992年、私は会社員。自分のことに精いっぱいで地球についてほとんど何も考えていなかったからです。あの頃、バブルは崩壊していたとはいえ、まだ経済至上主義は続いており、環境問題は現在ほど危機的状況ではありませんでした。実際には加速度を増して崖っぷちへと突き進んでいたわけですが、切実に感じとっていた人々はまだ少数派。実際、『第一番』が完成した時、人々の反応は冷たかったそうです。

 現実世界を生きる人々に、その生活の根底を揺るがすような警鐘を鳴らす人は疎んじられます。それが真実であればあるほど、なおさらに。

 でも、強い信念に貫かれたこの作品に共感・共鳴する人は少しずつ増え、昨年完成した第九番を含め全9作が、現在ではのべ250万人を超える人々に届いています。

 第一番はとくに生まれたての子どものように興奮と感動に溢れていますが、中でもこの時期思い出すのがアイルランドのニューグレンジ。先史時代(5000年前!)につくられた「羨道墳(せんどうふん)」(王の遺体が安置されている空間まで狭い通路羨道が続いている古墳)で、一年に一度、冬至の朝にだけ光が王の墓所を照らすつくりになっているものです。

アイルランド・ミース県の小高い丘に建つニューグレンジ(2017年夏撮影)。エジプトの大ピラミッドより古いという
この石を積むのにどれほどの労力と時間を費やしたのだろう
5000年前につくられて以来、一滴の雨水も漏れたことがない完全ウォータープルーフ。
最近になって入り口はコンクリートで補強されたが、屋根にあたる部分は一切手を加えていないとか。
冬至の朝にだけ真ん中の細い通路を通った光が中央の墓所に届く

 当時の人々が天文学、地学、物理学に通じ、現代でも及ばない高度な文明を持っていたことを証明するものですが、詳しいことはわかっていません。そして、この遺跡のシンボルとも言えるのが、大きな石に刻まれた文様。

5000年前の人々が描いた渦巻きの文様!

 現代人が「科学」と名づけて最先端をいっているかのように思い込んでいるものは、実はとっくに発見され、検証され、淘汰されたものかもしれない。この渦が示すものにいまこそ想いを馳せるべきかもしれません。

 哲学者の内山節さんが先週、こんな話をされていました。

「未来を考えるとき、ヒントは過去にしかない。一つの考え方が壁にぶち当たったとき、現在の問題意識をもって過去から学ぶことしかない」(12/17 陽楽の森連続講座第7 回「自然との関係を通して現代社会を捉え直す」)

 日本列島に平均して30〜40万人住んでいたという縄文人は、なぜ1万年以上も変わらない暮らしをしていたのか。なぜ生産性の向上など考えなかったのか。過去に学ぶことで精度を増した未来が見えてきます。

 さらに、こう仰いました。

「江戸期までの日本には、宗教も信仰も存在しなかった。神も仏も存在していたけれど、それらは特別の精神世界を意味するものではなく、日々の暮らしのなかに埋め込まれているものだった。かつて人間の中には死者も含まれ、自然の向こうには神仏があった。自然と生者と死者と神仏の社会。これがかつての日本の社会観」

 目まぐるしく流れてくる情報と一旦距離を置いて、見えない世界に心を寄せる静かな時間が、いまとくに求められているように感じます。

 12月27日のアフタートークは、龍村さんから未来への眼差しを示していただきながら、客席の方々と一緒に、新たな時代へのパースペクティヴが共有できるような場になるといいと思っています。劇場サイトで現在予約受付中。劇場では最後のトーク。お目にかかれると嬉しいです。

 

    2022.12.25 前田せつ子

P.S.年が明けて1月8日からは逗子のCINEMA AMIGOで新春アンコール上映があります。

また、1月22日上津役シネマ、2月4日〜5日ミクスタ・D・シネマ、2月25日〜26日東田シネマと、矢野さんの故郷・北九州での上映も続きます。

岡山シネまるむすび、江古田映画祭をはじめ、各地で新春以降の上映も決まっています。

2023年も、どうぞよろしくお願いいたします。

ニューグレンジへの道の途中、やってきてくれたクックロビン

 

冬本番を前に、足元から希望の灯を!

