7月10日に続いてシネマ尾道第2弾! 『スーパーローカルヒーロー』(2014)『RESONANCE〜ひびきあうせかい』(2020)の田中トシノリ監督、『ジャイビーム! インドとぼくとお坊さん』(2020)の竹本泰広監督と三人でアフタートークをさせていただきました。15分という限られた時間の中で繰り広げられた熱いトーク、ぜひお読みください!
前田 本日は月曜日にもかかわらず、こんなにたくさんの方に『杜人 環境再生医 矢野智徳の挑戦』をご鑑賞いただきまして、本当に嬉しいです。ありがとうございます。『杜人』の制作、監督、撮影、編集、そしていまは配給も務めております前田せつ子です。この映画をつくるにあたって、この尾道はとても大事なところです。広島という、2018年の西日本豪雨が起こったときに被災された方も多いと思うんですけれども、映像にも出てきました、呉市安浦町中畑を撮影させていただいたこと、不躾とも思える行為だったと思うんですけれど、快く撮らせていただいたみなさまのおかげでこの映画ができました。あれから4年、また線状降水帯が活発な時期に入りましたが、大きな災害が起こらないことを心から願っています。
私がなぜこの映画を撮ったかといいますと、もともと紙媒体の編集者で、環境雑誌をやっているときに料理家の辰巳芳子さんが「いのちの海に放射能を流してはいけません」とすごく怒っていらっしゃったのを聞いて、六ヶ所村再処理工場のことを真剣に考え始め、『六ヶ所村ラプソディー』という映画を国立で上映したのが2007年。それが市民運動といわれるものをやるようになった最初でした。
原発のこと、放射能、再処理のことをみんなで考えたいという思いでした。その活動をしているときに市議にならないかという声がかかって、2011年、国立市議選に出ました。その直前に東日本大震災が起こって、選挙がなかったら山口の実家に娘とふたり、帰りたかったんですけれども、散々考えた挙句に選挙に出ることを決めて、放射能対策ということをとにかくやりました。その4年目に矢野さんに出会って、この人の価値観、この自然を見る目、すごい! と思ったとき、原発のことや再処理のことと同様に、みんなでこの視点を持って、自然とのつき合い方を考えたいと思って、映画を撮ったことは一度もなかったんですけれども、纐纈あや監督や、こちらにいらっしゃる田中トシノリ監督にいろいろ教えていただきながら、3年半追いかけて2年半編集して、やっとこの映画ができました。今日観ていただいて、みなさんの心に何か届くものがあったら嬉しいです。
早速ですが、今日は田中トシノリ監督と竹本泰広監督にお見えいただいています。お二人ともここを拠点に映画をつくっていらっしゃる方です。ご覧になった方もいらっしゃると思いますが、まさにここが舞台の『スーパーローカルヒーロー』をつくられた田中監督に、まずお話しいただきたいと思います。
撮られている方がいるならその方を応援すればいい
田中 田中トシノリと申します。僕もこの映画に出てくる矢野さんにすごく惹かれて、この方のやられていることって本当に大事なことだなと思って、映画をつくりたいと思ったんですね。矢野さんを撮って、大地の再生のことをもっと広めたいというか、深めたいと思って。それで矢野さんに手紙を出したら、もう撮られている方がいらっしゃいますよっていうことで、撮られている方がいるならその方を応援すればいいじゃんってなって。別に自分が食べたいものとかもみんなで食べたほうがおいしい、みたいなそういう性格なんで。それで前田さんのことを知って。
でも、前田さんがもともと映像をやられている方じゃなくて、今回初めてだということをうかがって、じゃあ自分が何かサポートできることないかなと連絡させてもらって、勝手に応援してたっていう感じですね。編集段階のものも見せていただいて、僕が最初に驚いたのは、映像です。初めてだから、そんないいものができるわけがないっていうふうに思っていたんですけど、すごく撮影を頑張られていて。いろんな現場についていって、本当に過酷だったと思いますし、矢野さんも僕が撮ったノブエさんという方とよく似ていて、あんまり人を寄せ付けない部分もあったかと思うんですけど、前田さんは近くまで行って、しっかり声を録られていたなっていうのが印象です。
前田 竹本さんは、いま初めてご覧になったんですよね。
みんなを待っているような映画
竹本 竹本泰広と申します。2年前に『ジャイビーム!インドとぼくとお坊さん』というドキュメンタリー映画を撮りまして、ここで上映させてもらって、そこで初めて監督っていう名をいただいて、(前田せつ子監督と)同じような感じで。トシくん(田中トシノリ監督)もそうですよね、映画映画してないと思うんですけれども、みんなドキュメンタリーっていうところが共通していて。でも、きっと共通しているのは、これを伝えないといけないっていう思いが先行して、結果的に映画になったっていうような感じなんだと思います。だから、この3人でここに立てているのが、僕はゾワっと嬉しいです。
