「いのちをあきらめない」ことの重さと辛さ
この1カ月間に起こったことを、どこからどう伝えればいいのでしょう。
埼玉県本庄市の小学校の、一本の欅から始まった「杜人」第二章とも言える物語。
長いのですが、ここに記したのでお読みいただければ幸いです。
「息をしている限り あきらめない」樹木(いのち)の緊急避難プロジェクト
こんなに毎日、何かに追われているように緊迫した日々を送るのは、『杜人』公開前以来。いえ、それ以上かもしれないくらい、激流の上の丸太の橋を急いで渡らなければならない日々でした。
いくつもの開かない扉を叩き続け、かろうじて開いた隙間から入らせてもらい、交渉に交渉を重ね、無理に無理を重ねて市教委と協定も結んで許された樹木(いのち)の緊急避難。
GWの4日間に救出された木々は伐採が決まっていた43本中40本。
まさか、こんなにたくさんの木々を避難させることができるなんて思ってもみませんでした。最終日を迎えた朝には、まだ18本、掘り取られていない木が残っていましたから。
最終日の朝、「今日は打ち上げの食事会だから」と家を出る私に、娘が言いました。
「全部救えるといいね。じゃないと、打ち上げも悲しいもんね」
「そうだね」と答えながら、私は全部の救出は無理だろうと思っていました。
そもそも、与えられた期間は4日間。教育委員会と上限を設けず「可能な限り」と協定を結んだものの、教育委員会も全部を掘り取り、仮移植させるなんて想像もしていなかったと思います。
それができたのは、直前の呼びかけにかかわらず、GWを返上して、あるいは既に入っていた予定を変更して駆けつけてくださった大地の再生メンバーのおかげです。
総勢50〜70名/日 の職人さんやボランティア•スタッフさんが国立第二小学校に集結してくださり、奇跡の緊急避難が実現したのでした。
その様子はメディアでも報道されました。
TBS
学校建て替えで桜など100本の伐採計画に「待った」 緊急避難させる協定を結び校舎の端へ仮移植
東京新聞
国立の学び舎、木々40本残った 桜並木やキンモクセイなど 伐採計画に有志ら動く
朝日新聞
伐採寸前だった校庭の桜並木守りたくて 市に直談判、GWの突貫作業
asacoco
報道されたのはGW中の大救出作戦の様子。大型の重機とたくさんの人が動くクライマックスとも言えるシーンですが、物語はここで終わるわけではありません。
冒頭に記した通り、かかった費用は全額市民持ち。クラウドファンディングや顔の見える方からの寄付で賄うことになります。
それ以上に、仮移植した樹木のいのちをつなげていく、という大きな使命がのしかかっています。
救出できなかった3本の木についてはすぐに伐採はないことを確認し、打ち上げはすっきりした気持ちでできたものの、連休明けの水曜日、残せるかもしれないから移植しないでくれと言われていた木々の伐採が迫っていることを告げられました。そして、残していった3本も。その経過はこちらに。
大事な予定が入っていたのにそれをキャンセルして5月13日、国立に来てくださった矢野さんはじめ、2日前(!)の呼びかけに応えてくださった16名もの職人さん。
中でも予定外だったヒマラヤスギの救出作業は「いのちを最後まであきらめない」凄まじい執念と気迫が実現させたものでした。
最後に、残ってしまった桜が一本。飼育小屋の奥で、場所的に他から離れていたこと、また赤いテープではなかったことからGW中に見落とされ(見つけられていたとしても間に合わなかったと思います)、追加の作業では重機の関係で掘り出すことが不可能だった桜。
残していかざるを得ない状況の中、しみじみ眺め、「残してくれないかな。どうしても工事の支障になるのかな……」と見つめました。
「枝ぶりといい、立派な桜なのに……」
昨日(5月18日)、真夏日が続いたため、工事中につき立ち入りが禁止されている中、仮移植された木々の様子を見にいったプロジェクト•メンバーから送られてきた写真に愕然としました。
この木は子どもたちが「小人の木」と名付け、かくれんぼなどして遊んでいた木だったそうです。
人には忘れるという能力があります。「見ない」こともできます。でも、絶対に忘れたくないと思いました。
たった一本。でも、かけがえのない一本。ついこの間まで見事な花でみんなを歓ばせ、緑の木陰で飼育小屋の動物たちを守っていた木。
大切な、いのち。
このプロジェクトは、小さな市民の力を草の根のように細くつなげながら、まだまだ続いていきます。
2023.5.19 前田せつ子