本格的な冬がやって来ました。

迎撃ミサイルを含む国防費の増大が閣議決定され、2011年の事故以降、極力削減と位置付けられていた原発を「最大限活用していく」ことが表明される一方で、地球規模の気候変動に対しては机上の「脱炭素シフト」が叫ばれるだけ。

国産のアサリを店でほとんど見なくなったように、海の生きものも、山の生きものも減っているのに、人間目線、経済優先で突き進む現状に、寒さ以上に心が凍りそうになります。

いや、こんなときこそ、足元を見つめて、地を這うように進み続けなければ。

封切りからこれまで、一日も途切れることなく全国で劇場上映が続いてきましたが、12月1日だけ空白を挟んで、2日からはMorc阿佐ヶ谷で4週間のアンコール上映中です。

こんなに長く上映が続いているのは、足を運んでくださった方が口コミで広めてくださったおかげです。
改めて厚く御礼申し上げます。

Morc阿佐ヶ谷では12月のイチオシ作品としてリーフレットの表紙に載せてくださいました。29日までですが、都内はそれがほんとうに劇場最後。27日12:50~上映回後には、最後のアフタートークに伺います。
この日は劇場からのオファーで、『地球交響曲』プロデューサー、龍村ゆかりさんと一緒にお話しさせていただくことになりました。
封切り前に推薦コメントをお願いしたものの、実際にお会いするのは今回が初めて。
龍村さんは、美しいピアノ曲を提供してくださった水城ゆうさんとも長く親交がおありだったので、そのお話も伺いたいと思っています。
Morc阿佐ヶ谷は『荒野に希望の灯をともす』をはじめ他の映画のラインナップも素晴らしいので、是非チェックしてみてください。

https://www.morc-asagaya.com/2022/12/15/moribito-g…

年が明けて神奈川では、CINEMA AMIGOで1月8日から再々再上映していただくことになりました。2022年を代表する作品として、だそうです。自主上映会が増えている中で、年を越して映画館で上映していただけるのはほんとうに珍しく、嬉しいことです。福岡の東田シネマさん、岡山のシネまるむすびさんでも、新春上映が決まっています。詳細は改めてお知らせしますね。

12月8日には福聚寺のある三春町で上映会が開かれました。全3回上映で、1回目、2回目は、なんと町内にある田村高校の1年生、2年生が授業の一環で鑑賞!

「行きつけの杜」プロジェクトで植林活動に取り組む三春VIVOの渡部友紀さんと登壇しました

「ずっと観ていたい映像でした」
「土の中の環境にそんなに興味はなかったけれど、水溜りが土砂崩れの原因になるとわかって、できることをやっていきたいと思いました」
など、嬉しい感想をいただきました。

一般向けの夜の回には、三春町の教育長も。
「子どもの頃を思い出しました 」
「コンクリートは全部外さなくてもいいんですね」
「人間は自然と共にしか生きられない。子どもたちに伝えていきたいと思います」と感想を寄せてくださいました。

上映の間に福聚寺を訪れて驚いたのは、ヤマゴケが増えていたこと。以前伺ったとき、「苔むした寺にしたいんです」と仰っていたご住職の玄侑宗久さん。やっと念願の苔が増えてきたことはもちろん、植生の変化、風の通りを日々感じていらっしゃることでしょう。

境内はやわらかい草地となり、苔むしてきていました
来春も見事な花を咲かせてほしい愛姫の桜

さて、10月24日日比谷図書文化館で行われた中村桂子さん(生命誌研究者)と矢野智徳さんのトーク、改めて紹介しておきます。短い時間ながら「生きものとしての人間」に迫る対談です。生きもの研究の最前線を走り続ける科学者と、自然と対峙して現場を科学し、真理を追求してきた造園家の言葉に込められた深い意図を、祈りを、感じてください。

25分のダイジェスト版はこちらです。

さあ、ここからは、この間のご報告を一気に。

別府ブルーバード劇場で92歳の館長・岡村照さんを囲んで

岡山県の西粟倉村にあるあわくら図書館にも呼んでいただきました。ここは合併を拒否し、林業でやっていくことを宣言した人口1500人の村。間伐材で作られた美しい図書館には村役場が併設、子どもの図書館と遊び場も!

