「杜を破壊するのは人、杜を再生できるのも人、貴方の選択は?」
さて、ここで問題です。これは、ある人の「杜人」への推薦コメントなのですが、ある人とは一体誰でしょうか?
ヒント:昨年「○○○再生」という本を上梓した人。ちなみに「大地の再生」ではありません。
答えは「ソニー再生〜変革を成し遂げた異端のリーダーシップ」を書いたソニー前社長・平井一夫さん。現在はソニーグループ シニアアドバイザーであり、一般社団法人プロジェクト希望の代表理事です。
2012年、業績が下がる一方だったソニーの社長に大抜擢。いわゆる「生え抜き」ではなくソニー・コンピュータエンタテインメントの社長がソニーを背負うなんて、かなり大胆な人事、と注目を集めたのを覚えていらっしゃる方も多いはず。私もびっくりでした。というのも、平井さんはかつてCBS・ソニーグループの新人研修をともにした同期だったからです。
研修後、私はCBS・ソニーファミリークラブという通販会社に配属され、彼はCBS・ソニー(現在のソニー・ミュージック)の外国部に。そして、同じ大学出身の同期と結婚、プレイステーションの開発とともに西海岸へと旅立っていきました。その彼が、ソニーの社長に?
正直、ソニーは賭けに出たのだろう、と思いました。「外様」だからこそ、利害を伴う人間関係に縛られることもなく、これまでとは全く違う経営ができるだろうと考えたのかな、と。そして彼は、まさに「異端」のリーダーシップを発揮、わずか6年で見事にソニーを赤字から黒字へと「再生」させ、あっさりとバトンを次のリーダーに渡したのでした。
昨年、国立の書店でたまたまこの本を見つけ、読み始めたら、ソニー・ピクチャーズで映画化してほしいくらいスリリングな展開で、胸が熱くなる瞬間に溢れていました。子どもの頃からマイノリティ。日本とアメリカを行き来する子ども時代は、世に言う「帰国子女って、いいよね」なんてものではなく、疎外感に溢れ、アイデンティティを模索する「異邦人」の日々。企業という組織に縛られず、個の意見、やり方、多様性を尊重していく姿勢はその頃から培われたようでした。
座右の銘は「Where there is will, there is a way(意志あるところに、道が開ける)」。
かつての同期は巨大なビジネスの世界に身を投じたわけではなく、自分の意志を貫き、人に寄り添い、異なる意見を大切にした結果として新たな道を切り拓いたのでした。
彼の新たなプロジェクトの名は「希望」。貧困によって教育の機会のみならず子ども時代の貴重な経験の積み重ねを阻害され、彼らが多様な未来を思い描く想像力と人生の選択肢を奪われることのないように。これからの人生、彼はその希望を掲げて、活動していくそうです(この本の印税も子どもの貧困と教育格差の解消に全額寄付されるとか)。
人生の十字路で出会えたことに感謝しつつ、新たなチャレンジに心からエールを送ります。
2022年3月4日 前田せつ子