この映画すごいっすよね。昨日もほぼ記録的な動員数でこのシネマ尾道が満員になってたんですけれども、なんでいまこの映画がすごくみんなを惹きつけるのか。今日初めて観たんで、それが何なのかなっていう思いで観させてもらいました。観てみると結構淡々とやってることが綴られて、あっ終わったっていう感じで、なんでなんやろっていうのがあったんですけれども、やっぱりいますごく必要な映画っていうのは強く感じたんですね。それって矢野さんがやってることであったりとか、前田せつ子さんの姿勢というか。
僕にとってこの映画は「待つ」、いろんな意味で「待っている」、「みんなを待っているような作品」っていうメッセージが来て、そこにいまの社会の閉塞的な、どっかに流れ出たいっていう思いが、その待ってくれてるところに流れていって、みんなを惹きつけるんじゃないかなっていうのが、今日観た率直な感想です。
前田 ありがとうございます。風穴を開けるって普通に言葉として使いますけど、本当にそうだなって。実際矢野さんのやってることってそうだし、ご覧になった方がみなさん人間関係とも重ねて捉えられて、家族と重ねて観ましたっていう方もいらして、閉塞感漂うこの世界、社会に風穴を開けてくれればいいなって思っています。
トシノリさん、さっきもうちょっと続きがあったという気がします。『スーパーローカルヒーロー』、私も観させていただいたんですけど、主人公である、この尾道のレコード屋(であり、野菜や豆、なんでも売ってる)「れいこう堂」のノブエさんって、ものすごく矢野さんと似ていらっしゃって。実は2018年、撮り始めて間もないとき、8月に大崎上島から向島に(講座で)向かうときに、矢野さんが会いたい人がいる、その人に会ってから行くんだということで、ノブエさんのところを訪ねられて。私も一緒に、そのとき食事をさせていただいたことがあります。
そこに立っただけで凄い人だとわかる
田中 その話、すごい面白いですよね。ノブエさんもそうだし、矢野さんもお互い一目置いてるっていう……。しかもほとんど会話してないのに、そうなんですよ。そういう世界があるんですよ、その人たちにはわかるっていうか、この人はすごい人だって。矢野さんなんて「れいこう堂」の前に立っただけで、ここの人はすごい人だっていうのを感じて、会いたいからってスタッフの人に連絡取ってもらったらしいです。なんかもうすごいなって。
前田 すごいですよね。その『スーパーローカルヒーロー』で信恵さんを撮られたときの感じっていうか、なんでこの人の映画を撮ろうと思われたんですか。
田中 そうですね、その質問に答えられるかわかんないんですけど、この3人の作品づくりの共通点として思ったのが、ある人物を追いかけてるわけですね。ノブエさん、矢野さん、佐々井秀嶺さん(仏教のお坊さん)。その中で何を伝えてどうしたいかっていうところが先にあって、それで作品をつくっていくんですけど、前田さんがつくっていく中で、どういうスタンスを大事にされたのか、ということを聞きたくて。
矢野さんとのやりとりの中で、たとえば映画の中で「結」っていう言葉が出てきましたよね。僕は最初、「結」っていうのはわかりづらいから外したほうがいいって意見させてもらったんですけど、矢野さんは「結」は絶対入れたほうがいいっていう、いろんな意見の中で前田さんが選択されていった思いとか。
矢野さんは自分を主役にしないでほしいとも言われたらしいんですよね。主人公にしないでほしい。それはたぶんノブエさんも、僕には言わないですけど、ノブエさんはそういう人だったので、僕自身もノブエさんをスターにしたいわけではなくて、ノブエさんがやってることとか、その想いをみんなに受け取ってほしいなっていう部分で、編集をしていったんですよ。だから、そういうスタンスというか姿勢っていう部分を聞かせていただけたらなと思います。
映画の先、何かに繋がっていくものを撮りたい
前田 やっぱり、本当に大変だったんですね。わからないので500時間も撮ってしまって、3年半で36の現場を回って1現場何回も行くところもあって、これ、どうやって1本の映画にするの? って。テレビシリーズみたいに現場現場で、「ビフォーアフター」みたいにまとめることができたら、絶対そっちのほうがやりやすいと思ったし、『プロフェッショナル 仕事の流儀』みたいな、ああいう型にはめれば楽だなっていうふうには思ったんですけど、絶対にそれにはしない、と思って。『プロフェッショナル』とか見てても「へぇ、すごい人がいるんだな」とは思うけど、その先の自分の行動には繋がっていかない。そうじゃなくて、淡々と矢野さんの言葉や、やってることを伝えることで、それはたぶん「矢野さんすごい」じゃなくて、一人ひとりの中に眠っていた想いを呼び覚ますものがあるだろうって思って。なので、全く真逆の撮り方、編集、そういうふうにまとめようっていうのは途中段階で立ち上がってきた想いです。