下のフロアは子どもの居場所。滑り台で。ここは風力発電もメガソーラーも誘致しないと決めているとか

藤野藝術の家での上映会は、地域で活動している方々のパネル・トークが素晴らしかった!

地域の結が形になった上映イベントでした。アンケートの回収率も、書き込みも凄まじかったです

東慶寺の大地の再生スタディツアーにも伺いました。息を取り戻した境内は紅葉も鮮やかに、リスの鳴き声が響いていました

倒れたナラをそのまま生かして周囲を息づかせる

エンディングシーンに登場する日野おちかわの里で開かれた4回目の大地の再生講座では、水溜りを矢野さんが検知棒で突くと、一気に小川に! 

おとなも子どもも結作業

講座が終わって、焚き火を囲んでシェアタイム。子どもの遊び場をみんなで再生したこの場所は、落ち葉がまんべんなく大地を包んで、足底にあたる地面も柔らかく。来年1月14日には七生公会堂で上映会を主催されます(予約不要だそうです)。

2022年もいよいよあと2週間。
あたたかい希望の灯をともして、良い年をお迎えください。

 2022.12.18  前田せつ子

「コナラが教えてくれたこと」2000-2022@国立

 11月10日(木)、12日(土)、地元である国立で上映会が開催されました。12日は、Motion Gallery杜人プロジェクトのリターンで行われる矢野さんのトーク付き上映会。かつて国立市民だった矢野さんにとっても、私にとっても、熱い想いが込み上げる日になりました。

 初めて国立で、ドキュメンタリーの自主上映会をしたのが2007年10月。バブルの頃に音楽雑誌をつくり、好きなことをして、環境問題を真剣に考えることもなく暮らしてきた私が初めて「市民運動」として行った上映会でした。

「いのちの海に放射能を流してはいけません!」

 リンカランという雑誌で連載を担当していた辰巳芳子さんの怒りを目の当たりにして、慌てて観に行った鎌仲ひとみ監督の『六ヶ所村ラプソディー』。続いて観た『ヒバクシャ〜世界の終わりに』に、空が落ちてくるような衝撃を受けたのを忘れません。

 知らなかった、では済まされない、この国の、世界の原子力政策。受け取ったものが重過ぎて、誰かと分かち合わずにはいられず、仲間を募り、女たち12人の実行委員会をつくり、上映会を開催しました。延べ400人近い方が観に来てくださったこの日、鎌仲監督が語られたこと。

「イラクに落とされた劣化ウラン弾からの被曝で子どもたちが亡くなっていく。その原料は日本の原発から排出された核のゴミだった。ラシャという少女は私に言った。『私を忘れないで』。その約束を果たすために私はドキュメンタリーを撮っている」

 鎌仲監督の映画は全部国立で上映すると決めて、2010年、ピースウィークinくにたち「まちじゅうが映画館」で『ミツバチの羽音と地球の回転』を上映し、2012年『内部被ばくを生き抜く』、そして2015年、原発事故後の女たちの奮闘と希望を描く『小さき声のカノン』をくにたち市民芸術小ホールで上映しました。

 その時一緒に実行委をやった仲間たちが、今回「くにたち映画祭2022」の一環として2日間、さくらホールと芸小ホールで『杜人』を上映してくれました。私にとってはもちろんですが、12日の上映会は、矢野さんにとっても大切な会になりました。

 2000年。かつて矢野さんが国立に住んでいた頃、一本の立派などんぐり(コナラ)の木が伐採されることになりました。まちができる前、雑木林だった頃からたくさんの生きものを住まわせ、木陰をつくり、実をたわわに実らせて小動物たちを育んでいたその木が人間の都合で伐られることになったとき、多くの市民から声が上がったそうです。

