願いは地域に根を張っていくこと

 青梅から新潟、そして南会津へ。秋の旅は続いています。

 青梅にあるシネマネコは昨年オープンした木造のミニシアター。6月に上映してもらった時がちょうど1周年記念で、初の満席御礼となったことも重なって、スタッフの方も喜んでくださいました。その後、アンコール上映も決まり、その延長線上で企画されたのが、シネマ✖️ライヴ企画〜山口洋ライヴイベント『未来につなぐ青梅の杜』。

 音楽を担当してくださった山口洋さんが、『未来につなぐ青梅の杜』をテーマに寄せられた写真・動画とコラボレーション。『杜人』と青梅を音楽でつなぐ、という志が漲る特別なライヴが、圓城寺裕子さん、熊田路子さん、遠畑瑞枝さんの「チーム青梅」を実行委として秋分の日に開かれました。

 ライヴ中の写真はお届けできないのですが、リハーサルと終了後の写真から雰囲気だけでも味わってください。

映像はHEATWAVEの作品に長く携わってきたアート・ディレクターの渡辺太朗さんが担当。テーマ別に選んでつないで、本番では動的に表現

 

当日のギターはこの三本!
青梅らしい、でも、誰にとってもきっと懐かしい風景。ジーンとする
山口さんは写真から受けたインスピレーションを音楽に変え、その場の空気を震わせていく
満席のお客様からたくさんの拍手をいただいて、無事終了。上映は10/13まで続きます!

 一般の方から「青梅」限定でお寄せいただいた写真はどれも、上手い下手など関係なく想いが溢れ、胸を掴まれるものばかりでした。映画の後のライヴという長丁場でしたが、お客様からは「青梅の魅力を再発見した」「なぜか涙が止まらなかった」「見慣れた風景なのにとても愛おしかった。この風景を大切に残していかなければ」「胸がいっぱい。このまま持ち帰ります」などの声が聞こえてきました。

 一夜限り、青梅限定のライヴ・イベント。生のギターが生み出す波、渦は、確かにその場の空気を震わせ、心に風と光を通すものでした。

シネマネコ初のライヴとなりました

 さて、9月24日は新潟へ。高田世界館に続いて新潟県内で2館目の公開となるシネ・ウインド。

市民映画館という名の通り、市民に愛されていることが伝わるミニシアターでした
嬉しい満席の札!

 ここで公開してもらえるようになったのは、星野千佳さんをはじめとするまちの方々の熱い想いと働きかけのおかげだと思っています。星野さんは大地の再生の手法で砂防林の松林の改善作業を続けていらっしゃり、この日は一緒に活動されている地域の皆さんもたくさん観にきてくださいました。なんと、『阿賀に生きる』製作委員会代表も務められた新潟大学名誉教授河川工学の大熊孝教授もみえて、10月10日に都内で開催される『阿賀に生きる』公開から30年記念イベントのお知らせもいただきました。

 アフタートークでは、星野さんと新潟大学農学部の粟生田忠雄先生にご登壇いただき、土中環境、新潟という地域の特性についてのお話をいただきました。

「新潟は日本列島の背骨。新潟が変われば日本が変わる」

 矢野さんの言葉を満席のお客様に伝えられた星野さん、矢野さんとともにこれからもフィールドワークを行いつつ研究を続けられる粟生田先生に、満席の会場からたくさんの拍手がおくられました。

とてもあたたかい空気で包まれた客席には、宮大工の小川棟梁、大地の再生メンバー、佐藤俊さんのお母様も!
シネ・ウインドの井上さん、9/30までよろしくお願いいたします!
(写真右から)星野千佳さん、斑鳩建築の小川棟梁、粟生田先生、初めて新潟で大地の再生講座を開かれた大島さん。松林の改善活動に参加したい、と仰って帰られるお客様もいらっしゃいました!

 さて、新潟からローカル線で南会津へ。

 

稲刈りを待つ黄金の波
かつては清流で、鮎釣り客で賑わった水無川。護岸工事ですっかり表情を失ってしまったとか
戦後、農業、林業を学ぶ学校として建てられた校舎を移築した奥会津山村道場
シンボルツリーの巨大な楡の木。弱っているのが気になるけれど……

「南会津地域をひらく未来研究会」主催の上映会は会津田島駅からすぐのホールで。

 

郡山や那須塩原からも参加してくださいました
実行委の馬場浩さんは自然農の農業者で南会津町議。同じく実行委の湯田芳博さん、馬場さんのご家族の皆さん、お世話になりました!

 上映後のフリートークで印象に残ったのは、会場からのこんな声。

「こういう映画、都会ではいいかもしれないけれど、このあたりじゃ受けないんじゃないの? 店の軒先にはどこでも除草剤が売られてる。自然が多すぎて慣れてしまって、草は敵以外何物でもないんだから」

 発言されたのは、70代を過ぎて有機農業を始められた方。近い言葉を、屋久島に撮影に行った時にも聞きました。でも、除草剤を撒いていた通学路も、「僕らが(風の)草刈りしますから」という提案が通って変化の兆が見えてきていつとか。もともと住んでいる人の意識も、移住者の視点、意識で変わっていくこともある。同じものを別の角度から見ると、別の良さが見えてくる。良いも悪いも見方次第。

 上映会に集まってくださった方は、それぞれに自分の地域をよくしたいと思われている方ばかり。実行委の馬場さんも、長く周囲から「農薬も肥料も使わないなんて、うまくいくはずがない」と変わり者扱いされてきましたが、いま国は輸入肥料価格の高騰で有機栽培を奨励する方向に動いています。

 封切りから5ヶ月と10日。この間、舞台挨拶&トークに伺ったのは計34会場、68回。上映をきっかけに『杜人』の根が少しずつ、その地に張っていくのを感じています。

「大事なのは、『足るを知る』ではなく『足らざるを知る』なんです」。矢野さんの言葉ですが、だからこそ、循環が生まれ、いのちは息づいていく。ここから、視点が変わり、行動が変わっていくことを、心から願っています。

   2022年9月26日   前田せつ子