田中 ヤスくんはどうですか。いまの話を聞いて……。
竹本 それで終わらせないっていうか、次に繋がっていくっていうのを聞いて、同じだと思いました。僕らつくったものに対して、絶対繋がっていく、ただ映画があって楽しかった、じゃなくて、次に何か繋がる、行動に繋がるものであってほしい、っていうのがあって。
共感できる部分があって、実は僕、映画もやりましたけど、大地の再生の実践者でもありまして、5年前までは大地の再生のことって、意味不明というか、理解できないというか、なんでみんなこんなに一生懸命なんだろうっていう感じやったんですけど、いまはそれがすごく腑に落ちて、映画全体観てても「あ、こういうことなんだな」って自分の実感と照らし合わせながら感じられるんですね。
もしかしたら、今日きてくださったかたの中に、まだ意味はわからないけどなんかわかるっていう人がたくさんいると思います。尾道でも大地の再生活動をしてますので、もし興味あればぜひ僕らと一緒にやってください。見学でもなんでも、一緒に参加してやってほしいと思います。難しく考えなくても、物がそこにあったら、ちょっとそれを退けるだけで風がスーッと通ったり、なんか気持ちいいなって感覚、肩凝ってこうしたら(動かしたら)スッキリするとか、全部繋がってると思うので、そういう意味で今日いいなって思った部分を次の実践にどんどん変えてもらえたら、この映画も喜ぶんじゃないかなって思いました。
前田 本当にそうですね。「大地の再生 尾道」で検索すると出てきますか。
竹本 Facebookで「大地の再生 尾道」か、僕、竹本泰広に繋がってもらったり、あとは向島の歌港のフェリー前の畑でそういうのを実践したりしてるので、遊びに来ていただければ。
前田 ぜひぜひ。尾道の方だけじゃないかもしれないので、「大地の再生」で検索していただけたら、講座の案内とかも出てきます。
私も『ジャイビーム!インドとぼくとお坊さん』観せていただいたんですけど、すごい面白くて。佐々井さんって最初はちょっと変わった人だなと思いながら観ていたんですけど、最後は本当に人生の本質を掴んでいらっしゃる凄い人だとわかって。
「世界が燃えているんだ、原発が燃えているんだ、それを下から変えていくんだ」って仰っているのですが、その「下から」っていうところがいいなぁと。ノブエさんも佐々井さんも矢野さんも、表面じゃなく、上辺じゃなくて、草の根の下から変えていくっていう熱い想いがある方で。もしも観てない方がいらっしゃったら、『ジャイビーム! インドとぼくとお坊さん』、『スーパーローカルヒーロー』、もっと新作で『ひびきあうせかい RESONANCE』(田中トシノリ監督)、是非、観ていただけたらと思います。
『杜人』に関しては英語字幕をつけて、海外にも出していきます。子どもエディションもつくっていきます。そして自主上映も受け付けていきますので、お近くの方と観たい方はぜひ、お問い合わせいただけたらと思います。これからもよろしくお願いします。(お二人とも)ひと言、大丈夫ですか。
竹本 ひと言、言っていいですか。風を通しましょう。
田中 風を通しましょう。
前田 本当にみなさん貴重なお時間ありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。
田中トシノリ(映像作家) 1981年広島県生まれ。イギリス Cavendish College Londonで映像・デザインを学び、ロンドンにて映像制作・広告写真に携わる。3・11を機に帰国し、広島県を拠点に活動。映像プロダクション「歌島舎」を運営。福山大学・映像学科にて非常勤講師。2013年、ギフトエコノミーのコミュニティー『オカネイラズ』を発案、全国に広がる。映画作品として、『スーパーローカルヒーロー』(2014/監督・撮影・編集)、『ひびきあうせかい RESONANCE』(2020/監督・撮影・編集)、『ジャイビーム!インドとぼくとお坊さん』(2020/プロデュース・編集)。
竹本泰広(百姓、時々クリエイター) 1978年大阪府生まれ、広島県在住。俳優・パフォーマーとして大阪で活動し、東日本大震災をきっかけに社会活動に参加。フィリピン・バギオの環境NGOで働き、山岳民族の暮らしから環境を学ぶ。帰国後、広島県尾道市に移住し、農業、教育、バイオトイレの製作、珈琲焙煎、木工、執筆など様々に活動。 2020年、物々交換でしか買えない著書「うんちは宇宙なのだ」(チイサイカイシャプレス)発行。同年、映画『ジャイビーム!インドとぼくとお坊さん』を初監督。全国で草の根上映を展開中。