「なんとか生かす方法はないものか」と、有志が矢野さんに相談、矢野さんは「引っ越し」に挑戦しました。

 クレーン車を使い、歩行者も止める大きな工事。かかる費用は、「百歳どんぐり募金」を募ったそうです。

見守る市民(当時の写真)
交通規制で歩行者を止め、クレーン車も使う大工事。なんとかコナラをいのちを繋ごうとしたが……

 けれども、泥水がしみ込んでコンクリートのように硬くなった地下3mの礫層を穿つには時間が足りず、移植後1年半に渡って必死に手を尽くしたものの、結局コナラが新たな場所で息をすることはありませんでした。市民の祈りは届かず、結局枯れてしまったコナラの木。そのことを矢野さんはその後もずっと宿題として抱えていました。

 コナラの木の移植を試みた大学通りと、矢野さんと出逢うきっかけになったさくら通り。芸小ホールに向かって歩きながらフィールドワークを行うことを決めたのは上映会3日前。にもかかわらず、岩永都議や当時を知る重松市議、小川市議、古濱市議をはじめ多くの市民が参加してくださり、一緒に歩きました。

「まさに、この場所です」と矢野さん。3m下の礫層に泥水が詰まり、コンクリートのような硬盤層を形成。
歩行者規制の時間制限でそこに穴をあけることができなかった

 

 大学通りも、さくら通りも、道路側溝と泥水が流れ込んだ礫層に囲まれ、抜きのない植木鉢になっていること、それで樹木が弱っていること、でも、それは移植ゴテ一つで改善できることを説明しながら、いまは谷保第三公園に横たわり、ほかの木々の呼吸を支えているコナラの木のところへ出ました。

「このコナラと一緒に植えた低灌木たちが他の木たちの呼吸を繋いでいるんです」と矢野さん。
硬く締まり、泥水が流れ出す状態だった谷保第三公園の地面から泥水が出なくなったという

「コナラの木を、無駄死にはさせない」。矢野さんの中で、上映会後のテーマは定まっていました。

「表層3センチでいい。少しやわらかくなったら、次は5センチ。小動物たちがやっているように
穴をあけることで空気流が地中に入っていく。息ができる環境になるんです」

 矢野さんのトークのテーマは「コナラが教えてくれたこと」。

 東京の大動脈が詰まって明治神宮の木々が瀕死の状態であること。

 大学通りという国立の大動脈も詰まっているけれど、そこに市民で点穴をあけていくことで息を吹き返すこと。

 矢野さんの話は、一本の木のいのちに向き合うことは、あらゆるいのちの根源に向き合うことであり、植物のいのちへの鈍感さはあらゆるいのちへの鈍感さに繋がることを実感させてくれました。

 都市のど真ん中で起きていることも、わずか11年で事故被害などなかったかのように推進に舵を切った原子力政策も、森林、山の生きものを薙ぎ倒して進む再エネも、根っこは同じ。でも、絶望している暇はなく、足元を見て進むだけです。共感し、共に怒り、共に動くことができる仲間がいれば、できるはず。

300席の会場が満席に。実行委の情熱の賜物ですが、こんなに仲間がいることを心強く思わずにはいられません

 

青梅シネマネコをいっぱいにしたチーム青梅のメンバーも
じゃらんじゃらん小舎のみなさまも
会社員だった頃の同僚も
畑仲間も
実行委のみんなも!

 フィールドワークを含め、矢野さんのトークは改めて、何らかの形でお伝えしたいと思っています。どんどん宿題が溜まっていきますが、頑張りますので、気長にお待ちくださいね。

桐朋学園の大塩先生、ガーデンデザイナーの正木覚さんも参加してくださいました。足元からの環境改善、始めましょう

   2022.11.28 前田せつ子

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「ホピの予言」を伝える辰巳玲子さんとの出逢い

 11月5日、待望の対談が実現しました。

 アメリカ・インディアンと呼ばれるようになった人々の大切なメッセージを、『ホピの予言』という映画を通して、また、彼らとの交流や現地への旅を通して伝え続けるランド・アンド・ライフの辰巳玲子さんは、いつか矢野智徳さんと出逢ってほしいと願う方のおひとりでした。

