草の根に倣って〜公開2年目に入ったいま思うこと

4月15日、公開1周年を迎えました。

2021年9月18日にスタートしたMotion Galleryのプロジェクトで389名、実際には別の方法でご支援いただいた方もいらっしゃるので、420名を超える方々から熱い応援をいただいてから約1年半。

広報宣伝は、ごく少数の新聞、雑誌、WEBメディア、ラジオを除けば、ほぼ口コミだったにもかかわらず、1年間で全国46の映画館、6つの非常設の映画館、4つの映画祭(ゆふいん、島根、くにたち、江古田)、208の自主上映会場で上映していただきました。今なお上映のお申し込みは続いています。

自主上映は15名くらいを対象とした会から300名近いもの、トーク付きやワークショップと連動している会までさまざまですが、「地域をよくしたい」という主催者様の根源的で切実な想いを中心軸に、集った方々の繋がり、連なりに支えられ、育てられ、どの会もあたたかく希望に満たされるものであったと多くの方からご報告をいただきます。

目には見えない人と人を結ぶ脈が途切れることなく打ち続け、参加された方が今度は主催者となって上映会を開いてくださっている流れを、心から有り難いと思います。そして、それは希望そのものです。

5月に咲くのが普通なのにひと月早く花を咲かせたナルコユリ。地下茎で伸び、乾燥させた根茎は滋養強壮の生薬としても知られる。実は毒性があって食べられないが、葉っぱも茎もお浸しなどで食べられるそう。花言葉は「元気を出して」「あなたを偽れない」「心の痛みのわかる人」

4月2日、柏崎での上映会には河川工学の第一人者、大熊孝先生(新潟大学名誉教授)の講演が。『阿賀に生きる』製作委員会に関わる中で「川」の定義が自身の中で変わり、その後は学生にこう教えたという。「川とは、山と海とを双方向に繋ぐ、地球における物質循環の重要な担い手であるとともに、人間にとっては身近な自然で、恵みと災害という矛盾のなかに、ゆっくりと時間をかけて、人の“からだ”と“こころ”をつくり、地域文化を育んできた存在である」

「草の根」とは、小さな市民運動のたとえではありません。

溶岩流が流れ下った噴火口を観察していた矢野さんは、そこで草の根の本当の意味に気づいたそうです。

「植物が芽吹くなど想像できない過酷な環境に一番にやってくるのは草。一番手の草が枯れると、その草の根がつくった空気の通り道めがけて二番手がやってくる。二番手が枯れると、今度は三番手。草はそうやって、自身が枯れても根を残し、次の草が生きていきやすい環境をつくる。それが本当の草の根」

これからの時代に向けて、本気で草の根に倣いたいと背筋を伸ばす想いです。

初夏に咲く野菊、ミヤマヨメナ。山野に自生する

さて、これからに向けてみなさまと共有しておきたいことを書いておきます。

1)クラウドファンディングのネクスト・ゴールでもあった『MORIBITO: A Doctor of the Earth』(英語字幕版/インターナショナル・エディション)の貸し出しを開始しました。国内での上映はもとより、英語圏での公開に向けて本格的に取り組んでいきます。

2)フランス在住の方からのお申し出、ご協力により、フランス語字幕版を現在制作中です。フランス国内での上映(映画館、イベント、自主上映会)に向けて準備を進めています。

3)ナレーションや背景音、会話のすべてに日本語字幕が付いたバリアフリー字幕版(制作:シネマ・チュプキ・タバタ)の貸し出しを開始します。音声ガイドについては、申し訳ありませんが、もうしばらくお待ちください(DVD/Blu-ray化までお待ちいただく可能性もあります)。

4)長くお待たせしていたオンラインでの自主上映会を8月以降の開催で受け付けます。

5)クラファンのエンドレス・ゴールである「チルドレンズ・エディション」については、現在各方面からご意見やアイディアをいただきながら進めています。加えて『杜人』に収録できなかった現場や新たな現場を含め、続編というよりは番外編(スピンオフ)に近い映像の制作も考えています。続報をお待ちください。

6)YouTubeチャンネルで「矢野智徳 大地の再生の手法」①~④をアップしたまま間が空いてしまいましたが、新たな手法⑤~を順次アップしていきたいと考えています。『大地の再生 実践マニュアル』(矢野智徳/大内正伸 著 農文協発行)を実践する際の参考になればとも思っています。Setsuko Maedaのチャンネルをご覧ください。

なお、これまでの動画については、こちらにまとめています。

「木」と「土」と「人」の物語だから「杜人」。

撮影を始めて半年くらい経った頃にふと浮かんだ言葉を、北極星のように仰ぎ見ながら歩んで4年半。矢野さんが大切にしている「杜」の意味が忘れ去られていく中で、この言葉が多くの方に届いたことは何より嬉しいことです。

ただし、この物語の主人公は矢野さんではありません。

山に霊性を見、魂が還る場所として敬い、畏れ、川を友として親しみ、海を母として愛し、自然と共に暮らしたかつての人々。

生態系の輪の中に在った動物らしい人間。

それとは正反対に、いま社会が向かっている方向は、五感を無視し、手足さえ使わずに仮想空間を生きる人間へと駆り立てている気がして仕方ありません。

2011年の原発事故などなかったかのように原発の再稼働、運転期間延長、さらには新設・増設が方針として示され、国民的議論のないままALPS処理水が海洋放出されようとし、再生可能エネルギー推進の名のもとに森林が伐採され、都市空間においても大量の樹木が伐採されていく中で、私たちはどう生きるのか。

100年後、1000年後の世界から現在の私たちを眺めたとき、愚かで哀しい民にならないために。

足元から草の根で、未来につづく「杜」を、一緒につくっていきたいです。

 2023.4.17 前田せつ子

昇り龍そっくりなご近所の庭のアカマツ。植えたわけではなく元々山林だった頃自生していたもの。真夏でもこの松の木陰は涼しく野鳥が集まる。宅配便の人も思わずひと息ついていくのだとか

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