 私が初めて玲子さんに出逢ったのは2008年。初めて『六ヶ所村ラプソディー』を観た自主上映会の主催者さんが、「絶対観たほうがいい」と『ホピの予言』の上映会を企画、開催。文京区での上映会にいらした玲子さんは、インディアンドラムを叩き、四方に祈りを捧げて、その会を始められたのでした。

 太古の昔から大地を護り、あらゆる生きものとともに暮らしてきたインディアンと共通する言葉、暮らし方、生き方を感じずにはいられない矢野さんと玲子さん。お二人に出逢っていただくことは、『杜人』を撮り始めた頃からの夢でもありました。

 「鬼の結と大地の再生まつり」と題された群馬県藤岡市鬼石での2日間のイベントの初日、11月5日。その場に響き渡ったのは、法螺貝とインディアンドラムと祈りの歌でした。

長命山寿光寺の中山ご住職率いる法螺貝隊と玲子さんのインディアンドラムと祈りの歌で、祭りの場は開きました
神流川(かんながわ)が流れる鬼石というまち。中山ご住職によると、古来、人は人知の及ばぬ畏れの対象を「鬼」と呼んだ。自然とは鬼であり、鬼石では節分日も「福は内、鬼は内」なのだそうです
倉を改装した会場は満員でした
大きな木が見守る中で
子どもも大人も楽しい祭りになりました
出展者の一つ、なないろごはんのオーガニック・ベジランチ

 第1部は上映会と監督トーク、第2部は1時間50分、辰巳玲子さんと矢野智徳さんのトークショー。始まってみればあっという間で、玲子さんは何度も矢野さんを「インディアン」と呼び、矢野さんはホピの生き方に共感。お二人の底を流れるものが合流し、新たなうねりを生み出す瞬間に立ち会えた気がします。

 この日のトークも、文字起こし、あるいは動画の形で、きちんとお伝えしたいと思いますので、しばらくお待ちくださいね。

「平和の民」ホピが伝えてきた人間の生き方を実践するお二人のトークは軽やかに弾みながらも深く、白熱したものになりました
たくさんの実行委員の皆さんの想いと行動の積み重ねの上に、実現した祭り

なぜ、この大木は伐られなければいけなかったのか。この場所から、また新たな物語が始まりそうです

 

泊めていただいたゴルフ倶楽部の宿泊施設からの眺め。ゴルフって……と思っていたけれど、元は自然の起伏地形の中での、牧歌的で伸びやかな遊びだったに違いない……と思った朝でした

 11月の上映会は濃厚過ぎて書き切れません。まだまだ報告は続きます!

    2022.11.28 前田せつ子

 

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中村桂子さん(生命誌研究者)✖️矢野智徳さんのトークショーに、長南町「結」の上映会!

鳳凰のような雲が迎えてくれた千葉県長生郡長南町の蒼い空

 前回のご報告から、ひと月以上間が空いてしまいました。この間、各地の上映会が充実し過ぎて、ご報告が追いつかず、申し訳ありません。何回かに分けて掲載していきますね。

 さて、10/17に開催された朝日新聞ボンマルシェ編集部主催の上映会ですが、10/27朝日新聞朝刊中面に掲載されました。同じ紙面に、大地の再生士、佐藤俊さんのインタビューが掲載されていたこともあり、反響もたくさんいただきました。ありがとうございます。

全面広告となっている紙面ですが、これに関しては広告でもタイアップでもありません

この日の上映会参加は読者の方から抽選ということもあって、環境に強い関心のある方が集まってくださったように思います

 

司会進行はボンマルシェ編集部の土井さん。話しやすい雰囲気をつくってくださいました

 10/24には、日比谷図書文化館内にあるコンベンション・ホールで、上映会に加えて、生命誌研究者の中村桂子先生と矢野智徳さんのトークショーが実現しました。

主催はNPO法人Green Worksさん。中村桂子さんと矢野さんの初顔合わせとなりました

 この日のトークの内容は、こちらに文字起こしをまとめたので是非お読みください。

 YouTube(ダイジェスト版)はこちらです。

「生きものとしての人間は上から目線ではいけない。他の生きものと手を取り合ってこそ、この地球で生きていくことができる」と意気投合されるお二人が印象的でした。いつか別の場所で、腰を据えた対談が実現することを願わずにはいられません。

 10/30には、今年1月に国立から千葉県長生郡長南町に引っ越したアーティスト、聖原司都子さんの「この指止まれ!」に始まる上映会が、なんともあたたかい雰囲気の中、開催されました。オープニングは長南中学吹奏楽部7名による演奏で、最後は「わたしをつつむもの」。町の風景、そこに暮らす人々を象徴するような、優しく純粋な音の響きは、からだ全体に沁み通り、浄化してくれるようでした。

 上映会場には、赤ちゃんからご高齢の方々まで、なんと250名の方が訪れてくださり、音楽を提供してくださった山口洋さん、地元でフリーランスの木こりをしている田島俊介さんと共に、トークの時間も楽しませていただきました。地域の「結」を肌で感じる、ほんとうに素敵な上映会でした。

 この日の様子は、長南町の地域おこし協力隊で実行委員をしてくださった田島幸子さんがブログにまとめてくださいましたので、是非、お読みくださいね。

真ん中が「さっちゃん」こと田島幸子さん
右から実行委代表の聖原さん、山口さん、左が田島俊介さん。細田美紀さんからいただいた自然栽培の蓮根を手に、記念撮影!
この上映会をきっかけに、草の根の環境改善、地域の「結」が育っていきますように!

 渦を起こすのは、たったひとりの想い。誰かの純粋な願いとものいわぬいのちに寄り添い、世界が善き方向へ向かうことを祈る強い気持ち。その想いが地下水脈のように繋がり、じわじわとタフな草の根を伸ばしていることを実感する日々です。11月の濃厚な上映会は、続いてご報告しますので、しばしお待ちくださいね。

  

 12/2〜東京・Morc阿佐ヶ谷、12/3〜大分・シネマ5で上映が始まります。4/15〜続いてきた劇場公開もいよいよ最終。私も12/5、27には阿佐ヶ谷に伺います。自主上映会はこの後も全国で上映が続きます。是非、チェックしてください。

     2022.11.28 前田せつ子

封切りから半年。各地の上映と『阿賀に生きる』のこと

 4/15の封切りからまる半年が過ぎました。10月19日現在、沖縄シアタードーナツ、香川ホールソレイユで公開中。こんなに長く、途切れることなく劇場公開が続いているのは、ひとえに口コミと「この映画を観たい。上映してほしい」という声の力だと思います。ほんとうに嬉しく、ありがたいことです。10/30~深谷シネマ、12/2~Morc阿佐ヶ谷でのアンコール上映に加えて、11/18~別府ブルーバード劇場での上映も決まりました。初日には監督トークにも伺います。是非、地域で頑張っているミニシアターを応援してくださいね。

南紀白浜、三段壁

 一方、この秋は週末ごとに自主上映会も全国で開催。10月に入ってから、青山ウィメンズプラザ、創価大学、南紀白浜のクオリティソフト社内のホール、朝日新聞社内イベントホールに、監督トークで呼んでいただきました。

 どの会場にも主催者の方の澄んだ志と情熱、集まられた方の清新であたたかい「気」が通っていて、心が揺さぶられました。

 

女性たちが実行委を務められた青山ウィメンズプラザでの上映会。満員御礼でした
創価大学では授業の一環として教室で上映。フィールドワークに繋げていくそうです
南紀白浜での上映会はクラファンのリターンで実現したもの。自然栽培でみかんを育てるイベファームさん主催

 

ここでも実行委は女たちが元気

 

朝日新聞社さんのイベントホールで、ボンマルシェ読者さんを招待して開かれた上映会
ボンマルシェ編集部の皆さま。記事は10月下旬に載るそうです

  

『杜人』の旅は、さまざまな出逢いを運んできてくれます。

 実は1992年に公開されたドキュメンタリーの名作『阿賀に生きる』(佐藤真監督)を、私はこれまで観ていませんでした。それが、9月24日新潟シネ・ウインドに大熊孝さん(新潟大学名誉教授)が来てくださり、声をかけてくださったことから10月10日、16ミリフィルムで観る機会を得ました。『阿賀に生きる』30周年イベントで、大熊先生、撮影の小林茂さん、キーパーソンの旗野秀人さんらも集結。大熊先生のミニ講演やシンポジウムもありました。

アテネフランセで開催された『阿賀に生きる』制作30周年記念イベント

 この映画は、ご存知の方も多いと思いますが、文字通り阿賀野川流域で暮らす3組の老夫婦の日常を捉えたものです。湿地帯の、重く植物の根が絡み合った土を耕し、昔ながらの稲作を続ける長谷川さん夫婦。この川をゆく舟のほとんどを造ってきた遠藤さんご夫婦。そして、餅つき名人の加藤さんご夫婦。70代後半から80代前半の、永く自然とともに暮らす主人公の顔、言葉、動きには、人間という動物の本質が凝縮されているようでした。

 それは、自然の恵みと厳しさを両方知ってその懐に抱かれるように生きているということ。そして、暮らしの中で人と人が団子のようにくっつき合って、それが他の生きものにも通じ、情となって通っていること。

大熊孝先生のミニ講演。科学者の視点を超えて生活者の視点、生きものとしての人間観に貫かれていました

 かつて阿賀野川で遡上してくる鮭を「鈎(かぎ)流し」と呼ばれる一本釣りで何尾も釣ったという長谷川さんが、飲みながら「鮭の母性っていうのはよう……」と話し始めるとき、それは隣にいる妻のことを話しているようでもあり、生きもの全般を語っているようでもあり……。そのうちにぱたりと眠ってしまうシーンが、いまも目の奥から離れません。というか、思い出されて仕方がないのです。

 かつては木舟造りの名人だった寡黙な職人、遠藤さんが、長いブランクを経て舟造りを教える決心をして、出来上がった舟が滑るように川をゆく様子を見た日の嬉しそうな目とわずかに綻ぶ口元。

 80歳を超えた加藤さんが杵を振り下ろす様子、つきたての餅を一気に運ぶ動きには、とても真似できないと目を見張ります。

 この映画を撮ったのは20代の若者たち。ほぼ素人の七人が家を借り、3年間住み込んで、その地の風を感じ、土の匂いを嗅ぎ、川音を聞き、地域に暮らす人々と食べ、話し、笑い、生活して創り上げた一本の映画。フィルムの時代、膨大な製作費を集めた委員会の代表を大熊先生が務め、1400人から3000万の寄附が集まり、足りない1000万は、ロバート・レッドフォードが代表を務める映画祭の賞金で見事に補填されたそうです。

 大熊先生のミニ講演での「川の定義」、深く心に刺さりました。

「川とは、山と海とを双方向に繋ぐ、地球における物質循環の重要な担い手であるとともに、人間にとって身近な自然で、恵みと災害という矛盾の中に、ゆっくりと時間をかけて、人の“こころ”と“からだ”をつくり、地域文化を育んできた存在である」

 遠藤さんがガラスが1枚空いたままの窓をそのままにして、そこからツルを伸ばして咲く朝顔を愛しそうに眺める姿は、人間の進むべき未来を示しているようです。

 彼らは皆「新潟水俣病」の患者、被害者でもありますが、それが声高に叫ばれることはありません。

 いまは亡き監督の佐藤真さんは、どんな想いで彼らを、川を、撮り続けたのか。

「この映画はね、100年生きるよ」と言われたそうですが、映画に刻まれたいのちの在り方は永遠だと思います。

百年後に生かすために、いまデジタル・リマスター版制作のためのカンパを募っていらっしゃるそうです。
詳しくは(有)カサマフィルム 代表 ⻑倉徳生さん e-mail: nagakura★kasamafilm.comまで(★を@に変えて送信してください)

 またまた長くなりました。金木犀が満開です。どうぞ、去り行く秋を、満喫してくださいね。

 どこかの会場でお目にかかれたら幸せです。

   2022.10.19 前田せつ子

 

矢野さんと、矢野さんの秘書、マネージャー、現場スタッフ……数えきれない役を務める岩田彦乃さん。二人の笑顔はいつも自然体
実家の金木犀もいまが満開

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